1話 生まれ変わる…ってなーに?
ある日の事だった。
赤信号を無視して暴走していた車に轢かれそうになった子猫を助けようとして、子供が子猫と一緒に亡くなってしまった。
『なんという可哀そうな子だろう。子猫を助けようとした善なる心に免じて、新しい世界で幸せになるように生まれ変わらせてあげましょう』
それは神の気まぐれだった。
少年が目を覚ますと、そこは淡い光に包まれた世界。
さっき自分は死んだはずではと、辺りを見回した。
目の前には、綺麗な顔をした男の人がいた。
彼は言った。
『貴方は先ほど、交通事故で死んでしまいました。ですが、子猫を命を顧みずに助けようとした行いを評して新しい世界で生まれ変わらせてあげましょう』
少年は良く理解は出来なかったが、その男にお礼を言うと光の粒となって何処かへ消えていった。
『おや、お前はさっきの子猫じゃないか。どうやら一緒にここに来てしまったのだね』
子猫はその男が何を言っているか理解は出来なかったが、にゃーとだけ鳴いた。
『お前も可哀そうな子だね。そうだ、せっかくここに来たのだから、お前もあっちの世界に生まれ変わらせてあげよう。次は、幸せな生を歩むんだよ?』
やはり、男の言葉が分からない子猫はにゃー?と鳴くだけだった。
『ふむ、折角生まれ変わってもすぐ死んでしまっては可哀そうだ。だから特別にチカラを授けましょう。・け・さっ・、・・・せいちょう・・・・───』
男が続けて何かを言っていたが、子猫は急に眠気に誘われてしまう。
そして、そのまま眠りに就くのだった。
次に子猫が目を覚ましたのは、どこかの街の中だった。
さっきいたニンゲンの男の姿はどこにも無く、目の前を大勢の人々があわただしく行き交っていた。
居なくなった男の事はすぐに忘れて、お腹がすいたなと辺りに獲物を探してみる。
自分が居るのは岩のようにゴツゴツした地面で、寝心地も悪いので寝床も一緒に探すため散策に出掛ける。
前までなら、ニンゲンにすり付いて可愛く『にゃ~』と鳴けば何かとくれたのだが、ここらにいるニンゲン達は何もくれないどころか、威嚇して追い払おうとしてきた。
お腹が空いてきて、情けなくにゃ~と鳴き声を漏らすも辺りには餌になりそうなものは見つからない。
しばらく歩きまわり数匹の虫を見つけたので、なんとか捕まえて食べてみるも、とってもまずくて吐きそうになった。
途方に暮れつつも、生まれてから培った野生の勘を頼りに餌になりそうなものを探して回ったのだった。
「あら、可愛い猫ちゃんね。君、お名前は?」
しばらくうろついていたら、一人の少女に声を掛けられる子猫。
自分の方をじっと見て話しかけてきたので、きっと自分を呼んでいるのだろうと、ふらふらと近づいていく。
何やら良い匂いもしたし、きっと大丈夫だろうと思っていた。
「こーら、アーニャ!野良猫に触っちゃだめだよ!変な病気貰ってもお薬なんて買えないんだからね!」
少女の後ろから、母親だろうか?それらしき女が出てくる。
威嚇するような声をだしているので、その声にびっくりした子猫は後ずさりした。
「あ、女将さん!大丈夫ですよ~。触ってはいないですから。もう!大きな声出すからこの子びっくりしちゃったじゃないですか~。ほ~ら、大丈夫だよ~」
「まったく、しょうの無い子だね。早く仕事に戻ってくるんだよ!」
子猫が怖がった女性は出てきた扉の中に戻っていった。
「ほら大丈夫だよ、美味しいよ〜」
少女はそう言って、一欠片のチーズを差し出した。
子猫は、恐る恐る近づいてふんふん匂いを嗅いでから食べ物を分かったようで、パクっとチーズを口にいれて美味しそうに食べる。
「あはは、お腹空いていたんだね。可愛い~。あ、じゃあ私お仕事あるから、またね!」
少女は、子猫が食べたのを見ると何かを言って去っていった。
追いかけようとするも、その先には先ほどの怖い声のニンゲンが居たので子猫は『にゃ~』と寂しそうに鳴くだけしか出来なかった。
さすがに小さなチーズだけでは、お腹がいっぱいにならないので更に路地裏へ歩いていく。
一匹だけ、大きなねずみを発見したので獲物だ!と思い飛びつこうとした。
【キケンキケン!】
その時にいきなり何か聞こえてビクッとするが、子猫にはそれが何なのか理解は出来なかった。
だが、その赤く光る目を見た瞬間に”それは恐ろしいもの”という本能が働き、全身の毛が逆立つ。
おかげで、思いとどまる事が出来たようだ。
次の瞬間、近くを通ったハトのような鳥がそのネズミに襲われる。
その鋭い牙で仕留められたのを見て、アイツの方が強いという事が本能的に分かった。
幸運な事にそのネズミがその鳥を食べ残していったので、余った鳥をいただくことが出来た。
おかげでお腹も膨れてきて一安心だ。
取り敢えず寝床も探さないといけないと思い更にうろつくが、ふと、さっき少女がいた場所に寝るのに丁度良い樽があったのを思い出し、踵を返してそこに戻っていくのだった。
次の日の朝、小鳥がちゅんちゅんと鳴く声で目が覚めると、近くの扉が開く音が聞こえた。
「あっ!昨日の猫ちゃんだっ!ちょっと待っててね」
少女が何かを言ったかと思うと、すぐにいなくなる。
女の子からは敵意を感じないので、少し残念に思ってそちらをしばらく首だけ向けて見ていると、少女が戻ってきた。
「ほらっ、おいで。私のご飯分けてあげるね」
そう少女が何かを言ったかと思うと、とてもいい匂いがするものを目の前に差し出してきた。
ちなみに少女が持っているのは、ベーコンだ。
そのベーコンは、彼女の朝食用に出されたものをコッソリ残しておいたものだ。
きっと、この子猫にあげようと取っておいたのだろう。
もちろんそんな事は子猫にはわからないので、出されたベーコンに遠慮なく齧り付いた。
「ふふふ、君可愛いなぁ。本当は飼ってあげたいけど、うちは食べ物屋さんだから女将さんが許してくれないの、ごめんねぇ。あ、そうだ!せっかくだから名前を付けてあげるよ!う~ん何がいいかなぁ」
少女はベーコンを食べている子猫を見つめながら、その前でしゃがみながら、う~んう~んと唸っている。
どうしたのかと思い子猫は、にゃ~?と鳴く。
「んん?君の名前を考えているんだよ~。そうだなぁ…目が星みたいにキラキラしているから"ルカ"がいいね!どう、気に入った?」
良く分からないけど、とりあえず愛想をふりまきつつも少女の足にすりつく子猫。
それを見て、気に入ってくれたと思った少女は、この子猫を”ルカ”という名前に決めた。
「今日から君はルカ!こっそりご飯残して君にあげるから、また遊びに来てね!」
そう言って、ルカをいっぱい撫でてから少女はまた扉の向こうへ去っていった。
なんとなしに、あそこの中には自分は入ってはいけないんだなと理解し、獲物を探すためにルカは街の外へと足を運んでいく。
しばらく建物の少ない方へ歩いていくと、開けた場所へやってきた。
そこにはニンゲンが居なかったので、獲物が見つかるかと心を躍らすルカ。
そんな矢先、物陰から何かが出てきた。
「あら~?こんなところに子猫?迷子になったのかな?」
白いローブのような物を着た女の子だ。
彼女は、ここにモンスターを退治しに仲間と来ていて、たまたまルカを発見したようだ。
ルカは女の子に敵意を感じなかったので、何かくれないかとすり寄ってみる。
「あら、懐っこいのね。お腹空いてるのかな?う〜ん、こんな変な木の実しかないかな」
そう言うと、懐をごそごそとひてから何かの木の実を取り出した。
ルカは、ふんふんと匂いを嗅ぐといい匂いと分かってか、パクっと食べた。
「あーっ!お前っ、何してるんだよっ!」
「え?何々?」
ルカはその声にびっくりして、木の実を飲み込んでしまう。
「その木の実、『知恵の実』だぞ!そんな貴重なもの、そんな野良猫に食べさせるなら…俺が食べたかった!」
「あんたが食べても、焼け石に水よ。それこそ勿体ないわよ」
だが、諦めきれないのか男は実を吐き出させようとルカを捕まえようとする。
しかし、流石にそんなので捕まるわけにはいかないのでピューッとその場から逃げ出すのだった。
「あーっ、何してくれるのよ!可愛い猫ちゃんが逃げちゃったじゃないっ!」
「何言ってるんだ!あれを売れば今夜豪勢な飯が食えたんだぞ!」
ルカは、逃げる時に不思議な感覚に襲われるのが分かった。
あの二人が何を言っているかが分かるようになった。
そう、一言一言が聞き取れるのだ。
そして、その言葉を理解しようとする思考が生まれた。
それはまさに『知恵の実』の効果だった。
ここから、ルカの新しい野良猫ライフが始まるのだった。
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