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第8話、国王の悩み

 パーセル大陸の中央には、五つの国に取り囲まれながらも、一番の規模を誇る大国アルホロンが存在している。過去二百年は目立った戦もなく、平和な世が続いている。

 その大国を維持している中枢部、リント王宮のとある一角で、二人の男性がある問題に直面していた。

 ひとりはこの大国の王、名をアルバート・アルセス・ダウランドという。齢三十を越えたばかりであったが、既に賢君と評され、国民の人気は根強い。交通網や貿易の拡充、医療制度の改善、法制度による貴族優遇措置の撤廃を図るなど、国民があげる彼の成果は数多い。そして、彼の右腕として活躍するのは、今王の隣にいる人物、レイノ・ウィルコックス宰相であった。

 アルバートがおもむろに口を開く。


「アレクシスは、ここ最近、頻繁に王宮を抜け出しているようだな」


 レイノが玉座に座った主をちらりと見て言う。


「三日と空けず、お出掛けになっていると報告が騎士よりあがっています」


「護衛のほうは」


「抜かりなく。アレクシス様はまんまと気付かれずに抜け出していると思っているようですが」


 アルバートはくすりと笑った。


「まだ10歳だぞ。大人を出し抜くには早い。――それで、抜け出して何をしているんだ」


 アルバートは頬杖をついたまま、興味深げに、隣に立つレイノを見上げた。


「どうやら友人を作られたようで、一緒に遊んでいるようです」


 アルバートは頬杖から顔をあげた。


「友人だと。今まで、同じ年頃の少年を紹介しても、無下にしていたアレクシスが?」


 アルバートは嘆息した。


「前もたびたび抜け出していると思っていたが、ここ最近の頻度はそのせいか」


「アレクシス様も今は遊びたい盛りなのでしょう」


「そうは言っても、このまま、さぼり癖がついたら、後々に影響が出る。――教師たちは何と言っている」


 レイノは口の端をあげた。


「皆、口を揃えて、覚えが早くて助かりますと。今のところ、勉学に支障は出ておりませんが、アレクシス様が抜け出すのも、これが理由では?」


「どういうことだ」


 アルバートは意味がわからず問い返すと、レイノがおもむろに口を開く。


「アレクシス様は頭の良いお方ですから、教師が望む答えを自ずと理解しているのでしょう。それと同じく、自身の先も読めてしまって面白くないのでしょう。先が読めるというのは強みでもありますが、己の待っている先を――望まれた自分の姿を、教師を通してわかってしまうのは、本人にはつまらなく思えてしまうのでしょう」


「それはつまり、将来、王太子としての己をつまらなく思っているということか」


「正確には、『王太子として振る舞わなければならない己を』ですね。本来、アレクシス様の性格は不羈奔放なところがありますから」


 アルバートは苦いものを口にいれたように、渋面をつくった。


「弱ったな。それでは一体、どうしたらいいんだ。うまい解決策を見つけないと」


 首を捻り、ひとりでうんうんと唸りだす。

 賢君と評される王も、どうやらたったひとりの息子のことに関しては、ただひとりの父親に成り下がるほかないようだ。

 そんな王を見下ろして、レイノもまたひとり静かに嘆息したのだった。



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