39 ジェイルの変化
「なぜ貴方が私についてくるのかしら。護衛はバンシーさんと交代してもらったはずよ。ついて回るのはやめてくださらない」
「それは承知しかねます。私はルビー様をお守りするためだけにここにいるのですから」
はいはい、ルビー様ね。
食事が終了して、それぞれ各自の部屋へと移動を始めた。私はリコットと一緒に、今夜泊まる予定の部屋へと侍女に案内されている最中だ。
なぜかその後ろを、当たり前のようについてくるジェイル。
ロイドからも何か言われていたのに、なぜバンシーさんからジェイルに戻っているのかしら?
近くにいられるのも、我慢の限界。
どこかに行ってほしくて思わず口に出てしまった。たぶん表情も不機嫌を隠せていないと思う。
「リコットもいることだし、このお屋敷の中では危ないことなんてないわ。心配していただかなくて結構よ」
リコットは一緒にいるものの、攻略対象者とは極力関わらないスタンスだから、隣を歩いているだけで話には入ってこない。
「それでも、私はお側におります。私が怖ろしいと言うのでしたら、もう睨んだり致しませんからご安心ください」
そう言ってから、ジェイルが見たこともないような笑顔で微笑んだ。
はあっ!? そう言う不意打ちは心臓に悪いんだけど。
「とにかく、私は大丈夫ですわ。リコットも私も、貴方がそばにいると落ち着かないから、安全な場所にいる時くらいは自由にさせて頂戴」
「え? わたしは別にいいけど?」
リコットのバカー、空気読め。
「リコット様もこうおっしゃっておりますし、私もいろいろ吹っ切れまして、考えを改めました」
偽物ルビーへ想いが吹っ切れたってことでしょ?
好きだって気持ちを改めたのよね?
「ですので、王都へ戻るまでの間は、ルビー様が誰かに脅かされることがないよう、全力を尽くす所存です」
それが仕事だものね。レオグラス殿下の命令できたんだから、そうするしかないでしょうよ。
「ああ、もう。勝手になさいませ」
援軍にはなってくれそうもないリコットだったけど、なぜか隣で私たちのやりとりをじっと見ていた。そして顎に手を当てながら何やら考えている。
「ジェイルだけはゲーム通りなんだね」
「なんのことでしょう」
リコットの独り言に怪訝そうな顔をするジェイル。
先ほどまでの笑顔が嘘のようだ。リコットに対しては、私の前でしていたように眉間にしわを寄せている。
「ううん、こっちの話」
確かに、攻略対象者はラザー以外リコットに見向きもしていない。王太子だけは少しの間、好感度が上昇していたようだけど、結局はエレーナ様を選んだ。
ラザーだって恋は諦めたみたいだし。ナジュー辺境伯の結婚相手もルビーではなくリコットだ。
レオグラス殿下に関しては、攻略対象者はヒロインの行動によって未来が変わるけど、ルビーの父プロシオと同じく、ゲーム上の役割で必要なキャラクターだから、性格がそのままなのは仕方がないのだと思う。
それでも、もし、私と一度も会わずに、まったく接点がなかったとしたら、現状は変わっていたのかも知れないけど……。
「それは判断が難しいわよ。一周目はもうこの世にはいないもの。私は中身が違うのだから」
「そう? あれ? もしそうだったら、ややこしくなりそうなんだけど」
「あ……」
先ほどリコットに向けたジェイルの顔つきが、以前の私を見ている時と同じだ。私はその意味に気がついてしまった。
ゲームのルビーの次はリコットなの?
ああ、ほんとに好きになる前で本当に良かった。
セーフだセーフ。
「お二人は何の話をされているのですか」
「ジェイルには関係ないことよ。気にする必要はないわ」
「さようでございますか」
私に対しては優しく接するようになったジェイル。
天邪鬼のキャラだったみたいだから、この態度からしてリコットへの好感度が上がってしまっているのかしら?
それはそれで困るわよね。
「今日はもう部屋から出ることはないから、護衛のお仕事もこれでおしまいよ。ごきげんよう」
私は、ドアが閉まる寸前、たぶんそうとう辛辣な表情で、その台詞をジェイルに向けて言い放った。
だって、なんだかわからないけど、腹が立つんですもの。




