43 王家の秘宝
王都に帰ると決めてから、私たちの行動はとても早かった。
もともとそれほど長くいるつもりもなかったし、アルマローレ家の護衛騎士まで含めて大所帯でお世話になっている。
ナジュー辺境伯のご厚意で何日も滞在していたけど、私の勘違いから始まったことで本当に申し訳ない。
もともとの計画とはちょっと変わってしまったけれど、私が望んでいたようにリコットを連れて帰ることになった。
ナジュー辺境伯には心から感謝の気持ちを伝える。それと同時に結婚式には絶対に呼んでもらえるように念を押した。
「内輪だけのものになるから、親族だけの集まりになると思うんだけど」そう言うナジュー辺境伯。
「ルビーは私の身内みたいなもんだよ」それに対してリコットは招待状を送ってくれると約束してくれた。
「考えてみれば、ルビーさんはリコットのことを心配してこんな辺境まで来てしまうくらいだ。リコットも親友には出席してほしいよな」
友達の結婚式なんて出たことがない。いまからとても楽しみだ。
うふふ。
「ルビー、完全に人が変わってるよ」
「だって、親友が出来たのですもの。あ、私たち親友でいいのよね?」
ナジュー辺境伯が言った『親友』と言う言葉が嬉しすぎて顔がほころぶ。今まではゲームのことを考えて、ほとんど人とは交流しなかった。
親友どころか友達と呼べる人もいない。エレーナ様とは話をする仲であったけれど、距離は置いていたので、友達かと聞かれたら微妙だ。
「わたしがガーナス様の後妻になるって聞いて、こんなところまで助けに来ちゃう人を、親友以外になんて呼べばいいのよ」
「そう言ってもらえるとすごく嬉しいわ。でも、元はと言えば攻略難易度ほぼゼロパーセントの攻略対象者なら何とかなると思ってやって来たのに、まさか私がリコットを連れて一緒に王都に帰ることになるなんてね」
「現実は何が起こるかわからないってことだよ」
ナジュー辺境伯が用意してくれた馬車は、揺れが少ないしクッション性がよくてお尻も痛くならない。
来たときとは雲泥の差。リコット様様だ。
「ルビー見て。ここの工場がね、ゲームだとアイテム探し用のダンジョンにかわるんだよ」
それはナジュー辺境伯の領都に入った時、みんなが驚いた建物だ。
「でも今は普通の工場なのよね。なんだか不思議だわ」
「もともと、企業秘密が漏れないようにちょっと複雑な構造にはなってるの。製薬工場だから、持ち出されると困る物もあるし」
「それでも誰かに盗まれたのでしょ? 王都で密売している人がいるって聞いたわよ」
「この工場からじゃないけどね。おかげでガーナス様にあらぬ疑いを掛けられて迷惑だっての」
だからリコットは、危険をおかしてまで毒薬の流通経路を突き止めたんだ。
「リコットの行動力は、私も見習いたいわ」
「「ルビーはダメだ(よ)」」
始終無言だったロイドからもダメ出しされた。
「ふたりそろって言わないで」
帰路の馬車はリコットと私とロイドが同乗している。
周りをアルマローレ家とナジュー家、それとレオグラス殿下の護衛に囲まれているから、これ以上の安全はない。
ロイドは別の馬車でも構わなかったのだけど「ルビーのそばを離れる気はないよ」と私たちと一緒だ。
ロイドにはすべてを打ちあけてあるから、こっちは気にせずに話をしている。
だけど、リコットとはお互い極力関わらないようにしているから、ロイドの知らない単語が出てきたとしても質問はしてこない。
それなのに私への突っ込みだけはするんだから、どれだけ信用がないんだ私。
レオグラス殿下とは、食事だけは一緒にとることになっているけど、四六時中うしろについてこられていた時のことを思えば気が楽だ。
ルビーの誇りや、性格設定なんて、もうどうでもいいので、食事中もリコットと楽しく会話をしていた私は、実は墓穴を掘っていることに気がつかないでいた。
いつも無表情か不機嫌な態度を取っていたんだから、にこやかに微笑んで、年相応にキャッキャッしていれば、自分の思惑とは逆に好印象を与えてしまうこともあるのだろう。
そこまで考えが及ばなかった。
あとからロイドに「すごく嬉しそうにルビーを見ていたから気をつけたほうがいい」そう忠告されてとても焦る。
王都に戻ったら、私たちはまず『王家の秘宝』について調べることにしている。
ゲームの世界を完全に潰してしまうまで、私はいつまでも命の危険に晒されているだろう。
と言うことで……。
「わたしはヒロインだから、プロローグでは絶対に傷つけられることはないよ。ルビーを守るからね」
「リコット嬢の話が本当なら俺も大丈夫なはずだ。ルビーの盾になる」
最近は右側にリコット、左側がロイドの定位置になっている。
結局、リコットは本当に私の側から離れる気がないようで、そのままお爺様の屋敷についてきて、一緒に暮らすことになってしまった。
リコットがここにいることは、表向き『辺境伯に嫁ぐための行儀見習いとして、アルマローレ家が預かっている』ということにしたようだ。
「お父さんたちを二人きりにしてあげたいからちょうどいいし」
「お父様の再婚のお話?」
「私は辺境に行く気満々だったから、いずれお父さんがひとりになっちゃうでしょ。仕事相手なんだけど素敵な人が見つかってよかったよ」
世間話なら話に花が咲くのに、本題に入ってからは悩むことばかりだ。
「王家の秘宝のことだけど、やっぱり宝物庫にあるのよね」
「そこから持ち出すのは、至難の業だな」
「本当は王族に聞くのが手っ取り早いと思うんだけど、レオグラス様は張本人だし、パトリックはたぶん、わたしやルビーには会ってくれないよね」
「王家の秘宝のことは、俺でも直接聞くのは難しいだろうな」
「秘密の宝っていうくらいですものね」
「考えてみたんだがヒューバートはどうだ。最近は宰相の元で学んでいるらしいから、王宮のことは詳しいのではないか」
「そう言えばヒューバートがいたね。あの人知識キャラだから知ってる可能性が高いかも」
「とりあえず、話だけしてみましょうか」
私たちは、情報通のヒューバートを仲間に引き込むため、三人で知恵を絞って作戦を練る。と言っても、ロイドとリコットは私を挟んで会話している感じだけど……。
それでも、念入りに計画を立ててワイズ家へと足を運ぶことにした。




