王子いじめる悪役令嬢
*これは会話文のみで成り立つ対話体小説です。
*地の文での説明が入りませんので、妄想力を働かせてお読みくださいませ。
「お、お前との婚約を破棄しゅるっ!」
「今、噛みましたわね、王子?」
「うううううるさいっっ!」
「だから、以前から朝の発声練習をご一緒にと申しておりますのに」
「お前が朝っぱらから王宮の中庭で発声練習をしているのは知っている。だが、何故私がお前と一緒に発声練習などしなければならないのだ?!」
「それで、破棄しゅるのですか、わたくしとの婚約を?」
「私の疑問をスルーするな! それに、何故わざわざ倒置法使うんだ!?」
「文章の好みは人それぞれですわ、王子。それで──破棄しゅるのですね? ファイナルアンサー?」
「くっ! 真似をするんじゃない! 婚約は……破棄する!」
「じゃあ、その理由を五十文字以内で述べてくださいませ」
「はっ?! 五十文字以内?! 何でそんな……」
「じゃあ、三十文字以内で」
「えっ……三十文字?!」
「じゃあ、二十文字以内」
「ちょ、何だか減ってないか?!」
「十文字以内」
「うっ……そ、そういうところだ! お前のそういうところが我慢できないんだ! その点、このココは優しくて慎ましやかだろう?!」
「そんな……嬉しいけど、ガブリエラ様に悪いですわ」
「あら? わたくし、あなたと違って顔も頭も悪くないのでお気になさらないで」
「なっ!? 私だって顔は悪くないわよ?!」
「それは失礼致しました。それで、頭の方はどうでしたかね? 学園の期末テストの外国語、あなたは何位でしたか?」
「そ、そんなこと今関係ないじゃない!!!」
「わたくしは三位でしたけど、確かあなたは最下位から数えて五位だったかしら? もちろん男爵令嬢である今のあなたには関係ないかもしれませんが、王妃の座を狙うのでしたら、関係ありますわよ? 王妃は国王のご公務を補佐する立場です。国王は三ヶ国語を話せれば支障はありませんが、王妃は少なくとも五ヶ国語を話せないと、お話にならないそうですわ。国王が話せないというなら尚更です。王子、今あなたは何ヶ国語話せますか?」
「う、うるさい! 言葉なんて母国語を話せれば十分だろ?!」
「ほらね、国王の公務の半分ほどは外交関係なのですよ? 未来の国王が外国語を出来ないとなると、半分以上の公務が王妃の肩にかかってくるとは思いませんか?」
「えぇぇ……そんなこと知らなかったわ! 外国語くらい、今から勉強したって覚えられるわよ! ね、レイナウド?!」
「え……外国語はちょっと……発音が難しくてさ……できるやつに任せればいいだろ?」
「……相変わらずですわね、王子。まぁ、わたくしは別に、婚約破棄したくないと言っているわけではないのですよ」
「婚約破棄してくれるのか?!」
「よかったわね、レイナウド!」
「ココさんでしたかしら? もし王子が、わたくしと婚約破棄をしてあなたと結婚したいと宣言した場合、あなたが未来の王妃になりますわよね?」
「えっ……いやだ、そんな未来の王妃だなんて。うふふ……」
「褒めてないのでぬか喜びですけどね? ちなみに、未来の王妃ということは、レイナウド王子が国王になるということですわよね?」
「そ、そうよ! 当たり前じゃない! 私はレイナウドを隣で支えるのが夢なの!」
「ココっ! そんなことを言ってくれるなんて、君は何て素敵な人なんだ!!」
「本当にそれでいいのですか?」
「はぁっ? いいに決まってるじゃない! むしろ未来の国王はレイナウド以外いないでしょう?!」
「ふむ……確かに、この王子が次期王位継承権を持っているという意味では間違いありませんが。わたくしという婚約者がありながら、他の女に靡くような薄情な者が将来の伴侶でいいのか、と申し上げているのですわ」
「……あっ!」
「な……ガブリエラ! なんてことを言うんだ?! ココ、ココっ! 信じてくれ! 私の真実の愛の相手は君しかいない!」
「それ、わたくしと婚約する時も仰ってましたわよね?」
「えっ……本当なの、レイナウド?」
「もちろん本当ですとも! 何なら、その時の宣言の記録が教会に保管してありますもの。お暇な時にでもご覧遊ばせ、おほほ……」
「ココ、こんな奴の言うことになど耳を傾けるな! 今の私は君だけを愛してるんだ!」
「はい、出ましたー! 『今の私』! 今の私って言いましたわよね、王子? 一年後のあなたは? 十年後のあなたは? 一体誰を愛してるんでしょうね? 最初の婚約の時から心変わりしたあなたは、もう一度心変わりしてもおかしくないですわよね?」
「……もう一度……心変わり……そんな、酷いわレイナウド!」
「ココ、しっかりしろ! だから、何だって言うんだ?! 王子だって人間だ。間違えることもあるさ。そもそも、お前との婚約が間違いだったって言ってるんだ、ガブリエラ!」
「ほらほら、こんなおバカさんでも本当に大丈夫ですか? 引き取っていただけるのですか? 婚約破棄は一度で十分な醜聞になりますから、二度目はないでしょう。人間誰しも間違いは犯すものですが、それを糧に成長してこそです。その言葉を盾に開き直るような男でいいのですか? その選択こそ間違っていませんか?」
「…………」
「──コ、ココ? 黙ってしまってどうしたんだ、ココ? こんな奴の言うことなんてほとんど口から出まかせだよ。気にしてはいけない!」
「本当によく考えた方がいいですわよ? 王妃になったら逃げ場もありませんもの。何年かしたら公務を放ったらかし浮気三昧の夫、自分に押し付けられる大量の仕事、口うるさい姑──」
「お、おい! お前今、母上を侮辱する発言をしなかったか?!」
「おほほ……何か聞こえまして?」
「口うるさい姑と言っただろう?! それは母上のことじゃないか! 何て奴だ!!」
「あら、嫌ですわ王子。わたくしは『口うるさい周囲もね』と言ったのです。まさかそれが姑と聞こえるだなんて──人間の耳は、自分に都合のいいように聞こえるようになっているらしいですわよ。つまり、王子は王妃様のことを口うるさいと思っておいでなのですねぇ~! この後、王妃様とお会いするのでお伝えしておきますわね」
「違う違う! 全然違うっ! ちょ、そこのお前! 発言を全部記録するな!」
「あら、婚約破棄に当たって、正確な経緯の記録は必要ですわ。そこのあなた、是非記録は続けてくださいな」
「──あ、あのっ!」
「あら、どうされました、ココさん?」
「私、やっぱりレイナウド……レイナウド殿下とのお付き合い考え直します!」
「えっ……ココ?! 何を言い出すんだ! 私のことを愛してると言ってくれたじゃないか!?」
「ええ……それはその……『その時の私』は本当に愛していたのです! ですが……」
「今の王子を拝見されて、お気持ちが変わったということですわよね?」
「は、はいっ! ガブリエラ様のおっしゃる通りです!」
「ほう……あなた、思ったより頭は悪くないみたいですね。よろしければ、優良で善良な上位貴族の殿方を紹介して差しあげても宜しくてよ?」
「わぁっ! 助かります、ガブリエラ様! 実は私も王妃なんて荷が重いと思ってたんですー!」
「ちょっと待ってくれ! ココ?! 君は私の味方じゃなかったのか? 国王となった私を隣で支えてくれるんだろう?!」
「レイナウド殿下、ごめんなさい! 未来の王妃という言葉に惹かれて、あなたを誘惑しただけなんです! あなたを奪い取って、ガブリエラ様の悔しがる顔を見たいなどと、愚かなことを考えていました──でも今、ガブリエラ様のおかげで、本当に大切なことに気づいたんです!」
「ごめん、何を言ってるかわからないんだけど、ココ……何だよ、本当に大切なことって──」
「ほら、おバカでしょう? 早まらなくてよかったわね、ココさん」
「はい! ガブリエラ様のおかげです! それじゃあ私はこれで失礼しますね! ガブリエラ様、未来の国王の調教頑張ってくださいね! それから、素敵な殿方の紹介待ってまーす!」
「えっ、ちょっ、あっ、待ってくれ、ココ?! ココぉ──っ!!」
「今まで王子が連れてきた女の中でも、断トツに察しがいいわね、彼女。わたくしが紹介する殿方とも上手くやっていけそうね。これで愛してる彼女が幸せになるんだからよかったわね、王子?」
「私のっ! 私の幸せはっ?! 何でいつもいつも私の邪魔ばかりするんだ、ガブリエラ?!」
「あら、邪魔などしておりませんわよ? うら若き乙女の将来のために少しだけ助言しているだけですわ」
「その助言が要らないって言ってるんだ! 毎回ぶち壊しやがって!」
「王子こそ、本当に婚約破棄をなさる気はあるのですか? 毎回毎回、レベルの低いご令嬢ばかりでわたくしが楽しめないではないですか」
「お前を楽しませるためにこんなことをしてるわけではない!」
「では、どんなおつもりですか? ああ、記録係のあなた……もう下がってもいいわよ。後でまとめたものを、大臣の方へ届けておいてちょうだい」
「はっ! 失礼致します!」
「お前の方こそ、私に不満があるのだろう? さっきも散々バカにしやがって……なのに何故さっさと婚約破棄に了承しないんだ?」
「それは……さっきも申し上げた通り、王子が碌な女を連れてこないからでしょう?」
「は? 碌な女じゃなくても、お前には関係ないだろうが」
「関係ありますわよ? 他でもないあなたのことを託すのです。わたくしの信頼に足る女性でなければならないでしょう?」
「…………」
「婚約破棄したいというならばして差し上げます。だからどうか、わたくしを言い負かすくらいの気概を持ち、あなたと国の未来を真剣に考えている方をお連れくださいまし。そうすればわたくしは…………」
「ガブリエラ……それほどまでに私のことを……私のことを本当に考えてくれているのは、やはりお前しかいないのだということがやっとわかったよ。これから心を入れ替えて真面目に勉強もしよう。いい国王となれるように頑張ってみる」
「あらそうですか……頑張ってくださいまし」
「ああ……ガブリエラ、どんな時も見捨てず側にいてくれてありがとう」
「きゅ、急に何をおっしゃるのですか?」
「おや……いつもの揚げ足取りはどうしたんだ、ガブリエラ?」
「とるような揚げ足ありませんでしたわよね?」
「そうか……お前の弱点がわかった気がするぞ」
「弱点などありませんわ」
「ガブリエラ、愛してる」
「愛して……ごふっ」
「愛してるよ、真っ赤になって可愛いな、ガブリエラ。何で今まで気づかなかったんだろう、ガブリエラはこんなに可愛いのに」
「か……可愛くなんかありません! ちょっと、おやめになってください! ん……んんっ!?」
「婚約者なんだ、キスくらいいいだろう?」
「よくありません! 婚約は破棄なさるのでしょう?! でしたらわたくしで遊ぶのはおやめくださいまし!」
「破棄はしない。お前と結婚する。もう他の女によそ見はしない」
「えっ……」
「愛してるよ、ガブリエラ」
「えっ……あの……その……」
「君も愛してると言ってくれないか?」
「あ……あい……」
「うん」
「あいし……愛してなんかおりませんわ! うわーん!」
「ああ、逃げられた……でも、いつかきっと愛してると言わせてみせる。私から逃げ切れると思うなよ、ガブリエラ。ふふふ……」
お読みいただきありがとうございます!