07 決意
準男爵家にいきなり押し掛けるのもマナー違反なので、リコットあてにサーフベルナ家へ伺いたいと手紙を送ってみた。
突然で驚くだろうけど手紙の内容は『学院で一番成績優秀だったリコットとずっと話がしてみたかった。自分は成績がいまいちだから勉強方法を教えてほしい。王都を離れる前にどうしても会いたい』そんな感じだ。
ところがリコットではなく、サーフベルナ準男爵から私あてに返事が届いた。
リコットは先週からナジュー辺境伯爵家に滞在しており今は男爵家にはいないこと。でも学院は卒業させるつもりなのですぐにもどってくること。帰ってきたらリコットから連絡させる、と簡潔にしたためられていた。
「帰ってくるわけないじゃない」
ゲームでルビーがそうだった。婚姻は学院の卒業まで、一年の猶予をもらっていたから、その間にどうにかして逃げだそうとしていた。それなのに一度会いに来いと言われ、それに従ったせいで王都に戻ることができなかったのだ。
そして何かの薬を盛られて死んでしまった……。
手遅れになる前に辺境伯爵領にいかなければ。
「諦める気がないんだよねルビーは」
「ええ、だってまだ間に合うかもしれないもの」
「だけど辺境伯爵領にこっそり行きたいって言われても認められるわけないだろう」
「それでも私は行くわ。一生悔やみながら生きていきたくないのよ」
「それならこそこそしないで、堂々と会いに行けばいいだろ」
「そうしたらリコットに会わせてもらえない可能性があるからしかたないじゃない」
私の必死さが伝わったのか、ロイドは腕を組んだまま黙りこくってしまった。
五分後。
「だったら危険な目にあわないように旅の間は俺の言うとおりにしてもらう。反論は聞かない」
「一緒に行ってくれるの?」
「当たり前だろ」
乙女ゲームと違って今は本当に仲のいい双子になれたから、ナジュー辺境伯爵領に行くと言えばロイドはついてくるとは思っていた。
ついてこなかったとしてもラザーと二人で行けばいいと思っているからいいのだけれど、もし、ロイドに放って置かれたら正直悲しかったかもしれない。
そのあと、すぐにお爺様たちに相談してみた。
「駄目だ。諦めなさい」
私は一刻でも早く出発したいと言うのに、いい返事を貰うことができなかった。一番のネックは私が護衛をつけることを嫌がったからだ。
悪役令嬢だった私が、表だって動いたら救えるものも救えなくなってしまうかもしれない。
だから目立つわけにはいかないのだ。
「絶対に認められない」
はじめはお祖父様も許してはくれなかった。
だけど結局、なんと言われようと引かない私に折れて、辺境伯爵領まで家紋なしの馬車で移動して向こうに着いてから状況によって考えることになった。護衛も別行動でつけるらしい。そこは譲れないと言われてしまったので従うしかない。
私は改めてラザーに会いに行った。
「私たち、リコットさんに会いに行こうと思うの。ラザーさんに御者をお願いできないかしら」
「本当か? リコットと会えるなら断る理由なんかない」
相変わらず酷い状態のラザーだったけど、リコットに会いにいくことを告げたら快く引き受けてもらえた。ハッピーエンドにするためにはラザーだけが頼りだから断られたら意味がない。
とりあえずラザーと私、ロイドの三人旅をすることになった。悪役令嬢の私や攻略対象者のロイドとラザーはゲームに深く関係している。この先何が起こるかわからない。だから慎重に、そして秘密裏に行動しようと思う。
アルマローレ家の騎士も護衛でつくはずだけど、陰ながらにしてもらったからそれは気にしないことにした。
「リコットさんが今いる場所はとても遠いのです。往復だけで八日くらいかかりそうですけど大丈夫かしら」
「連れて行ってもらえるだけでありがたい。自分の旅費くらいなんとかするさ」
「そうではなくてお仕事がありますでしょ?」
「それも大丈夫だ。最近は何も考えたくなくて休みを取らずにいたからな。まとめて取らせてもらうさ」
最近のラザーは家に帰ってくるなり浴びるほどお酒を飲んで酔いつぶれ、朝になれば仕事に向かう。それをずっと繰り返していたから家も荒れ放題だった。あのまま放っておいたらいつか身体を壊していたかもしれない。
私のせいでここにも不幸になった人がいた。