大神殿
信仰というモノはいつの時代でも求められるものだ
その教えが正しいか正しくないかはともかく、人々の心の根に根付きそれは人を社会を形作っていく
カツン、カツン、カツン、カツン
杖をつきながら立派に舗装された石畳の上を歩く老人
この辺りは特に綺麗に掃除され、ゴミ一つ落ちていない
「ほ…」
老人はゆっくりと進む足を止め、目の前の神殿を見上げた
「変わらんな」
ヴィッセルフォーレ大神殿
大神アルファーナを祀る神殿で王国の中でも三本の指に入るほど有名な建物だ
その大神殿の姿は60年前と何ら変わらずに老人の前にあった
「………」
入り口に至るまでの階段
その階段は50段ほどある
「………」
階段を見ながら老人はかつての光景を思い出していた
「やあ、私の名はニコルです」
階段の踊場でにこやかな笑みを持ってディーロ達に話しかけてきたのは神官の男の子だった
男の子といってもディーロ達と年齢は変わらないだろう
「あ、どうもディーロです」
差し出されたニコルの手を掴み握手するディーロ
これがニコルとの初対面だった
「私はラペラよ」
「初めましてラペラ」
「俺はイーガンだ」
「初めましてイーガン」
「エーリです」
「初めましてエーリ」
「さぁ、大神官ジュディレーナ様がお待ちです」
そう言うと階段を登り出すニコル
ディーロ達はニコルの後に続いて階段を登り始めた
冒険者として活躍し力を付けたディーロ達はいよいよ本格的に魔王退治への冒険に乗り出そうとしていた
そんな折り、前に知り合っていた大神官ジュディレーナから腕の良い神官を旅に同行させなさいとの神の啓示を貰い紹介されたのがこのニコルである
丁度ディーロ達と年齢的にも近い事もあり、何より回復術が使える者がパーティーにいない事でディーロ達に取っても非常に助かる申し出だった
カツン、カツン、カツン、カツン
階段を登り、中に入った老人は神殿内にある神を祀る祭壇までたどり着いた
人はいない
どうやら偶然誰もいない時に来たようだ
「ほ…懐かしいな」
そこには老人の記憶通りの以前とまったく同じ祭壇がある
それに時の流れは感じさせない
違いがあるとすればそこに立って祈っている美しい女大神官ジュディレーナがいない事だ
「あ、お久しぶりですジュディレーナさん!!」
高揚した顔のディーロは祭壇の前に立つ大神官に声を掛けた
スゥーとした静かな動きでディーロ達を見たジュディレーナは少し微笑む
それだけでディーロは有頂天になってしまう
その後ろでは微妙な顔のラペラが腕を組んでいた
「いよいよ魔王退治に行かれるのですね」
「はい、必ずや魔王を倒して見せます!!」
張り切っていうディーロにイーガンは笑いを堪えている
エーリは涼しい顔でそのやり取りを見ていた
「ニコル、ディーロさん達と共に無事に帰ってくるのですよ」
「はい、大神官様!!」
こうしてニコルが加わり五人パーティーで魔王退治の旅が始まった
「必ずや魔王を…」
神殿内にある長椅子に腰掛け祭壇とその前を見つめる老人
かつて確かにここにいた大神官ジュディレーナの姿を思い出して老人は少し寂しそうに笑んだ