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悪役の令嬢は断罪シナリオで勝利をつかみ取る!

作者: エスミ

頭の中をゆるっゆるにして雰囲気でお楽しみください。



「クラッリス!貴様との婚約を破棄してやるぞ!」


あああああ!思い出しましたわ!?

そうわたくしが脳内で叫んだのは目の前で公爵令息である婚約者様がわたくしに婚約破棄を叫んでいるまさにその時でした。


この国の貴族の娘として生まれたわたくしは、幼少の頃より日々違和感と戦ってまいりました。

何があったわけではありません。ごくごく平穏な幼少期を過ごしておりました。

ですがそこはかとない違和感がいつも付いて回り、それはマジケン学園に入学する直前に婚約を交わした公爵のご令息のお名前に一層むず痒さを募らせはしたものの理由はわからず。

学園に通いながら交流を深めるよう父伯爵に言われて断れるわけもなく了承したのが二か月前。


そう、まだ入学して二か月しか経っておりません。

そもそもわたくしが婚約破棄を宣言されているのは講義の合間の休み時間の御不浄の前。

身も心もすっきりしたわたくしが講義室に戻ろうと御不浄の扉を開けた途端、びしりと指を突き付けられました。

乙女ゲームならせめて1年は時間をかけるのでは?と婚約者様と彼に寄り添う女生徒を眺め。

ん?乙女ゲームとは?と疑問を深め。

前世とそのゲームを思い出したのです。


なんというところで事を始めるのですか。

そんなツッコミも今は不要です。

断罪シーンで思い出してももう遅い?いえ、そんなことはありません。

これからが本番!勝機は我にあり!

いざ、参ります!


「ここでは皆様のご迷惑となります。場所を移しませんこと?」

「そんな言い逃れは聞けるか!」


本当にご迷惑です。ここは御不浄の前です。

そわそわしたご令息ご令嬢は決してわたくしたちの断罪シーンに気を取られているわけではありません。

早く通してあげなければ次の講義で皆様大参事です。


「せめて三歩横にずれましょうか」

「きゃああ、ルピンサーンセイくん☆わたしコワァイ」

-

婚約者にしがみつく女生徒はものすごく棒読みです。

女生徒、生徒……ですわよね?

ゲームでありがちのピンクの髪の毛のその方は、大変申し上げにくいことながら初々しさも溌剌さもあったものじゃない熟女にしか見えません。

結婚、出産の早いこの国では婚約者のお母様……かお婆様と言ってもおかしくないお年頃です。


「大丈夫か、ピーチルン♪」

「はぁい、ルピンサーンセイくん☆」


頭の痛くなるお名前を呼びあうお二人。

むぎゅっとたわわなお胸を押し付けられて婚約者様のお顔が引きつっています。がんばれ。

お二人が茶番劇を繰り広げている間に、わたくしはそーっと立ち位置を変えておきます。

バタバタと皆様が御不浄に駆け込んでいくのにほっとしながら、わたくしはこの場の勝利を掴むため話を進めることといたします。


「わたくしと婚約破棄、そうおっしゃるのですね」

「そうだ!破棄だ!」


婚約者も気を取り直したように叫びました。


「理由を伺っても?」

「そういう運命だ!」

「なるほど!?」


手を抜かずもっと設定を練ってきてくださいませ!

たった二か月で勝負に出たのでしたら、それなりの理由を用意しなければ破棄など出来るわけないではありませんか。

わたくしは仕方なく廊下の壁に手をつき、ぐっと息をつきました。

床に頽れるくらいはすべきかもしれませんが、それは、ちょっと、ねぇ。

ここは相変わらず御不浄の前なので、さすがに令嬢たるわたくしには難しいことでございます。


「そ、そんな。わたくしたちは家同士が決めた婚約者ではございませんか」

「真実の愛の前に家など不要!なぁ、ピーチルン♪」

「ルピンサーンセイくん☆わたしうれしいわぁ」


ご自分が言った真実の愛に物理的に震えるのはお止めなさい。そして棒読みはお止めなさい。

ここが本当にあのゲームの世界ならば、わたくしは悪役令嬢として進めなければいけない展開があるのです。

少しは協力してくださいまし!


「わ、わかりましたわ。どうしてもと言うのでしたらわたくしにも考えが……」

「待たせたな」

「ローロ、やっと来たか!」


無理やり次に行こうとするわたくしに横槍が入ります。

ご父君に法廷官吏長を持つローロ様です。

貴方が出てくる必要はございません!来るなら最初から待機して然るべきでしょう!


四角い眼鏡をくいと上げ、手にした広〇苑をも凌ぐ紙の束を持ったローロ様はわたくしを睨みつけます。


「公爵家からの依頼により調査を行った。貴女の罪はすでに明らかになっている」


え、それはわたくしの罪状ですの?たった2か月でそれだけって分刻みスケジュールですわよね!?

息をしているだけでも罪とかおっしゃいます!?


「今ここで詳らかにしよう。三の月末婚約成立」


ごくり、と固唾をのんだのはどなたでしょうか。

御不浄帰りの皆様がようやく落ち着いたようにわたくしたちをご覧になっています。

まさかすべてを読み上げるのか?とお時間を気にしている方もいらっしゃいます。次の講義まで5分を切っておりますもの。


「四の月初頭、依頼者と男爵令嬢が出会い、真実の愛に目覚める」


ローロ様は一度息を付かれました。


「以上だ!」

「ですわよね!?」


二行しかございませんわよね?わたくし何もしてませんものね?

紙束と言う余計な演出のためか文官志望のローロ様の腕がぷるぷるしていらっしゃいます。


「この私の腕を痛めつけようとは許しがたい!よって貴女を告発する!」


それはわたくしではなく依頼主の婚約者様に申し上げて!むしろ持って差し上げて!


ですが破棄宣言と告発、この二つがございましたらわたくしの勝機は見えてまいりました。

ピンチはチャンス!でございます。


「ふふふ……ほほほほほ!」

制服のポケットより扇を取り出しばさりと広げますと、悪役の令嬢たるわたくしは高笑いをいたします。


「くっ……ここで高笑いとは!観客の皆に遅刻をさせようという引き、ますます罪を重ねるとは貴様、血も涙もないのか!」

「ルピンサーンセイくん☆カッコイイ!」

「そうだろうともピーチルン♪」


一生懸命熟女生徒を離そうとされていますがもう少しそのままでお願いいたしますわ。


「もはやこれまで!わたくしの婚約者様を語る不届き者である!皆の者であえぃ!」


悪役ってこれであってますわよね?

前世にあったジダイゲキでは悪役の言葉として稀によくあったはず。


わたくしはバシッと扇を閉じます。


途端。


わたくしを中心に廊下一面を覆いつくさんとする闇が広がってまいります。


「ふふふ……ははははは!」

「なっ……まさかその声は、漆黒の†魔王†堕天使!」


闇の中に響くイケボ高笑いにローロ様が眼鏡をくいくいと上げながら解説してくださいます。

魔王なのか堕天使なのかはっきりいたしませんが、これでわたくしたちの勝利は確定いたしますわ!


「ようやく呼んだか我が花嫁よ」

「お初におめもじ仕りますわ。我が花婿様」


黒髪に黒眼に黒軍服に黒マントとまっくろくろすけな方でございますため、闇のどこにおわしますのかわかりません。

わたくしは適当な位置を決めカーテシーを決め込みます。


「クラッリス!よくぞ漆黒の†魔王†堕天使を呼んでくれたな!」

「きゃああ漆黒の†魔王†堕天使様カッコイイ」

「くっ、闇によってこの廊下にいるすべての生徒を足止めするとは罪状を増やしてくれる!」


外野の声はかまっていられませんわ。

わたくしはそっとエスコートを望むべく片手を差し伸べます。


「我が花婿様、どうかわたくしの手を御取りくださいませ」

「ふっ、この漆黒の†魔王†堕天使、そなたの期待に応えようではないか!ははははは!」

「きゃああ漆黒の†魔王†堕天使様すてきー」


あ、そろそろ笑っている場合ではございません。

ちょいちょいと指を動かしておりますと、しっかりと捉えられた感覚がございます。


「ではルピンサーンセイくん☆様、婚約破棄は承りましたわ」

「くくっ、新婚旅行でも参ろうか」

「婚姻証明書はこの紙束の666枚目だ!これに署名をせずのままとは!」

「クラッリス!貴様の尊い犠牲は忘れん!」

「ピーチルン♪もつれてってー」

「だが断る!はははははは!」


闇に溶け込むわたくし。

高笑いとともに辺りは光を取り戻し。


きーんこーんかーん……。


始業のチャイムに、大きな拍手が巻き起こりました。






国産オンラインRPG「まじけんたうらんわーるど?」は名前からしてタウンなのかランドなのかワールドなのかも定まらないゆるっゆるの世界観とシステム、国産かつそこまでメジャータイトルではないがゆえのプレイヤーと運営の距離感のなさが少ないながら評価を得ていたゲームでございました。

基本は剣と魔法の世界でしたが、ちょこちょことゲームスタッフがログインしては一緒に冒険したりやりたいイベントのアンケートを取ったりと、プレイヤーの希望が予算とスタッフの睡眠時間が許す限り反映されやすいゆるゆるのゲームだったのです。


そんなプレイヤーと運営の悪ふざけ企画の一環。

PCプレイヤーキャラクターシナリオコンテスト。

それは運営より提示されたフィールドやステージでアバターを使い制限時間内にシナリオを語り、いかにして勝利条件に至るかを競うコンテストでございました。


そしてわたくしは思い出したのです。

この世界がシナリオコンテストのネタ枠「婚約破棄・断罪部門」の舞台であることを!


わたくしよくぞ思い出しました!

そりゃあ違和感を感じますわよね!

婚約者様のお名前に(記号)が入っているってありえませんわよね!

と言うかピンポイントすぎませんか!

制限時間10分の世界ってどういうことですの!


ネタ枠の勝利条件はNPCノンプレイヤーキャラクターの魔王を呼び出す、もしくは同じくNPCの天使を呼び出すことでございました。

わたくしが前世加入していたパーティ『狩り!オッス!獲ろー!』ももちろん参戦し、魔王呼び出しを選択いたしました。

ですからそのシナリオで悪役であったわたくしは何とか魔王を呼び出すことにいたしましたの。


あら?

これでゲームシナリオが完了と言うことは?


「ふはははは!何を首をひねっておる、我が花嫁よ」

「あ、あの?」


今は闇の中。きっとコンテストの控室のような場所ですわよね?


「ご、ご協力ありがとう存じます。そろそろ戻していただけると……」

「何を言っている。これから新婚旅行と言ったではないか」


え?


「いえ、あの、これはシナリオと申しますか」

「しなりおとはなんだ?そなたは我を呼び、我に応えた。契約は成されておる。ははははは!」


闇の中からにゅっと出てきた腕に抱き込まれて、わたくしは慌てて顔を上げました。

黒髪に黒眼に黒軍服に黒マント。

ようやくご尊顔を拝見出来たわたくしは赤くなればいいのか青ざめればいいのかよくわかりません。


「照れておるのか、愛い奴め。すぐに夢ではないと思い知らせてやろうぞ」

「……えぇぇ!?」


シナリオ、ではなく?


「そなたの心の揺らぎはなんだ?人間の真似事をしたくばほれ、これに署名すればよいのであろう?」


そ、それは666枚目!?

いつのまに!


くらくらとふらつく頭を優しく撫でられ、額には唇の感触が降ってまいります。


え、これって現実?えぇ、現実ですわよね?

元婚約者様方はお馬鹿さんなだけ?

わたくしが漆黒の†魔王†堕天使様の花嫁……?


「類稀なる闇の力を有す我が愛しき花嫁よ。そなたの望み、この漆黒の†魔王†堕天使が叶えてやろうぞ」


うっとりとした声にわたくしは融かされるようにふわふわしつつある頭でお応えいたします。



「署名の前に……改名(リネーム)をお願いいたしますわ!」





END



他の話を考えている時にふわっと思いついてしまった作品です。

コメディって難しいですよね・・・。


登場人物紹介です!


----

・クラッリス

前世はパーティ『狩り!オッス!獲ろー!』のサブリーダー。ジョブは黒魔法師。

中身は20代後半の女性。

ゲーム内でルピンさんにスカウトされたので狙って付けた名前ではない。

本作の世界では名前に記号が入っていることにひたすら違和感を覚えていた。

ツッコミ属性。


・ルピンサーンセイくん☆

☆までが名前。熟女生徒さんはずっと呼び捨てにしてたってことです。

パーティ『狩り!オッス!獲ろー!』のリーダー。ジョブは怪盗がなかったので泣く泣くシーフ。

本作では公爵令息で前世の記憶はない。自分の名前に違和感?そんなものありません。


・ピーチルン♪

♪までが名前。ゲームのアバターに引っ張られて30代熟女のような15歳。切ない。

パーティ『狩り!オッス!獲ろー!』のメンバー。ジョブはハンター。

中の人が40代男性だったためシナリオコンテストでも棒読み賞を受賞した。


・ローロ

まともそうな名前だが眼鏡が名前にして本体。ジョブはインテリジェンス極振りの白魔法師。腕力がなさすぎてまともな杖が持てないという弊害が。


・漆黒の†魔王†堕天使

ちゅうに病満載のNPC。この名前でゲーム内でふらふらしていたスタッフ。ノリが良いGMとして有名。

本作ではちゃんと魔王様。

この世界?えぇ、現実ですよ?


・まじけんたうらんわーるど?

ロゴの色は"まじ"が金色、"けん"が銀色、"たう"と"ん"が赤、"らん"と"ど"が緑、"わーる"が青でした。

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もし少しでも気に入っていただけるエピソードなどありましたら、広告下の☆をぽちっとしていただけるととても嬉しいです。


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