酒場
街の様子は昼間とは打って変わり少し人通りが多くなった印象を受けた
明々と光る家々や店々の明かり
あちこちで灯る燃える街灯
それは老人の知っているこの街の風景に似ている
「夜は同じか…」
とはいえかつて街角のあちこちで見かけた遊女や店の客引きをする女達の姿はない
今は規制が強まっているのか、それとも違う場所でそういった店々があるのか分からないが、今ある店は飲食店が多数を占めている
「健全になったものだな」
この界隈でもいかがわしい店は多数あったが、今は消滅し無くなっている
もっとも、そういった店は若い頃には刺激的だが年を取った今となっては意味をなさない
寧ろまともな飲食店があちこちにあってくれた方が老体の身としては探し回る必要がなくて助かる
ガシャンッ
その金属音に老人は音のした方を見た
そこには冒険者と思わしきグループが店を見て回っている
いや…そのグループだけでなく、いつの間にか老人のいる通りには冒険者達が多くなっていた
どうやら夕飯時になったので、宿泊施設からか何かからか出てきたようだ
そしてその数は徐々に増えてきた
「ほ…」
老人は片目を上げる
昼間には殆ど見かけなかった者達が大勢目の前に現れた
それは冒険者達だ
かつて老人もまたそうであった
その懐かしみが沸き上がってくる
コッコッコッコッコッ
杖をつきながら老人は出来るだけ隅っこの方を歩いた
極力若い子らの邪魔にならないように道を開ける
特に腹が空いている訳ではない
単に夜の街の雰囲気を懐かしく思い見にきただけなのだから食べる店を探している若い子らの邪魔はしたくないのだ
老人は少し歩くとその場に立ち止まり一服した
そして見ると『立ち呑み居酒屋』と書かれた看板のある小じんまりとした店があった
その中には何人か立ってテーブルに肘をつきグラスの酒を飲みながら話をしているようだ
「立ち食いの店は昔もあったが…」
立ち呑みとは初めてだ
それに興味を引かれた老人は店をくぐる
「いらっしゃい」
多数のランプの光に照らされた店内は本当に狭い
人が10人入ればそれで一杯一杯の広さだ
「カンタブーザはあるかい?」
老人は酒を注文する
「カンタブーザですかい?、ありますぜ」
「では一杯くれんか」
「はいよ」
老人は注文を終えると店内をチラリと見る
正確には少し空けて立って酒を片手に話している二人の女の子達だ
「ほぅ…」
見た目には普通の女の子達だ
しかし老人の目はそれが単なる女の子達ではない事を見抜いた
普通に話しているだけだが、二人には隙がない
いや、一人は隙だらけだが何かあれば即座に切り返してくる気配に満ちている
一人は話しながらも常に周囲を窺って警戒を解いていない
「ほほ…」
それが分かる老人は二人の女の子達を興味深げに観察した