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18.私のヒーロー2

「……」

「……」


 無言のまま、力強いクルトに手を引かれて、私たちは家に帰り着いた。


「……」

「……ユア?」

「うっ……ひっ……」


 だけど、玄関の扉が閉まった瞬間、私は子供のように涙を流し、声を上げて泣いた。


「こわか……っ、怖かったよぉ……っ」

「……」


 クルトは私の手を握ったまま、わんわん泣いている私に身体を向ける。


「ごめんなさい……っ、わたしに、危機感が、たりないから……っ」


 えぐえぐと、言葉を詰まらせながら空いているほうの手で涙を拭う。


 安心したせいか、今更先ほどの恐怖がどっと押し寄せてきて、手と足が震える。涙が溢れる。


 怖かった。本当に怖かった。

 まさか先生が……。そして自分の身にこんなことが起きるなんて、思ってなかった。

 甘かった。深く考えていなかった私も悪い。


 もしクルトが来てくれなかったらと思うと……。

 やっぱり恐怖で涙が溢れ出る。


「……確かにユアは危機感が足りないな」

「ごめんなさい……っ」

「それに簡単に人を信用しすぎる」

「……そうだよね」

「だが、そのおかげで俺は助かった」

「…………」


 ふぅと息が吐かれるのと同時に、ポンッと頭の上にクルトの手が乗った。


「間違いなく、そこがユアのいいところだ。ユアがユアじゃなかったら、俺は今頃野垂れ死んでいたかもしれない。だからこれからもユアの長所が保たれるよう、俺が守ってやる」

「……クルト」


 ポンポン、と撫でるように頭の上で数回彼の手が動いた。

 その手から、彼の温もりが伝わってくる。

 悠真にも藤堂にも触られるのは嫌だったのに、クルトなら嫌じゃない。


 私は、クルトのことを信用した。信用して家に上げて、泊まらせた。


 今考えてもやっぱりとても危険なことだったと思うけど、クルトは私の信用を裏切らなかった。


 クルトは私が人を疑いたくないという気持ちを、守ってくれるの……?


「……ありがとう」

「ん。存分に甘えろ」


 もう一度鼻をすすってお礼の言葉を口にすると、クルトは親指で私の涙を拭って小さく微笑んだ。


 ……彼はさっき、私のことを大切な女性だと言った。

 前も、悠真の前で同じようなことを言っていた。


 深い意味なんてないのかもしれないけど、その言葉と繋がれた手、真っ直ぐ見つめられている視線に、私の胸はドクドクと熱く高鳴った。

 



     *




 後日。

 藤堂は学校を辞め、実家のある田舎に帰ったという話を聞いた。

 シャツとブラウスも郵送で送られてきたけれど、もう着たくないからそのまま処分した。

 でもとりあえず、これで安心。


 親に知られずに片づいたことに、私は安堵した。

 あの人たちに知られたら、きっとすぐにでもどちらかのところに連れて行かれるだろうから。


 そうなるのは絶対に嫌。だからあのとき助けに来てくれたクルトには、とても感謝している。



 ――ただ一つ。


 やはり一人で出歩くのは危険だと、クルトは学校が終わる頃になると迎えに来てくれるようになったのだけど……。


「ねー、あの人ヤバくない?」

「え、やば!! かっこよすぎ!! 芸能人?」

「……」


 校門付近で立っている日本人離れした顔立ちの、綺麗な銀髪(アッシュ)の長身の男に、女子生徒がキャーキャー騒いでいるのは無理もない。

 この世界の服を見事に着こなしているその姿は、モデル顔負け。とっっても目立っている。


「クルト君、今日も来てるじゃん! 本当にかっこいいよね」

「……うん」

「ユア!」


 私に気づくなり、爽やかな笑みを浮かべて近づいてくるクルトに、みんなの視線は釘付け。

 おかげで、学校中で彼が私の彼氏だという噂が広がった。


「今日は仕事の日だったな。行くぞ」

「うん……」

「クルト君こんにちは! 結愛のことよろしくお願いしますね」

「ああ、任せておけ」


 綾乃たちには彼氏じゃないと伝えているのに、彼女たちにまでニヤニヤしながら気を遣われている。


 どっちみち私はバイトに行くから綾乃たちとは別れて、クルトと並んで歩く。


「あの男はいなくなったし、もう大丈夫だと思うけど……」

「何を言っている。また何かあったらどうするつもりだ。あのとき俺がいなかったら、今頃どうなっていたことか」

「それは本当に感謝してるよ。でもどうして、わざわざ調べてくれてたの?」


 まるで保護者みたいなことを言っているクルトだけど、本当、クルトが見つけてくれて助かった。


 でもクルトには何も言ってなかったのに、どうしてそんなことしてたんだろ。

 手紙のことにも気づいていたようだし、やっぱり一人で家にいるのは退屈なのかな。


 そう思って聞いてみたら、当然だろ? というような顔で彼は即答した。


「言っただろう。俺がお前を守ると」

「……」


 爽やかすぎるその解答に、一瞬ドキリと鼓動が跳ねる。

 現代日本において、まさかそんな言葉を口にして様になる人がいるなんて……しかもとっても説得力を持つ人がいるなんて、現れるとは思わなかった。


「……そんなこと言って、本当は何が目的なのよ?」


 でも、彼はただで人助けなんてするような人なのだろうか?

 その代わり何か欲しいものがあるとか、食べたいものがあるとか、異世界に帰る方法を一緒に探ってくれだとか言うんじゃないだろうかと、そんな疑いの眼差しを向けたけど、相変わらずクルトは爽やかに笑って答えた。


「俺はお前を守る。お前は俺に住む場所をくれる。他に何かあるのか? ユアだってそうだろう? 何か目的があって俺を助けたのか?」

「あ――」


 この人、すごくまっすぐだ。


 確かに、私がクルトを拾ったのも、見返りを求めてではなかった。

 だからクルトは最初から私を信頼してくれていたんだ。


「……今日は何食べたい?」

「なんでもいいのか?」

「うん、今日は特別に頑張っちゃおうかな!」

「そうだなぁ……じゃあ、最初に食べさせてくれた、あの芋と肉のやつがまた食いたいな」

「肉じゃがね。そんなのでいいの?」

「それがいいんだ」



 ――華の女子高校生生活も残りわずかだけど、この人の彼女だと思われるのも、悪くないかもしれない――。



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