36 リコットの前世?
応接室に戻ったあと、いったん客間に引き上げた私たち。
ロイドにすべてを打ち明けることに決めていたので、二人きりにしてもらうことにした。
「リコット嬢の話がどこまで本当か、ルビーにはわからないんだよな。すべてを信じてもいいものだろうか」
「私にはその部分の記憶がないから絶対とは言い切れないけれど、リコットの態度は、人を欺こうとしているようにはとても思えないわ。あの娘、とても真っすぐに見えるもの」
あれが素のリコット……前世の女の子の性格なんだと思う。もともとゲームのリコットは攻略対象者に合わせて性格を変える。求めるものが人によって違うのだから、そうしなければ恋愛ゲームは成り立たない。
たぶん猫をかぶることは簡単なのだろう。だけど、私に対しては媚びることも、ルビーの好みそうな人格を演じることもなかった。だから私は信じたい。
「いや、話からすると王太子殿下のことは騙していたと言うことになる。あと、サーフベルナ家の噂を流していたのは、ほとんどがリコット嬢本人だろう」
「それを言われるとつらいのだけど……」
「とりあえず様子を見ながら行動しよう。どっちにしろ、ルビーが危険にさらされているということは事実だ。ここにいる間はもちろん、王都に戻るまで、ルビーの身辺に気を配ることは必要だからな」
「ええ、私も慎重に動くようにするわ」
口に出したわけではないけど、ロイドから『本当にそうしてくれ』って聞こえてきたような気がした。空耳よね?
トン、トン、トン
部屋に籠って一時間ほどたったころ、ドアを誰かがノックした。
「何かしら」
私たちの話が終わるのを見越してか、部屋に訪ねてきたのはリコットだ。
「悪いんだけど、ラザーとの話し合いにルビーも付き合ってくれないかな。二人っきりじゃちょっと……」
「そうね。お兄様いいかしら」
「まあ、ラザー氏の部屋なら大丈夫だろう。でもこの屋敷の中を出歩く時は、万が一のことを考えてジェイルに付き添ってもらえ」
「ジェイル!? そのことだけど……私の護衛はバンシーさんに代えてもらえないかしら。ジェイルはやっぱり怖いわ」
「そうなのか?」
「ええ、だからお願い」
「ルビーがそう言うなら、あとでジェイルたちに言っておく」
こんなにあからさまに避けるのはどうかと思うけど、ジェイルがそばにいると変に緊張してしまう。
どんな態度を取ってしまうかわからないから、それだったら初めから遠ざけておいた方がいいような気がする。
それからリコットと一緒にラザーの部屋へと向かう。
一緒についてきたロイドがジェイルとバンシーさんに声を掛けた。
「ジェイルには俺から話がある。ルビーの護衛はバンシーさんにお願いしたい」
「承知いたしました」
「私に話ですか?」
「ああ、ちょっとな」
ロイドはそう言ってジェイルを連れてどこかへ行ってしまった。
私はこれから修羅場を見ることになるかもしれない。そちらの心配が大きくて、私たちから離れていく二人がとても真剣な顔つきだったことに気づくことはなかった。
「ロイドには全部話したわ」
「信じてくれた? 何も知らない人からすれば、ゲームのことなんて、どう考えてもおかしな話だよ?」
「ロイドってね。むかしから私の話は否定しないのよ」
「ゲームの内容知ってる私からしたら『すごい』って思っちゃう。めちゃくちゃ仲が悪かったのに。本当に頑張ったんだねルビーは」
「頑張ったって言えるのは、一番最初だけだわ。あとはずっと私の味方になってくれたもの」
「ふーん。それならいいんだけど……。よっし、今度は私が頑張る番か」
そう言ったリコットがラザーの部屋のドアをノックしようとしたとの時、突然ドアが開く。
「リコット!?」
「うわ、やだあ」
部屋の中から出てきたラザーは、リコットに気がついたとたん抱きしめようとした。それをとても嫌そうに避けるリコット。
本当だったら感動の再会になるはずだったのに……。
「どうしたんだ? 大丈夫だったのか? 迎えにきたから、こんなところから早く出て一緒に家に帰ろう」
「やだ。絶対に嫌だ」
「リコット!? なんでだ?」
わかってもらえるように努力するんじゃなかったの? これではラザーが可哀そうだ。しかたない私が助け船を出そう。
「こんなところではなんですから。お部屋に入れてもらえないかしら」
「あ、ルウさんたちもいたのか」
私とバンシーさんに気がついたラザーは、部屋の中に入れるようにドアを大きく開ける。
「おじゃまするわね」
ラザーに与えられた部屋も、私たちと一緒で応接室と寝室が二間続き。とても広い。申し訳ないけどバンシーさんはドアの外で待機してもらう。
部屋の中に入った私はリコットと一緒に、ラザーと向かい合う形でソファーに座ることにした。
ちなみにラザーはこの部屋に案内されてからずっと、気持ちが落ちつかずに部屋の中をウロウロしていたらしい。
部屋から出るなとは言われていたけど、意を決してリコットに会いに行こうとドアを開けたところ、私たちがそこにいたようだ。
思い余ってリコットを抱きしめようとしたみたい。
だけど、あれ、好きじゃない相手なら確かに嫌だわ。




