バカ大学生創一シリーズ⑤~創一と炬燵~
今更書くと思わなかった、お久しぶりすぎる創一シリーズ第5弾。
相変わらずです。
寒くなってきたのも当然の、11月。
紅葉かあったのかなかったのか──知らぬ間に幹から旅立った水分を無くした葉が、カサリコソリと音を立てながら躍るように移動を繰り返す。
空気は乾いているが、吸い込むとひんやりと清涼で心地好い季節。
──そんな中現れたそれは……人類の叡智の結晶でありながら人々を堕落へと落とす恐ろしいものであった。
その名は、炬燵。
まんまと炬燵の魔力に魅了された創一は、最早一体と化したかのように潜り込み、顔だけ出していた。
「創一……お前は蝸牛か」
呆れた顔でそう言う真実に、創一はひょっとこのように口を尖らせる。
そしてこの台詞である。
「違いますゥ~こたつむりですゥ~」
「いや、そういうのいいから」
流石は『創一と書いて小3と読む』男──彼は暑くても寒くても酔っていても素面でもブレない。幼稚な屁理屈。
呆れはするがいつものことなので、真実もいつもの様に気にせず炬燵に入って煙草に火を着けた。
「ああもう、俺は炬燵から出る事が出来ない身になった。 炬燵の魅力には抗えないよ……どんなイイオンナでも炬燵には敵わないさ……」
「お前彼女いたことないだろ」
「細かいこと言うな! 男だろ?!」
「……なんかそれ聞いたら、都市伝説の『隙間女』を思い出したわ」
隙間女──それは隙間にいる細いネーチャン。
突然外に出なくなった友人に連絡をすると『女が離してくれない』と言うので、イチャついているのかと放置していたが、暫く経ってもまだ出てこない。明らかにおかしいので家に行ってみると、友人はガリガリになっており、やはり『女が離してくれない』と言う。連れ出そうと中に入るも女の姿はなく……女なんていないだろ、と言うと友人は隙間を指さした。そこには隙間に入った細い女が──!!
……という内容の都市伝説である。
「炬燵ちゃんを都市伝説の妖怪と一緒にするなあああああ!! いるでしょ!? ここに! 炬燵ちゃん!!」
「擬人化すんなよ、益々それっぽいわ。 でもお前、真面目にたまに外に出ろよ? 筋肉衰えるぞ」
「真剣に心配されるとそれはそれで嫌だな……」
そう言いながらも創一は炬燵から出る素振りを全くみせない。
何故なら外は寒いからである。
「マコ……俺考えたんだけどさぁ……」
「うん?」
「自転車を漕ぐことで同時に発電を行う自転車型炬燵があれば、外でも炬燵を堪能出来るよな……」
「……それは……自転車型じゃ難しくないか?」
「そうだな……じゃあ足を前に出して漕ぐタイプの……こう、三輪車みたいなタイプなら……」
「っつーかお前眠いだろ」
「炬燵の魔力にやられた……」そう言って創一は寝た。真実は元々ここに大した意味もなく来ており、創一はいつもこうなのであまり気にしていない。鞄からレポート用紙を取り出し、課題に取り組むことにした。
暫く経つと創一は目を覚ました。
「マコ……」
「なんだよ?」
「俺は今、人生の岐路に立たされている」
またなんか言い出した……真実はそう思った。大体どうでもいいことを言うのは間違いない。
そして創一は案の定どうでもいいことを言い出した。
「トイレに行きたい……」
「行 け よ」
「炬燵から出たくないんだ!」
「うるせえ」
行きたいけれど、炬燵からは出たくない。
それは幼い子が寝小便をするのに似ている……かどうかは知らないが、それくらいの子供レベルの理由であることは間違いない。
大体にしてここは家の中で、彼は足腰もしっかりした20代男性──わざわざ自分の尿意や便意を他人に告げる意味など皆無。しかし彼は言う。……何故か?
「炬燵から出たくないんだぁ!」
それを訴えたいのである。
ただひたすらに。勿論そこに意味などはない。彼はそこに人がいる故、訴えているのだ。やがて別れを告げねばならぬ、愛しいモノへの己が悲痛な叫びを──
「いいから早く行けよ」
全くそのとおり。
結局トイレには行った。(当然)
ちなみに『トイレの前まで炬燵を引きずろう』という創一の案は却下された。
戻った創一は、また炬燵で寝た。
……それだけの話である。
冬はまだ、始まったばかりだ。
「……で?」っていう。
特にオチてはいなくとも、創一はそこにいるのです。
そう、もしかしたら、お宅の炬燵の中にも……
(オチのなさをホラー風で誤魔化す仕様)