94 番外編 わたしが辺境伯に嫁ぐ理由 30
ルビーは馬鹿だ。
王家の秘宝を盗んだ罪を一人で全部背負うつもりらしい。わたしは当事者であり、ルビーに巻き込まれたわけではない。
だから、わたしも一緒に動いていたのに、そんなわたしまで欺いて王家の秘宝を葬ることを成功させていた。行動力があることはわかっていたけど、こんなことで発揮しなくてもよかったのに。
結局、ルビーだけが宝物庫から王家の秘宝を奪ったことで罪に問われて牢屋へ連行された。だけど実際には手伝っていたジェイルも拘束されたから、彼女の思惑通りに事は運んでいない。
わたしだけには頼って欲しかったのに。
完全にこちらが悪かったとしても、衛兵に命令してルビーを連行させたパトリックは絶対に許せない。
「人の話も聞かないで、一方的にルビーにあんなことしていったいどういうつもりよ。自分が何もかも正しいなんて思っているんだったら、呆れるを通り越して哀れになるんだけど」
前世のわたしがそうだった。
自分の世界だけですべてが完結していて、人との交流を必要としていなかった。あの世界ではそれでもよかったからだ。そういう生き方も選べる場所だった。
だけど今は違う。わたしは子どもの頃から商売をしていたから人との繋がりが大事だった。人の声、わたしの場合は特にガーナス様だったけど、前世の考え方のままで、苦言に耳を傾けていなかったらどこかで破綻していたと思う。それこそ、ガーナス様に脅されたようにどこかに売り飛ばされていた可能性だってあっただろう。
それに気がついた時に、それまでの自分にたいして思った感想だ。それをいまパトリックにぶつけていた。嫌味のひとつも言いたくなるのはしかたない。
「こっちだって、ここまでリコットが愚かだとは思わなかったぞ。ルビー・アルマローレが宝物庫から盗みを働いたことは犯罪じゃないと言うのか、それを見て見ぬふりをすることが正しいことなのか」
「今言っているのは、そういうことじゃない。どうしてルビーがそんなことをしなきゃいけなかったのか、理由をちゃんと聞けって言ってるんだよわたしは」
「ルビー様は意味のないことはしません。殿下は初めからルビー様が悪だと決めつけすぎです」
ヒューバートもパトリックに反論する。わたしの援軍というよりはルビーを助けたい一心なんだろう。
「パトリックは牢に入れられてしまったルビーの将来なんて考えてないんだよね。それだけで醜聞になるって、あの子の人生を潰したって自覚はあるの?」
「いい加減うるさいぞお前たち。リコットは聖女のくせに罪人の肩をもつなんて前代未聞だ。ヒューバートもあんな女に毒されるな」
「わたしにも喧嘩を売るつもり!?」
「やめておけリコット嬢。それよりルビーのところに行こう」
ロイドはパトリックに何を言っても無駄だと思っているようだ。ルビーが連行されてからはパトリックの説得は諦めていた。
「僕が案内するよ」
「では私はルビー様の冤罪を晴らす証拠を集めますよ」
「悪いなヒューバート。俺もあとで手伝うから」
結局、パトリックが頑なすぎてルビーを自由にすることはできなかった。だからせめてルビーがつらい想いをしないようにそばについていてあげたい。
レオグラス王子が取り計らってくれて、牢の番人に建物の中に入れてもらえたので、ロイドと一緒にドアの前までルビーを励ますために向かった。
思った通りルビーはひとりで泣いていた。
ゲームのシナリオを考えれば、この後ルビーを待っている未来が碌なものではないことは想像できる。悲観するなと言う方が無理だろう。
だけどこの牢屋は、断罪された者が入れられるとしては、やけに豪華に見えるんだけど? 小窓から中を眺めたわたしは疑問に思った。
「ここは訳アリの貴族を監禁する場所だからね。ルビーは公爵令嬢だからだけど、ジェイルは普通の牢に入れられてるよ」
「そうなんだ」
ドアを挟んでわたしたちはルビーと会話を続けた。
小窓からになるから大声で話さなければならないけど、ここは北の塔と呼ばれているその最上階で、他に人がいるわけではないから構わないだろう。
「ルビー、絶対どうにかするから」
「兄上を説得して、ここからだしてあげるから」
「わたしも何か方法がないか考えてる。こんな時のために頑張って聖女になったんだから」
「みんなありがとう」
レオグラス王子の話では重くて国外追放だそうだ。だけどそんなことは絶対にさせない。
みんなの想いはひとつだった。




