17話 魔狼とどっちが強いかにゃ
黒く大きな狼は、魔狼と言うみたい。
ここの縄張りを支配するだけあって、かなり強そうだね。
でも、僕も結構強くなったし負ける気は無いよ。
それに、ここは僕の縄張りでもあるからね!
ほんとうのボスがどっちか、今ここでハッキリさせようじゃないか!
ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンッッ!!
「こっちに気がついたにゃ!」
「(多分、最初から気がついていたみたいだよ。ほら、子分たちが出てきた!)」
今の咆哮が合図だったのか、木々の間から次々に子分の狼が現れる。
どうやら、子分たちは普通のオオカミらしい。
「オオカミがいっぱいだにゃ。流石にあの数はヤバいにゃぁ……」
「(テトでもあの数は厳しい? それじゃ、まずはあのオオカミ達からだね)」
そう言ってから、オオカミの前に躍り出る。
傍から見たら、オオカミに追い詰められた哀れな猫だろうけど、僕は強いからね。
ゆっくり目の前を歩いた姿を見せつけてから、音もなく高速に移動する。
【潜伏】を使って、気配を消すと死角から二頭の首を狙う。
仲間の倒れた音に気を取られ、振り向いた三頭も次の瞬間には首から上がなくなり倒れていた。
辺りには血の鮮花が咲くが、どのオオカミもルカの姿を捉えることが出来ないでいる。
「凄いにゃ……。あれがルカの本気なんだにゃ!」
今までも狩を一緒にやってきた。
しかし、大抵が真正面から襲いかかり、そして何事もなく終わっていた。
つまり、余裕があり過ぎてその実力が分からなかったのだ。
それが今初めての窮地と言える状況になって、初めて本当の強さが垣間見える。
「にゃははっ、それでもまだ余裕そうなんだにゃ」
次々に倒れる狼達。
対するルカは、怪我をするどころかまだ息を切らしてもいない。
しかしそれでも魔狼は、ただ黙ってその様子をみているだけだ。
(あいつはまだ、襲ってこないにゃ。仲間がやられているのに随分と余裕をかましているにゃ)
と心の中で不思議に思うテト。
それでも油断せずに、ルカの邪魔にならないように少しはなれて様子を窺う。
オオカミ達は、もはやテトには目もくれずルカを必死に追いかける。
本来なら、熊ですら仕留めてしまうオオカミ達だが、たった一匹に翻弄されて焦りを覚えている。
それどころか、その異様な強さに恐怖を覚えたのかジリジリと後退し包囲網が広がってきていた。
そしてここで魔狼が初めて動いた。
ルカがいる場所を捉えているのか、迷いもなく魔法を発動した。
(しまった、今までのは時間稼ぎだったんだにゃ!)
テトが気がついた時には既に魔法が放たれててしまっていた。
魔狼から魔力が溢れたと思ったら、頭上に魔法陣が浮かび上がりそこから雷が放たれた。
辺りにいたオオカミ諸共、ルカを雷で焼き尽くす。
ギャオオオオーーン!!と激痛に呻くオオカミ達。
そして。
「ギニャー(痛だだだだっっ)?!」
ルカも雷の魔法が当たったらしい。
ついに、その姿が露わになった。
「(いったーい。流石はここの支配者を気取るだけはあるね!)」
しかし直撃は避けたらしく、まだピンピンしていた。
それどころか、何故か嬉しそうにしっぽを振っている。
(なんか、ルカって思ったよりも戦闘好きなのかにゃ?あんなに楽しそうなルカは久々に見たにゃ。
前にあれくらい嬉しそうだったのは、美味しいオークのお肉を頬張っていた時かにゃ?
ああっ、酒場の女将さんが作ってくれた魚の入ったご飯だったかも!
なんにせよ、あの顔はご褒美の顔。
だからきっと、今楽しくて仕方ないって事だにゃ)
テトは、ルカがこれから本気を出すであろう事が分かったので見通しの良い木の上に避難する。
テトの視力なら高い木の上からでも戦闘は見れる。
近くにいたってルカは見えないのだから、安全なところに移動する方がいい。
ウオオオオオオオーン!!
ルカを仕留め損なったと認識すると、魔狼が舌なめずりをしてから地響きがするほどの咆哮をあげた。
「(うわわわっ、吠えただけでこんなにびりびりするの?)」
ルカは独り言を呟きながらも、素早く裏に回り込む。
しかし待っていたかのように、そこに魔狼の魔法が飛んでくる。
慌てて躱すと、さっきまでいた場所におおきなつららのような岩が突き刺さっていた。
「(さっきから魔法ばっかり! でっかいオオカミの癖にずるいよ!)」
魔力を沢山保有し、変異したオオカミだこらこそ魔狼なのだが、そんな事はルカには関係ない。
自分も魔法が使えるのにだ。
「(そっちがその気なら、こっちだって! ファイア!)」
炎の初級魔法を放つルカ。
しかし、その大きさは極大だ。
放つ瞬間、あたりの雪が一気に溶けて一瞬で蒸気に変わる。
視界を奪われた状態で放たれた炎を躱しきれずに直撃を受ける魔狼。
たった一発で、全身から焼け焦げ煙が上がっていた。
怒り狂った魔狼は魔法を、乱発した。
「(うわっ、あんなの耐えれるんだ!? でもかなり効いてるみたいだね。全然違う場所に魔法撃っているし)」
ルカの言う通り、魔狼の魔法は狙いが定まっていなかった。
あちこちに岩の柱や、巨大な氷塊、雷が放たれる。
「うっひゃー、あの魔狼はすごい奴だにゃ。あんなのまともに相手にしたら命がいくつあっても足りないにゃ」
自分の村を襲ってきた魔導師達でも、あそこまで連続で魔法を撃つことは出来なかった。
あの魔狼が万が一町に降りたなら……。
恐ろしい考えが浮かんだが、今はそれよりもここを切り抜ける事に集中しないと考え、魔狼の動きを再び追う。
「(テトは、木の上に避難しているし、もう少し大きな魔法でも構わないよね? うん、やってみよう)」
ルカの頭の上にチリチリと電気が集まる。
お互いがお互いを反発しあい、弾けて広がっていった。
「(くらえっ、スパーク!)」
ルカの意思に従い、獲物を捉える電撃はその動きを止めることに成功した。
グオオオオオオッーン!!
視界が悪い中、体も麻痺されてもがく魔狼。
冷静さを失って、動く腕だけであたりを無闇に薙ぎ払う。
その威力は凄まじく、たったそれだけで数本の木が倒れてしまう。
「うわわっ! 危ないにゃ!」
テトが避難していた木も倒されてしまうが、なんとか隣に飛び乗り難を逃れる。
ほっと息をつくテトは、その姿を見た。
魔狼がもがき暴れるその真後ろに、小さな白い動くものを。
「(後ろを貰ったよ! これで終わりだ!)」
小さな前脚を物凄い速さで何度も掻くと、スキルが発動して空中に無数の見えない爪が襲いかかる。
次の瞬間、魔狼の体中から血が吹き上がった。
「やったにゃっ!?」
「(まだだよっ!!)」
ルカはさらに飛びかかり、トドメとばかりに魔狼の頸に食らいついた。
スキルにより、食らいついた以上に広範囲に圧力がかかりメキメキと骨が軋む音を立てて潰していく。
あまりの強さに魔狼は既に口から泡を吹いて気絶していた。
「(これで、トドメだっ!)」
最後の一咬みとばかりに、口を大きくあけた瞬間だった。
『ととをいじめるなーーー!』
予想しない所から、黒い毛の塊が飛んで来たのだった。




