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81 番外編 わたしが辺境伯に嫁ぐ理由 17

 これはもう、一からじっくり話をするしかないと思う。

 私は中庭の一角に敷き詰められていた玉砂利の中から白い石をひとつ拾った。


「この黒い石にはとても価値があるんだ。パトリックにあげるから宝物にしてよ」

「それは白い石だが……」


「黒でしょ? パトリックにはそう見えないの?」

「――リコットがそう言うなら黒なんだろうな。私にはまだそれに何の意図があるのかわからないが、謎が解けるまで預かっておくことにしよう」


 やっぱりだ。思った通りパトリックは白を黒だと言った。


「はあ? どう見たって白に決まってるじゃん。しかも、今そこで拾ったただの石なんだよ。なんでおかしいなことをおかしいって思わないわけ。ちゃんと頭で考えなよ」

「リコット? 急になんだと言うのだ?」


「パトリックが自分の異常性に気がつかないからだよ。なんでわたしの話は全部鵜呑みにするの。だいたいパトリックはさ、わたしみたいな性格嫌いなはずだよね。わたしの口のきき方だって直せないわけじゃなくて、使い分けるのが面倒くさいってだけだし、基本的に他人のことなんてどうでも良いんだよ。たぶん私はルビー・アルマローレより人を見下してると思う」


 捲し立てて言葉を連ねるわたしにパトリックは唖然としている。


「わたしが令嬢たちに言われていることだって、半分は間違ってないのに。パトリックはわたしのことを全肯定するよね。なんでよ」

「なんでと言われても、リコットが正しいと思うからだが」


「だから、白が黒なんだ。わたしのことは何でも信じるんだね」

「そういうわけでは」


「そうそうパトリックと初めて会った時も、わたしは最初から王太子だって知っていたんだよ。あわよくば王太子とお近づきになりたいって思って擦り寄ったことにも気づかなかったんだよね」

「なんだと!?」


「まあ、そう言うことだから、今までのこと振り返ってみなよ。自分の行動のおかしさがわかるからさ」

「行動のおかしさ?」


「わたしってこの容姿のせいで、昔から人を魅了しちゃうみたいなんだよね。だから、実はこういうこともパトリックだけじゃないんだ。そういう人はさ、肯定ばかりで意見が交わせないから話をしていても、鏡と向き合っているみたいで、面白くもなんともないんだよ」

「それでも、今まで交流してきたなかで、間違いなく私がリコットのことを認めるだけの理由はあった。決して容姿に惹かれたわけじゃない。だから私は例外だ」


「だからぁ、パトリックは視野が狭くなってるから、もっと周りを見てみなよ。それで本当にパトリックと真剣に向き合いたくて努力している人に目を向けるべきだと思う」


 さすがに身に覚えがあるのか、パトリックは顔をしかめているだけで反論は返ってこない。


「パトリックはさ、自分が理想としている山の頂上を目指しているんだよね」


 突然話を変えたわたしに、訝し気な表情を浮かべるパトリック。


「あ、これはたとえ話だけど。みんなその理想に向かって進んでいるんだ。でも、なぜかわたしは努力と言う登山をせずに誰の山の頂上にでも転移できるんだよね。だからみんな誤解するけど、本当ならパトリックを追いかけて同じ山に挑戦している人こそ認めてあげるべきだと思う」

「――リコットの言っていることがすんなり入ってこないのは初めてだ」


「それが普通なんだよ。そうやってちゃんと考えればわたしの言ってることがわかると思うよ。これからはわたしも、人に文句を言われないように、身のたけに合った行動することにするから。そう言うことで、じゃあね」


「待て、最後にひとつだけ聞かせてくれ。リコットは私と過ごした時間を少しでも楽しんでくれていたのか」

「薬学書の話だけはね」

「――そうか、それなら良い」


 パトリックに背を向けて歩き出したわたし。パトリックはそれ以上声を掛けることも、追ってくることもなかった。


 あとはエレーナに頑張ってもらえばいい。わたしも陰ながらふたりのことを応援しようと思う。


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