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49 教会のイベント

 ラザーとの教会イベントは、リコットとふたりでお互いの幸せを祈るというものだったので、滞りなく終わった。


 久しぶりに会ったラザーは爽やかな雰囲気を醸し出していて、本当にリコットを妹のように扱っている。

 たぶんこれはこれで良かったのだろう。


 ヒューバートも、その教会にまつわる神話を彼から聞くという簡単なものだったので、リコットは私と出掛けていき、ヒューバートが私に向かって話しているのを、彼女は隣で一緒に聞いていた。


 リコットが第三者的な状況であっても聖女になれるんだろうか。


 それにロイドとのイベントも、本当だったらふたりで閉じ込められるはずだったみたいだし……。


 少しずつ違いがあるけど大丈夫?




 コパルとの教会イベントは、居合わせた男からしつこく言い寄られて、困っているリコットが助けられる、と言うもの。


 今回は教会の馬車置き場でコパルに剣を見せた後、時間を見て私が「ここまで来たのだから教会で祈りを捧げていきましょう」と大聖堂に誘う予定だ。


 リコットだけは先に入っている。

 この後、男から絡まれているところをコパルに救わせる作戦だ。


 そろそろよさそうね。そう思って、コパルに声をかけていたところ……。


「ルビー様はレオグラス殿下ともお約束されていたのですか?」


「いいえ、していないわよ」


 コパルの視線を追ってみると、そこにはレオグラス殿下とジェイルの姿が。


「ここの教会は壁画が素晴らしいと聞いたから、僕はそれを見に来ただけだよ」


 もしかしたらとは思っていたけど予想が当たった。

 あの時、レオグラス殿下はAクラスで日時を聞いていたのだから、今までのことを思い返せば来るんじゃないかとは思っていた。

 それでも本当に来たから驚きだ。


 私が大聖堂に向かっていた足を止めると、レオグラス殿下たちも進むのをやめる。


 ちょうどいい、コパルだけ先に行ってもらうことにしよう。


「コパルさん、レオグラス殿下が私に何か御用があるみたいですの。申し訳ないのだけど、先に行って中にいるリコットを呼んできてもらえないかしら」


「構いませんよ。私は先に行きますね」


 そう言ってコパルは大聖堂の方へ足早に歩いていった。コパルも王族と接するのは息が詰まるのだろう。


「剣を見ていただけるのでしたかしら? いまは馬車の中ですのよ」

「そうだったね。見せてもらおうかな」


 レオグラス殿下の方を見れば嫌でもうしろにいるジェイルが目に入る。




 家から持ち出してきた剣は、鞘に宝飾が施されたもので、刀身より外側の方に価値があるように見える品物だ。

 今日のために倉庫にあったものを勝手に借りてきていた。

 もちろん家宝ではない。


 鑑定の結果「一応宝石ではあるけど、色に深みがまったくないね。ビィの思った通りたいしたものではないよ」レオグラス殿下の発言はコパルとまったく同じだった。


 目利きだということは本当らしい。


「ありがとうございました。これですっきりしましたわ」




 そんなやり取りをしていると、大聖堂から「きゃあああ」と言う叫び声が聞こえてきた。


「何があったの?」


 何か騒ぎが起きているようだけど、リコットたちは大丈夫だろうか。

 私は心配になって、引き止めるロイドを振り切って急いで大聖堂へと向った。



「リコット!?」


 入口付近に押し寄せた人混みをすり抜けて中へ入ると、大聖堂の祭壇の前でリコットが男によって拘束されてナイフを突きつけられていた。


「男に言い寄られていたリコットさんがとても嫌そうにしていたので、声を掛けたんです。僕がいけなかったんですが、リコットさんと少し口論になりまして、そのせいでなぜか男が怒り狂ってしまい、こんなことになってしまいました。僕が側にいながら申し訳ありません」


 私たちに気がついて近づいてきたコパルが説明する。切り付けられたのか彼の頬には赤い筋がついていた。


「これを使って」


 私がハンカチを渡そうとすると、「なんですか? 顔?」その時初めて自分の顔に傷が出来ていたことに気がついたようで、「汚れてしまいますから」そう言ってハンカチは受け取らずに自分の手で拭ってしまう。


 リコットを助けようとした時に切りつけられたのだろうか?



「ジェイル、彼女は()()()()()らしいから頼んだよ」


 一緒についてきたレオグラス殿下がすぐに命令をする。その声で私が振り向いた時には、すでにジェイルの姿が入口の人溜まりから消えていた。


 そして男が私たちに気を取られているうちに近づき、首筋に手刀を打ち込んで、あっという間に騒ぎを収めてしまった。


 男が倒れたのを見届けてから、私は中央の通路をリコットに向けて駆け寄った。男に拘束される恐ろしさは身をもって知っている。


 私はそこに立ちつくしていたリコットを抱きしめた。


「リコット大丈夫? 怪我してない?」

「ありがとうルビー。私は平気だよ」


 そう言いながらも身体が震えている。刃物を突き付けられていたのだ。私だったらこんなに冷静ではいられないと思う。


「貴女には危険はないって言っていたのに、どうして……」

「でもほら、ちゃんと助けられたから大丈夫。――それよりこれってジェイルに助けられたことになるのかな。コパルとのイベントのはずなんだけど」


「こんなことになるくらいなら聖女なんてならなくていいでしょ。もうやめましょうよ」

「心配してくれてありがとう。でも私は聖女になりたいんだ。だからルビーは止めないで」


 いつにもまして真剣な表情のリコットにそう言われてしまえば、私には何も言えなくなる。

 そうだとしても、今後こんなことが二度とないように、リコットをひとりにはできない。




「レオグラス殿下、それにジェイル様、この度は助けていただきありがとうございました。それと――――コパル様も巻き込んでしまってすみませんでした」


 解放されたリコットは、ふたりにお礼とコパルに謝罪をして頭を下げた。


「どういたしまして」

「礼には及びません」

「――――あれは僕のせいだったかもしれないのに、助けられなくてすみません」



「あとは教会の者にまかせて、すぐにここを離れよう」

 ロイドが私たちを大聖堂の外へと誘導する。


 直接事件に絡んではいなくても、王族がいる場所で事件が起こったのだ。


「このことが公になれば、外出できなるかもしれないね」レオグラス殿下がそう言う通り、問題視される恐れもある。


 ざわつきが収まらないこの場所から、私たちは急いで移動することにした。


 だけど、ゲーム通りにしようと思っただけで、まさかこんなことになるなんて……。


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