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セレブ・パチンコ・ストアーズ

作者: 東上三郎

(注)パチンコ関係が完全に嫌いな方は読むのをお止め下さい。ギャンブル性は極力薄く、コメディー性が中心になるよう書きましたが、気になる方がもしかしたらいらっしゃるかもしれないので、一応前書きに注意書きをおつけしました。

――アナウンサーの篠原と申します。本日はよろしくお願いします。


社長の鈴木と申します。こちらこそよろしくお願い致します。


――それでは早速お伺いしますが、わたくしが今訪れています「ベガス・トゥ・トウキョウ」では、パチンコ業界に新しい経営方法を導入し、みごと成功を成し遂げたとお聞きしたのですが。


ええ。私どものパチンコ店は、従来のパチンコ店のイメージを覆そうと思い開店したものなんです。従来において、パチンコ業界は「店内が汚い・ギャンブル性が高い」ということで、敬遠されていた一般のお客様がかなりの数おられるわけなんですね。ですから、そこを変えようと。


――具体的に言うと?


まず現在の業界では類を見ない、ハイクラス層のお客様をターゲットに絞って経営をしております。当店に設置されているパチンコ台は、パチンコ産業に長年携わってきた職人が、外装を一台一台丹念に作り上げ、既製品では成し遂げられない芸術性を確保した仕上がりとなっております。また飛行機のファーストクラスのように台と台の間隔を十分空け、余裕を持ってプレイが楽しめるよう配慮、さらには店内BGMにはクラシックを中心とし、射幸心をあおるような音楽は出来る限り流さないようにしています。


――なるほど。確かに、今までのパチンコ店に比べると、かなりの手間をかけていらっしゃるようですね。


お客様に心から満足して頂けるような遊戯台を設置するとなると、手間がかかってしまうのは仕方のないことです。手触りの良いハンドルや、目・耳に優しい大当たり液晶演出……。これは、大量生産方式によって生産されている現在のパチンコ台ではなかなか難しいことです。そのためわが社は国内有数のパチンコ台の職人、或いはゲーム業界において技術力で定評のある企業様と連携し、独自のコンセプトの台を作り上げているわけです。また海外ブランドとも提携し、職人さんが作った台にそのブランドイメージをのせることで、徹底してギャンブルといった暗いイメージを排除しておりますので、安心してプレーして頂けます。私たちは「パチンコは安全で面白い遊戯である」ということをお客様にお伝えしたいのです。「遊び」というものはそもそも、人間が生きるうえで欠かせない概念ですからね。


――ひとつ気になる点についてお伺いしたいのですが、やはりいくら暗いイメージを払拭しようといえど、「パチンコ=ギャンブル」という側面は相変わらず残ってしまい、例えばお客様がお金を使いすぎたりですとか、「パチンコは悪だ」というやや過激な論調ですとか、そういったマイナスイメージがつきまとうことが依然として考えられると思うのですが、その点、鈴木社長はいかがお考えですか。


その点についてはお任せください。当店で発行する会員証カードにはお客様情報が記憶されていまして、お客様が予め決めた一定の金額を超えた場合には、自動的にそれ以上プレーが出来ないようになっています。また先程も申し上げましたように、ブランドと提携することで、パチンコ業界そのものが抱かれているマイナスイメージを払拭したいと考えております。最終的にはハイクラス層のお客様が、百貨店の四越さんですとかタカウミヤさんに行くのと同じように、当店にお越し頂ける、そんな店舗イメージを築き上げることが出来るよう日々努力しているところです。


――それなら安心してプレーすることが出来ますね。それでは質問を変えますが、店内の環境設備に手間をかける分、既存のパチンコ店より利益が薄くなってしまうのではないか、という懸念が今お話を聞いている中で浮かびました。……大変失礼な質問で恐縮ですが、その点についてはどのようにお考えですか?


それについては正直な所、頭を悩ませることもあります。しかし、現代において増えつつある「ただたくさん儲けられればいい」という形を、当社では望んでいません。それでは企業様と株主様が大きく儲けを享受する一方で、お客様の普段の生活には多大な負担が出ることになってしまうのではないか、と思うのです。もちろん、そういったスタンスも企業の一つのあり方としては正しいと思います。……ですが、私個人の考えをあえて言わせて頂くとするならば、例え儲けが薄くとも「私どものお店に来て、適度にラグジュアリーな体験が出来た、いい時間を過ごせた」……そちらのほうが、よほど大切なことだと思うのです。ですから利益は多少薄くとも、お客様から頂いた感謝の気持ちを原動力として、私を始めとした従業員一同誇りを持って働いているつもりです。


――そうですか、それは素晴らしいお考えですね。……それでは最期に、今後の目標についてお聞かせ願えますか?


今後は関西地方にも意欲的に出店していきたいと考えております。最終的な目標は、海外に進出することです。


――それでは、本日は「ベガス・トゥ・トウキョウ」より、わたくし篠原亮二アナウンサーがお伝えいたしました。鈴木社長、本日は誠にありがとうございました。


こちらこそありがとうございます。これからもお客様に満足して頂けるよう、最善の努力を尽くして参りたいと思います。


(以下、実際の「ベガス・トゥ・トウキョウ」店内の様子が数十秒間、テレビ映像に映し出される)


〜〜〜〜〜〜


 都内に住む主婦・西川秀美(48)は自宅でこのテレビ・インタビューを偶然見て、最初は「パチンコ屋のインタビューなんて」という瞳で見つめていたものの、放送が進んでいくにつれて、やがて恍惚の表情を浮かべた。

「ねえあなた。こんど新しく出来たパチンコ店に行ってみない?」

 秀美が言うと、秀美の夫は驚いた。

「秀美がパチンコ店? お前むかし、『パチンコはギャンブルだからイヤ!!』って毛嫌いしてたじゃないか」

「今は違うのよ。店内がまるでデパートみたいに綺麗で、ただお金を浪費するだけのギャンブルって感じはしないもの。まるでラスベガスみたいな、セレブな雰囲気だったわ」

 秀美の夫は、

「パチンコ屋が、デパートとかラスベガスとかねえ……。時代も変わったものだなァ……」

 とつぶやいた。


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