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2Pカラーのバク

作者: あまみや

今日は温かい、眠りやすい夜だ。これならいい夢を見ることができる。またネタを仕入れられるぞ。そう確信して目を閉じた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 目の前にいたのはバクだった。悪夢を食べるという、あのバク。ただ普通と違うのはその色だ。通常なら前半分は黒、後ろ半分は白なのだが、こいつは違う。前は灰色で後ろは茶色。格闘ゲームでよくある2Pカラーといった雰囲気だ。

 くすんだ毛色の顔に黒く輝く瞳が妙に目立っている。その目はしっかりと僕を見据えていた。

 なにコイツ。そう思っているとバクが急に話しかけてきた。


「旦那さん、いいかげんにしてくださいよ。」

「えっ、何が⁉ ……というか、言葉、話せるんですね。」

いきなり切り出された話題が何を指しているのか分からず、当たり障りのないセリフを返す。

「いや話せるわけじゃないんですけどね、夢の中なら通じるんですよ。今はあんたの夢にお邪魔して会話してるんです。」

「へぇ~そういうシステムもあるんですか。食べるだけじゃないんですね。」

「え?あーそれは上位バクのことですね。夢を食えるのはあいつらで、ワシはそれとは違う、下位バクです。」

「バクに上位下位があるんですか。」

「あんたらの社会にも上級下級があるでしょ。あれみたいなもんです。」

「なるほど。で、今日はどういったご用件で?」

目の前の状況は理解できていないが、なんだかこのバクは親しみやすかった。不思議と彼の話しを聞きたい気持ちが湧いてくる。

「それなんですがね、ちょっとあんたの夢の質を上げてもらいたくて。」

「質を、上げる?」

「まあ順を追って説明しますよ。」



彼が語る内容は、なかなかに世知辛いものだった。


「まず上位バクは、あんたが知ってる通り悪夢を食べます。基本的に人間が見る夢を好みますね。」

「はぁ。」

「けど人間はただ寝てるだけじゃ夢を見ません。そこで動くのがワシら下位バクです。下位バクが寝てる人間に夢の種を食わせることで、それを元に夢の世界が作られます。あ、夢の種の製造方法は企業秘密ですんで。」

「僕が夢を見られるのはあなた方のおかげなんですね。」

「そういうことです。で、ワシらは人間ひとりひとりに担当バクとして付きます。お前はあいつの夢を、お前はこいつの。って感じで。担当の見る夢が上質であればあるほどワシらの評価も上がって、報酬がよくなるんです。」

「報酬とは?」

「まあ……上等な草とか。夢は上位バクが独占して、ワシらには普通の物しか回ってきません。」

「失礼ですが、支配者階級と労働者階級という解釈でよろしいでしょうか。」

「本当に失礼な……ですがその通りです。」

「それで、僕の夢の質が低いからあなたの評価が下がっていると。」

「そうなんですよ。あんたに付いてからというもの、ワシの株はガタ落ちです。上位バクどころか同僚からも憐まれる始末です。」

「僕の夢、そんなにダメですかね。」

「ダメなんてモンじゃないですよ、いっつも気色の悪い夢ばかり見て。こないだのヤツなんか食中毒を起こしたって上位バクからクレームの嵐でしたよ。返品も殺到して、仕方ないからあんたの頭に戻しました。最近はこんなことの連続です。」

「......バクって悪夢を食べるんですよね?自分で言うのもなんですけど、悪夢としてはけっこういいものを見れてると思うんですが。」

「あんたのは悪夢ってよりファンタジーに寄ってるんですよ。もっとこう、めちゃくちゃな内容で、苦悩にまみれたモノにしてもらわないと......。化け物が出る夢なんて論外ですね。」

「でも僕はあれのおかげで生計が立ってるんです。」

「そこも納得がいかないんですよ。ワシが夢の種を与えて、あんたはそれで小説だのなんだの書いて飯の種にして。なのにワシだけこんな目にあってる。おかしいじゃないですか。」

「それはその、すみません。」

「とにかくあんたには良い夢を見てもらわなきゃワシが困るんです。今日はそれを伝えに来ました。」

「えっと.....善処します。」

「頼みますよ、ホント。」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



目が覚めた。僕は夢の内容をしっかりと覚えている。まあバクと話すだけの夢をわざわざ上位バクとやらが食べるとも思えない。つまり彼は自分の評価がまた下がるのを覚悟で僕の夢に入り込んだ。それだけ切実な訴えだったのだ。


「質の良い夢、か。」



「でも苦悩にまみれた人生なんて送りたくないな......。」


彼の生活か自分の人生か、さすがに天秤にはかけられない。心の中で彼に謝って、僕は普段の生活を始めた。

バクが悪夢を食べるという話を思い出して、その時に夢を食べる上位バクと夢を生産する下位バクというイメージが出て来たんです。

で、僕はけっこう悪夢を見るんですけど、起きた時に内容を覚えていることもそれなりにあるんですよ。それって悪夢は悪夢でもバクの好みじゃなかったのかな...って思って。今回はその二つの発想を物語風に落とし込んでみました。


いつか苦悩する日が来ても、それがバクを助けていると思えば少しは気が楽になるかも!

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