75 番外編 わたしが辺境伯に嫁ぐ理由 11
私が自分の恋心に気がついてから三年ほどたった。
「ラザー兄、ちょうどいいところに来た。留守番お願いしてもいい?」
普段とは逆で、今日は父が二号店に行っている。私が実家の方のお店で店番をしているところへラザーが差し入れをもってやって来た。
ゲームでは攻略対象者だけど、今は本当の兄妹みたいな感じで過ごしているから、私がこのまま好感度を上げずにいれば問題なさそうだ。
「留守番って、リコットはどこに行くつもりだ」
「ガーナス様が王都に来てるんだ。だから会いに行くんだよ」
「仕入れの話か? リコットも大変だな」
「今日は違う。愛の告白に行くんだよわたしは」
「また変なこと言い出したな。どっかの誰かにくだらない話でも吹き込まれたんだろう」
「そんなことないよ。わたし本当にガーナス様が好きなんだから」
「リコットは貴族になりたいんだったっけ。だからって貴族に憧れるのもほどほどにしておけよ。俺たちとは住んでいる世界が違うんだからな」
だからわたしは同じ舞台に立てるように頑張っている。
「そんなことわかっているよ。じゃあ、あとは頼んだからね」
ラザーに店番を押し付けて、わたしはナジュー家と足を運んだ。
「リコットちゃんか。今日もお仕事かい? ご苦労様」
ナジュー家には何度も訪問しているから、今では顔パスで門を通してもらえる。
屋敷に入ってから年老いた執事に案内され、私がいつもの応接室で待っていると、ガーナス様はすぐにやって来た。
「お待たせ。何か急ぎの用事でもできたのかい? リコットが約束もなしにやってくるなんて珍しいじゃないか」
「わたしね、今日は一世一代の告白をしにきたんだ」
「告白?」
それまでそれとなく気持ちを伝えてきたけど、たぶんガーナス様はわかっていない。
「わたし、リコット・ナジューになりたいんだよ。だけどガーナス様の娘じゃなくて、妻がいいから」
「はあ!?」
わたしの直球の告白にガーナス様が変な声を出す。
「ちょっと待って。リコットは自分で何を言っているのかわかっているのかい」
「もちろんだよ。わたしはガーナス様のお嫁さんになりたいんだ」
「え!?」
「だから平民のままじゃ無理なんだよね? 貴族になるために香辛料の輸入を始めようと思っているから、これから外国に行かなきゃいけなくて、ガーナス様とは当分会えなくなっちゃう。だけど、わたしがいない間に他の人と再婚とかされたら絶対嫌だから、わたしの気持ちを先に言っておきたくて今日は来たんだ」
ゲームの知識で店を大きくして貴族の称号を与えられれば、王立学院への入学も、辺境伯であるガーナス様の再婚相手にもなれる。
一石二鳥なので利用しないわけがない。
商店を商会にすることで攻略対象者のコパルと関わることが出てくるかもしれないから、好感度が上がってしまう白磁器はやめて、香辛料でのし上がるつもりだ。
「リコット・ナジューになりたいのなら、婚約者の決まっていない、うちの次男はどうだい。リコットよりは年下だけどね」
「わたしはガーナス様がいいって言ってるのに馬鹿言わないでよ。ガーナス様からしたら、今はまだ子供にしか見えないかもしれないけど、数年もすればそれなりに育つはずだよ。だからそれまで待ってて」
ガーナス様が眉毛を八時の字にして困り顔をしているけど、そんなこと構っていられない。
わたしは恋に片足を入れたばかりだ。ガーナス様と一緒にいたいし、わたしの知らない世界をもっと知りたい。
「気の迷いだと思うんだけど」
「今はそう思っていてもいいけど、わたしが結婚できる年になるまでこの気持ちが変わらなかったら、その時は真面目に考えてよね」
この国では十五歳になれば結婚ができる。
十五歳と言えば王立学院に入学できる年齢でもある。
すべては、あと五年。
わたしに残された時間は多いとは言えないけど、欲しいものを手に入れるためには頑張るしかない。




