26 私の記憶
別室を用意してもらい、私はリコットと向かい合わせで見つめ合っていた。もちろんこの部屋には二人だけしかいない。事前にリコットが誰も入らないように厳命していたからだ。
それにしても、なんて可憐な少女なんだろう。
上目づかいや涙目でお願いされたら私でも望みを聞いてしまうかもしれない。
それでいて、しっかりしたところを見せられれば、それはそれでギャップ萌えだろう。狙った獲物は誰でも攻略できる理由が私にも理解できる。
きっとナジュー辺境伯も簡単に堕とされたんだろうな。
私がそんなことを考えていたので、先に言葉を発したのはリコットだった。
「なんで追いかけてきたのよ。私はゲームなんて開始したくないの。それに貴女のせいで婚約が破棄されたらどうするつもり。ガーナス様は貴女みたいな見た目が好きなんだから」
ゲームでナジュー辺境伯がルビーを後妻にするのはそのせいか。
「ゲームを開始って、もう終了しているんじゃなくて?」
「はあ? 何言っているの。自分の破滅を回避していたようだから貴女も転生者なんでしょ。もしかしてこのゲームのこと知らなかったりする?」
「記憶はあるわ。卒業式が終わったから乙女ゲームの攻略期間はすぎたわよね?」
王道であるパトリック王太子殿下が卒業するまでのはずだ。
「本当に何も知らないんだね。だからガーナス様を怪しんでこんなところまできちゃったのか。あの人はゲーム上必要なことやっているだけなのに」
何も知らない? そんなはずはない。
「私、思い出したことは途切れ途切れだけど、何も知らないわけじゃないわよ」
だから今まで断罪されないように生きてきたのだし。
「破滅の魔王って知ってる? ヒロインがなぜ聖女になるかとか。レオグラス殿下や攻略対象者の役割のことは?」
「破滅の魔王? 聞いたことがないわ。みんなの役割って貴方の恋の相手よね。レオグラス殿下は違うけど」
リコットは黙ったまま、とても難しい表情で何かを考えている。数分の沈黙の後、爆弾発言を落とした。
「貴方がルビーだから、関係のある記憶しか蘇らなかったのかもね……勘違いしているようだけど、この世界は乙女ゲームなんかじゃないよ」




