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99 番外編 わたしが辺境伯に嫁ぐ理由 35

「本当に僕みたいな中年男でいいのかい」

「もう、しつこすぎるよガーナス様。そんなに言われると逆にわたしと結婚するのを嫌がってるみたい」

「そんなわけないじゃないか。リコットなら他にいくらでもいい相手が見つかると思うんだよ。それを思うと申し訳なくてね」

「わたしはガーナス様がいいんだってば。今度行ったら殴るからね」

「わかったよ。ごめん」


 結婚式の日取りが決まったと言うのに、ガーナス様がいつまでも『申し訳ない』を連呼するから腹が立つ。


 私がガーナス様と結婚するのはこの世で一番好きだからに決まっているのに。


 それに、婚約が決まってからも、わたしたちの間には俗に言う『甘い時間』がまったくなかった。

 残念ながら、わたしの知識には恋愛のカテゴリーがない。漫画や小説のようなドキッとすることがいつまでたっても起こらないから、物語で知った情報はあてにならないし、こんなことなら、前世で恋愛マニュアルでも読んでおけばよかったと思う。



 結婚式まで、まだまだ時間があると思っていたのに、サーフベルナ商会のすべてを父の再婚相手であるシェリーさんに引き継ぐ必要もあったから、あっという間に時が過ぎていった。




「こんな遠いところまで、ありがとうルビー。ジェイルもね」

「大丈夫。旅で移動は慣れちゃったから、馬で三、四日くらいの場所なんて全然平気よ。それにどこだって、リコットのお祝いには、呼ばれてなくても駆けつけるつもりだったし」

「ご結婚おめでとうございます。この度は私までご招待いただきありがとうございます」


 結婚式の数日前に、ルビーとジェイルがナジュー領へとやって来た。


「やだな、そんなあらたまっちゃって。ルビーに出席してもらうんだから、ルビーの旦那様に声を掛けないわけがないじゃない」

「それは、まだだけどね」


 ルビーとジェイルは結婚が決まっている。

 それは、男女二人だけで旅をしていることは、世間体がよくないということで、ふたりがアルマローレ家に戻った時に、アルマローレ家の人々から体裁を整えろと迫られたらしい。


 どっちみちいつかは結婚するつもりで、プロポーズも済んでいたから、そのままふたりだけで簡単な結婚式をあげようとして、周りからストップが掛かったのだ。


 それでも、ルビーは平民だしジェイルは今のところ爵位がないということもあって、身内だけの小さな結婚式になるらしい。


 そうは言っても、ルビーの花嫁衣装を楽しみにしている公爵家のみんながやたら張り切っていて、ウェディングドレスも手間をかけた衣装を用意しているようで、時間が掛かっている。


 わたしはアルマローレ家で少しの間、お世話になっていたから、ギリギリ身内枠として招待してもらえることになった。たぶんルビーの配慮もあるとは思う。

 もし、呼ばれなかったとしても、わたしは勝手に押しかけたけどね。


「ルビーとは話したいことがたくさんあるんだけど、ちょっと借りてもいい?」

「ルビーの方も話があるみたいですから、私のことはお構いなく」

「ジェイルは部屋でゆっくりしていて」

「ああ」


 そう言って、さっとルビーの頬に手を当てて名残惜しそうに見つめるジェイル。そんなジェイルに向かってルビーが優しく微笑む。


 二人の間にはとても甘い空気が漂っていた。そう、まさしくこれこそが、私の求めている関係だ。是非ルビーに、レクチャーをお願いしたい。


 そんな端から見てもルビーへの愛がひしひしと伝わってくるジェイルをひとり応接室に残して、わたしは自室にルビーだけを連れていった。



「それにしても私が聖女なんてびっくりしたわ。驚きすぎて大聖堂の壁画の確認にいっちゃったもの」

「あれって、ルビーの聖女はちゃんと黒髪で瞳が赤いんだよね」

「そうなのよね。近くでじっくり見たくて、梯子まで掛けてもらっちゃったわ。リコットの聖女もリコットと同じだったわね。こんなことになるなんて思いもしなかったから、なんか不思議よ」


「ルビーは聖女になったんだから、マテリアルもすべて集められたんじゃないの?」

「それがどこにもなかったのよ。だからマテリアルって破滅の魔王が復活すると同時に現れる物なんじゃないかしら」


 ひとつも見つからなかったのだとしたら、たぶんその予想が当たっているんだと思う。


「そうかもね。戦う相手がいなかったら、必要以上の戦力は逆に危ないから。誰かがそれを悪用しないとも限らないし」


 力を手に入れたい者たちに、その存在を知られてしまえば、争いの元になる可能性は高かったはずだ。幻でよかったのかもしれない。


「私、リコットに聞きたいことがあるんだけど」

「何?」


「あまり、いい話じゃないんだけど、リコットは前世の自分の死因を覚えている?」

「うん。まあね」

「私はちゃんと思い出せてはいないんだけど、たぶん階段から落ちたんだと思うの」

「うそ、それってまさか駅の階段だったりして?」


「そうかもしれないわ。昔から少し傾向はあったんだけど、階段を降りるときに緊張するの。旅で段差を踏み外しそうになった時に、少しだけ前世の景色が頭に浮かんだからそうじゃないかと思うわ」


「わたしも階段から落ちたんだよ」

「やっぱり、リコットもそうなのね」


「もしかしたらその階段って、同じ場所かもね。わたしたちふたりが同じ原因で転生しているんなら、レオグラス王子もそこから落ちた可能性が高いかも。今度会ったら聞いてみようか」


 この世界があの駅の階段と繋がっていた? だとしたら、実は前世でルビーと知り合いだったかもしれない。


「他に思い出したことはある?」

「あとは全然。前世のことはほとんどわからないわ」

「あの駅なのかな? 確認したいところだけど、きっとレオグラス王子はもっとわからないだろうね」


「この世界でも階段から落ちたら、逆に向こうの世界にいっちゃうのかしら。もしそれが本当に起こったらどうしようって、怖くなっちゃったのよ」


「それは困る。絶対に困るよ。わたしはガーナス様と離れたくないから」

「私もジェイルと離れる気はないわ」

「じゃあ、わたしたちの今度の敵は階段だね」

「そうね。とにかく落ちないよに気をつけましょうね」


 本当に戻るのか、それを試すわけにもいかないから真実はわからない。だけど、わからないからこそ、絶対に階段からは落ちないように気をつけようと思う。


 ガーナス様との結婚式を目の前にしているのに。そうでなかったとしても、わたしはあの世界に戻るつもりはまったくないのだから。


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