32 攻略対象者 ジェイル 3
その後、パトリック王太子殿下と話が終わったレオ様は、ルビー様のあとを追うように廊下を進んで行く。そして途中で足を止めた。
「あれはヒューバートだね」
ルビー様はロイド様と一緒に宰相の子息と話をしていた。
「ルビー様、ヒューバート様とだけは仲良くされていますよね」
「ヒューバートのそばにいると癒されるんだって。そんなこと、これっぽちも思ってもいないくせに。きっと何か理由があるんだろうね。僕にもあんな風に言ってもらえないかな」
「ルビー様の本心でなくてもですか?」
「それは嫌だよ」
ルビー様が誰かと交流している時には、レオ様は距離を置いて決して邪魔はしない。遠くでいつも見守っている。私だったら他の男と仲良くしている姿は見たくない。レオ様は不思議な方だ。
人と距離を保っていたルビー様が突然準男爵令嬢のことを気にかけ始めた。その令嬢はルビー様とは真逆で可愛らしい容姿をしていて纏っているのはいつも明るいオーラ。微笑むだけで貴族子息たちは虜になっていた。
確か彼女はパトリック王太子殿下と仲が良くなり、そのために女子生徒たちから虐められていた。私は介入することが出来なかったので遠目にその姿を見ただけだが、なぜかルビー様まで悪しざまに言われていた。
令嬢たちの誹謗中傷はとても許容できるものではない。
「なぜかビィが放っておいているんだもん。僕たちは見ているしかないよね」
レオグラス殿下がそう言うので、私も我慢するしかなかった。
そのルビー様がとても珍しいことに、今頃になってその準男爵令嬢の婚約話をなぜか調べている。この状況にレオグラス殿下が関心を示されることは予測できた。
「レオ様はリコット嬢のことが気になるのですか」
ルビー様がロイド様以外に心を割くことはなかったと思う。レオ様はどう思っているのだろうか。
「あの娘はビィとは何もかも違うからね。兄上もそうだったけど、ビィのことを好まない者が惹かれる何かがあるんだよ。だからロイドがってなるとちょっと安心できないかな」
確かに、リコットに好意を向ける者たちは、逆にルビー様を嫌う傾向があった。ちゃんとした理由もなくだから意味がわからない。
あれだけルビー様のことを溺愛しているロイド様だが、リコットに想いを寄せているとなれば、ルビー様に悪い影響がでないとも言いきれない。
「さようですね」
気になって少し調べてみたが、リコットの噂話はあまりにも絡みすぎていて、どれが真実かつかめなかった。それも船の話、借金の話、辺境伯との婚約の話、すべてにおいてだ。
複雑にするために、あえて誰かが意図的に嘘の話をばらまいたとしか思えない。
リコット本人も人によって印象が違う。正しい人物像がつかめないでいた。
レオ様もパトリック王太子殿下に話を聞いたそうだが、リコットのことは話したくないと突っぱねられたらしい。
何もわからないまま、休みが明け、学院へと向かったレオ様と私はルビー様とロイド様の姿が見えないことを心配していた。
レオ様が王家の力を使って調べた結果、ルビー様とロイド様が二人で休暇届けを出し、ナジュー領へと旅立ったことを知る。
ルビー様たちが怪しげな行動をとっていることは知っていたが、それでもこんなに早く事を起こされるとはレオ様すら思っていなかったようだ。
昨日の朝王都を出たそうだから、二人が旅立ってから丸一日以上もたっていた。
「僕のかわりに行ってくれない」
「私はレオ様の護衛騎士です。それはできません」
「ビィに何かあったら僕はどうなるかわからない。だからビィが最優先だ。わかっているだろう。これは命令だよ」
「しかし……」
「ジェイルだったら絶対ビィを守ってくれるよね。僕に言われなくてもさ。だってビィだもの」
「レオ様?」
「僕にはビィを守る力がないからね。だからこそ、そばにいてあげて」
なんてことだ。
レオ様は私の気持ちを知っていた。




