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33 攻略対象者 ジェイル 4

 私は単騎でナジュー領へと全速力で馬を走らせた。


 途中で馬を代えて、眠らずに街道を進んでいると、翌日の昼過ぎに一台の馬車が道をふさいでいた。

 通り過ぎようとしたところ、名前を呼ばれたので驚いて馬を停止させると、それはアルマローレ家に仕えている知り合いの元王国騎士。


 なんと、馬車が故障したためルビー様たちの護衛だと言うのに、先に進まれてしまい見失ってしまったそうだ。

 近くの町で馬を借りてきた数人がこれから後を追うと言うので自分も同行することに決めた。


 ルビー様は自分が誰かに害されるとは、これっぽっちも思っていないのだろう。護衛をそばに置かず旅をするなんて無謀だ。そんなことを許すロイド様も、さすがにお坊ちゃん育ちが過ぎると悪態を心の中でつきながらアルマローレ家の騎士たちに混ざり、ルビー様たちの馬車を探した。


 次の町でルビー様たちの乗っていた馬車を見つけ一安心したが、馬車には人の気配がなかったので、アルマローレ家の騎士たちにも緊張が走った。


 偵察に向かった私たちは馬車の中でうずくまるロイド様を発見。アルマローレ家の騎士たちの医療班の者ががすぐさま症状の確認をする。

 それはある食材による軽い中毒だそうだ。特定の者だけに出る症状でそれほど重くはならないらしい。間違いがあるとまずいということで町の診療所で確認をしてもらうようだ。


 ちょうど御者をしていたラザーという男が診療所の場所を聞いてきたと言うので連れていくことになった。


 それよりルビー様だ。


 ラザーが言うには馬車から離れる前にはルビー様もロイド様のそばにいたと言う。


「どうかご無事で」


 神に祈りながら残ったアルマローレ家の騎士たちと周辺を手分けして探す。


 馬車には争った形跡はない。ルビー様が自ら馬車を降りたのだろう。


 私はルビー様がそうするであろうことをシミュレーションしてみる。


「あの馬車から見えるものでルビー様が気になるもの……」


 食堂の看板が目に入る。あれを目指していったとしたらこっちの方へ歩いてきたのだろうか。大通りを走り抜けそのあたりの路地裏もくまなく確認しながら進む。その時だ。



「おーい誰か来てくれ。獲物が自分から飛び込んできたぞ」

 その声が聞こえてきたのは。



 ルビー様が小汚い男の手によって拘束され、どこかへ連れさられそうになっていた。


「なんてことを」


 細い路地を曲がった先。距離はあるがすぐにでも男をルビー様から引き剥がしたかった私は、その辺に転がっていた拳大の石を拾って男へと投げつけた。


 背中を向けていたこともあり、的が狙いやすかった。それは男の首の付け根に命中した。石が当たった男はその場に崩れ落ちたのですぐさま距離を詰めて、私は力いっぱい蹴り飛ばした。




「やばいやばいやばい――――」


 ルビー様の口からあり得ない言葉が出ている。

 ――――あれは空耳だ。だからレオ様にも報告しない。


 ルビー様は男が倒れたことを不思議に思っているようだ。キョロキョロしているがまだ私には気づいていなかった。


 私が声をかける前に、前方から男の仲間と思われる小汚い恰好をした男たちが四人も現れる。ルビー様が逃げ出そうとしてこちらに顔を向けた。


「ルビー様、お怪我はありませんか」

「はい?」


 混乱しているのか状況が把握できていないようだ。


「な、何でジェイルがここにいるのよ!?」


 ルビー様は立ち尽くしたまま、私のことを呆然とした面持ちで見つめている。

 

「もしかして、レオグラス殿下にたのまれたの?」


 やっとすべてを理解したのかルビー様が話しかけてきた。


「ご自分が動けないので代わりに行けと言われました」

「だとしてもあなたは殿下の従士なのだから、こんなところにいていいはずがないでしょう」

「ルビー様を守るためですから」


 レオグラス殿下の命令だとしても、それは私の本心でもある。


「アルマローレ家の方に話を聞きましたが、目立ちたくなくて護衛を嫌がっているそうですね。私は今帯剣しておりませんので一見では騎士とはわからないと思います。フードで顔も隠しますし。ですから私をルビー様のお供に加えてください」


「ジェイルがついてくるの?」

「ええ、おそばでお守りいたします。それが私の使命ですから……それにしても、レオ様のなさりようには参りますよ」 


 思わず最後の方でレオ様に対する愚痴が出てしまった。レオ様のいないところでルビー様にどう接したらいいものか……。


 ルビー様がじっとこっちを見ていたので、あわてて頬を指でかいて誤魔化した。


「あ、ロイド様はある植物の中毒です。診療所へ連れて行きましたのでもう大丈夫ですよ」

「はぁ?」


 また困惑した声を出したルビー様。

 急にフラッとルビー様の身体が揺れたので、思わず手を出してしまった。ルビー様は驚いてその手から逃げる。

 それでも視線はなぜか私から外さなかった。



「ジェイル、さっきは助けてくれてありがとう」



 私を嫌っているはずなのに……公爵令嬢であるのに……。


 こういうところに私は惹かれたのだろうな。


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