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05 Dクラス

「リコットって一時期兄上と一緒にいた準男爵家の令嬢だよね」


 レオグラス殿下が横から口を挟んできた。


 攻略対象者の中で、リコットと学院内で噂になったのは王太子だけだ。休み時間によく二人で会っていて、王太子の婚約者候補だったご令嬢たちを筆頭に、女性陣が憤慨していたと聞いている。

 私は無関心でいるように心掛けたけど、王太子はレオグラス殿下に会うため、私のクラスによく顔をだしていた。わざわざ距離を置いたと言うのに、意味がない。


 リコットが転入してくる一年生の時も来てはいたけど、王太子がリコットと出会ってからは極端にその回数が増えた。

 その時は、ヒロインのターゲットとは必ず関わることになるのかもしれないと、内心とても穏やかではいられなかったので、忘れるはずがない。


 リコットはゲーム通りにいじめにあっていたみたいだけど、なぜかそれが私にも飛び火した。


「有力候補の方があれではねえ」とか

「あの方が不甲斐ないからこんなことになるのよ」


 自分達が王太子の歓心を買えないことは棚にあげて、令嬢たちは私の陰口を言っていたらしい。さすがに私自身に直接文句を言ってきたのはたった一人しかいなかったけれど、悪役令嬢のルビーに口で勝てる相手などいなかったんだから返り討ちにしておいた。


「何かご存知ですか」

「誰とでもちゃんと距離を保って接していた兄上が、噂になるほどそばにおいていたから気になっていただけだよ」

「そうですか」

「ビィはなんでその子のことを調べているの? 必要だったら僕が手を貸すよ」

「いいえ、結構ですわ。それよりCクラスへもどりませんと授業が始まってしまいますわよ」


 コパルに辺境伯のことも聞きたかったのに、時間がなかったので私は情報のお礼だけ言って、Aクラスを後にした。




 移動中に宰相子息のヒューバートとすれ違う。私を見る目付きがとても悪い。

 とりあえず微笑んでおいたけど、思いっきり睨まれてしまった。


 ヒューバートは虚栄心が強いので公爵令嬢の私が褒めちぎれば簡単に好意を寄せてくる。だけど、今みたいにレオグラス殿下と一緒にいると、自分が私の一番じゃないのが気に入らないようで逆にすぐに不機嫌になる。


 ヒロインの時もそうだけど、好感度と嫌悪度のふり幅がすごいキャラだ。「殿下たちよりヒューバート様と一緒にいる方が癒される」とか「安心できる」とか言えばまた好感度が上がるから、攻略対象者の中では私に対する嫌悪感の修正が一番楽だった。


 ヒューバートはリコットのせいで成績が万年二位なため、リコットのことを嫌っているから救おうと思うはずがない。だから今は関係ないので会釈だけしてすれ違った。


 後でヒューバートから嫌われないために、言い訳しなければいけないのが、とても面倒くさい。




「レオグラス殿下は辺境伯のことはご存知でいらっしゃいますの?」

「うーん、あまり知らないかも。老化予防の薬とか、美しくなる薬とか、貴族たちに売っているよね。ねえ本当になんでそんなこと調べているの」

「それは……」


「私のせいなんです」


 突然ロイドが話に割り込んできた。


「私がリコット嬢に好意があることを知ってしまったので心配してるんですよ」

「へえ、そうなんだ。なんか意外。ジェイルもそう思うよね」

「ええ、まあ」


 ロイドはレオグラス殿下の質問をかわすために咄嗟にそんな嘘をついてくれたんだと思う。


「ですから、あまり騒ぎになるのは困るんです。ルビーはこういう性格ですから止めようがないですけど、殿下たちはどうかご内密にお願いします」


 レオグラス殿下たちを見ると顔を見合わせて納得した顔をしていた。こういう性格ってどういう性格だ?




 Dクラスに戻ると、教室の入口では私たちに気づいた生徒たちがモーゼの十戒のごとく道を開けてくれた。クラスメートたちはレオグラス殿下や私たちが教室にいると、絶対に近くによってこない。悪口を言っているわけでもないのにみんなヒソヒソと小さい声で会話をしている。


 私のいるCクラスは八割が男子生徒だ。逆にDクラスは女子の比率が高い。


 それは一、二年と続けてDクラスにレオグラス殿下がいたせいで、男子生徒は不敬を恐れ頑張ってCクラスへ。

 女子生徒は婚約者が決まっていない殿下とお近づきになりたいがために、わざと成績を落としてDクラスに入った。その結果、とてもバランスの悪いクラス分けになってしまったのだ。


 私もレオグラス殿下を避けて三年の時はロイドと相談してCクラスを目指した。


 それなのになぜか蓋を開けてみればレオグラス殿下もCクラスだったもんから、始業式の日、私を含めてたくさんの悲鳴が上がったことは言うまでもない。


 そんな渦中のレオグラス殿下は窓際の一番後ろの席でジェイルとなにやら話をしている。目があったらにっこり微笑まれてしまった。

 背筋が凍る。


「ルビー?」

「何でもありませんわ、お兄様」


 これ以上距離が近づくと、危ないことに巻き込まれそうなので気を引き締めなくては。



 ※   ※   ※   ※   ※ 



「レオ様はリコット嬢のことが気になるのですか」

「あの娘はビィとは何もかも違うからね。兄上もそうだったけど、ビィのことを好まない者が惹かれる何かがあるんだよ。だからロイドがってなるとちょっと安心できないかな」

「さようですね」

 レオグラス殿下の視線で震えていた私は教室の片隅でそんな言葉が交わされていたことを知る由もなかった。


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