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第7話、約束

 無事にたも網を老人の言われた岩の下に返したあと、公園の入り口まで二人で歩いていると、アレクシスが立ち止まった。

 また次の約束だろうか、クリスティーナも立ち止まって、アレクシスの次の言葉を待った。


「なあ、また会えるか」


 期待通りの問いに、クリスティーナは顔を輝かせた。


「うん。また一週間後だね」


「――いや、次は3日後にしないか」


「3日後――」


 そんなに頻繁に抜け出せるだろうか。クリスティーナの不安が顔に出ていたのか、アレクシスの顔に影がよぎった。


「駄目か」


 クリスティーナは慌てて否定した。


「大丈夫だよ! きっと行く」


 無論、絶対とは確信が持てなかったが、そう返事をしてしまったのは初めてできた友人をがっかりさせたくなかったからだ。そして、自分で可能な限りの力で、この約束を守ろうと心に誓った。

 アレクシスが顔をほころばせた。


「そうか――。じゃあ、3日後もここで会おう」


「うん!!」


 クリスティーナも笑ってこたえた。

 アレクシスと笑顔で公園の入り口で別れ、クリスティーナは帰路についた。

 三日後の約束に心浮き立たせて家に帰れば、待っていたのは、かんかんに怒ったペギーの雷だった。

 その日の夕食は罰として抜かれ、クリスティーナは早めに床に就かされた。

 寝台に寝転がりながら、クリスティーナは今日のことを思い返していた。暗闇のなか、他の感覚を閉ざされたのか、足はまだ川の中に浸かっている不思議な感覚がする。

 いつまで続くかわからないが、アレクシスが望むかぎり、この関係を続けよう。この縁が絶ち切られてしまえば、クリスティーナには前の、将来が決まりきったつまらない人生が返ってくるだけだ。色褪せた人生を送るしかないなら、今だけでも楽しみたい。どうせ偽りの姿では長く続かないのだから。


(そう。この幸せが得られるのはきっと今だけ)


 それでもこの弾むような日々が少しでも永く続きますようにと、クリスティーナは目を閉じた。腹は空っぽだったが、今日のことを思い返せば、心はいっぱいで、満たされていた。



 それから、クリスティーナとアレクシスは3日おきに会うようになった。遊び場はいつも同じ場所で、川べりで老人と一緒に釣りを楽しむこともあれば、古いたも網を老人から譲り受けて、二人で魚捕りに興じたりした。ときには教えてもらった水切りでどこまで飛ばせるか、とっておきの石を見つけては競った。川はクリスティーナ達に、飽きさせないことがないかのように、ふんだんに遊びの種類を提供した。

 クリスティーナが家を抜け出すことが多くなると、ペギーは毎日ぴりぴりするようになり、時には玄関前で帰りを待ち伏せていることもあった。そんなときは男の子の格好をしていることがばれやしないかと、内心盛大に冷や汗をかきながらも、そっと裏口を通った。

 兄の服は、クリスティーナにとって、命綱であり、取り上げられてしまえば、二度とアレクシスに会うことは叶わない。そして、ばれてしまったあとは、ペギーはクリスティーナに男の子の格好をさせまいと部屋中嗅ぎ回って、今後に備えることは言うまでもなかった。


 





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