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それからのハルは、覚悟が徐々に出来てきて、部活の時間にハルの叫び声が聞こえることは無くなった。部活の時間になると必ず聞こえていた声が、聞こえなくなった事を不思議に思った道具達が「ハルはどうしたんだ」と、言い始めたが、当の本人であるハルは、からかわれるのがイヤで理由を聞かれても、答えなかった。
そんな日が数日続いたある日、ソウがハルと同じバッティング用のカゴの中に入ってきた。その時ハルは、レンが天に任せるって言った意味がやっと分かった気がした。それにまた、同じカゴになった事が嬉しかった。
「ハル、久しぶりだな。元気にしてたか? そういえば、最近叫び声の代わりに、うめき声みたいなのが聞こえてた時があったけど、それも聞こえなくなったって事は、ようやく覚悟が出来たのか?」
「うん、時間はかかったけど、覚悟することが出来た!」
「よかったな、ハル。それにしてもすごいな。俺より早く覚悟が出来るなんて」
それを聞いたハルが、不思議そうにしているとソウが元々、バッティング用のカゴにいた事を教えてくれた。
「なんで、それを最初に教えてくれなかったの?」
「だって、覚悟が出来てないハルに、今度は痛いからな、なんて言ったら、余計に緊張しちゃうだろ?」
ソウがハルの事を気遣って、言わないでいてくれた事が、すごくありがたく感じたハルが、お礼を言うと、ソウが「だって俺達、友達だろ? それに、友達なら、心配じゃなくて気を使わなきゃ」と、言ってくれて、すごく心が暖かくなった。
「それに、俺達はボールだ。ボールにはボールの宿命がある。宿命からは、誰も、逃げられない……」
「うん!」
ハルは、ソウ、レン、テンから、それにキャッチボール用のカゴに新しく入ってきたシンとジンとは直接、話をしたわけではないが、たくさんの事を教えてもらった。
「みんな、ありがとう!」
それからのハルは、心に余裕が生まれ、小さいクラス替えも楽しめるようになった。
もちろん、部活の間中、聞こえていたハルの叫び声とうめき声が、再び聞える事はもう二度とない。
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