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バッティング用のカゴに移ってからのハルは、ソウがいない寂しさと、今までと違う環境に慣れず、なかなか眠れずにいた。だから、ハルは毎日、眠くなるまで周りを観察するようになった。すると、わかった事があった。それは、バッティング用のカゴに入ってるボール達は、どれもが疲れ果て、お喋りをする事なく、道具倉庫入れに戻ってくると、ほとんどのボール達が直ぐに眠りに付く事、そして、キャッチボール用のボール達が、夜遅くまで喋っている事が、バッティング用のボール達にとって迷惑だった事だ。
ハルはなんだか、バッティング用のボール達に申し訳なくなってきて、小さな声で謝った。すると眠っていたはずのテンが「いいんだよ、わかってくれれば。ハルも疲れただろう。明日に備えて、もう寝な。あんまり、寝てないんだから」と、言ってくれた。ハルは自分が眠れていない事に気が付いていたテンの事を、すごいと思うと同時にありがたく感じお礼を言った。テンは、ハルがバッティング用のカゴに入った日に、最初に話しかけてくれて、仲良くなったボールだ。
「あぁ、おやすみ。明日も、がんばろう……」
「うん……。おやすみ、テン」
すると、テンから寝息が聞こえてきた。なんだか、テンと喋ってると、ソウと喋ってる気がして安心したハルは、なんだか眠くなってきた。ソウもよくハルに「明日もがんばろう」と、言ってくれたのを思い出したからだ。
目を閉じ、静かにしていると、キャッチボール用のカゴに入っているボール達の話し声が聞こえてきた。もう夜も遅いから、声が小さい。気を使っているようだ。喋っているのは先日、新しくカゴに入ってきたシンとジンだ。シンは、ハルと同じように、速いのが少し怖いらしい。それを克服するには、どうしたらいいか、相談していた。その話が聞こえてきたハルは、思わず聞き耳を立てて、聞き入ってしまった。
「ジンは怖くないの?」
「怖いけど……。でもさ、シン。先輩達が言ってた、……覚悟が大事だって」
それを聞いていたハルは、レンの言葉を思い出し、思ったことが口から出ていた。
「……僕はボールなのに、今まで、いや、今も覚悟が足りないんだ……。だから、怖くて声がでちゃうんだ……」
「……そう、……かく、ご……、だ、ハル……。わか……れば、もう……、大丈夫……さ……」
寝ていたはずのテンが、急に喋りだしてハルは驚いたが、テンから直ぐに寝息が聞こえてきた。どうやら、ハルの声で少し目が覚め、話を聞いていたみたいだ。ハルがテンにお礼を言ったが、返事は返ってこなかった。本当に眠ってしまったようだ。
「それに、僕があの時、考えて出した答えは間違ってたんだ……。あの時の僕は、レンに言われた事が理解できなかった。それに、レンが言ってくれたコツの意味が分からなくて右から左に抜け落ちたんだ……。レンは忘れる事がコツだって言ってくれたんだから、ソウの事も考えるのは、もうやめよう。もしかしたら、まだ4月だから、僕と同じカゴに入ってくるかもしれない」
ハルはなんだか嬉しくなり、寂しさが和らいだ気がして、久しぶりに安心して眠りにつく事ができた。
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