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21 ナジュー辺境伯爵領

 ナジュー辺境伯爵領は自然が多くのどかな風景が広がっていた。


 ナジュー領は辺境と呼ばれるだけあって隣国との国境に面している。そのため我が国にとって重要な防衛拠点でもある。


 もともとあまり豊かな土地ではなかったから、農耕は盛んではなかったようだけど、今は風土に合うものを選んで育てているそうで、畑が増えたのも現ナジュー辺境伯になってかららしい。ここでしか栽培されていない植物がたくさんあるそうだ。

 もしかしたら、その中にはお茶会で聞いたような麻薬の原料も含まれるのかもしれないのだけど……。


 ところが伯爵家のお膝元の都市に近づくにつれて風景がガラッと変わった。街道は整備されていて歩きやすく、建物は規則正しく並んでいる。使われているレンガは暖色だけではなく青色や緑色、様々な色がついていて鮮やかだけど、それも順番に並んでいるところを見ると何か意味があるのだと思う。


「ナジュー辺境伯領の領土には、白い土や石材が多くてレンガや建材が染めやすいそうだ。隣国との争いも久しくないから、産業に力を入れているんだろうな」


 ロイドは短期間の間にナジュー辺境伯領について調べてきたらしい。


 辺境と言われるのだから田舎町を想像していた。だけど、間違いなくアルマローレ領より洗練されている。この街を見ただけでもナジュー辺境伯領は本当に潤っていることがわかる。


 他にもナジュー産の化粧品は使い心地が他のものとは全く違う。化粧水は肌が潤ってモチモチになるし、ハンドクリームやボディークリームは乾燥肌にはとても良いらしい。

 もともと人間離れしている私にはあまり関係がないけど「カサカサが気にならなくなる」と侍女たちが噂しているのを耳にしたことがある。

 それにいろいろな香りがあって、それがほんのり香るから、香水より使いやすいと令嬢たちにも人気があるようだ。

 医療用の薬品もいろいろ開発をしていて、この大陸で使われている鎮痛薬はほとんどがナジュー産だし。


 元はと言えば、ナジュー伯爵が不老不死を得るために作った、薬の副産物だと言うから何が幸いするかわからない。


 外見はゲーム画面でも見た覚えがないので知らないけど、貴族でありながら背中を丸めた覇気のない中年男性だと聞いている。

 前世の記憶を思い出してみれば、寝食を忘れ何かに血力を注いでいる研究者と言われれば想像できないこともない。


「この辺には独立した一軒家というものが見当たりませんね」

「建物はすべて何かの規格で建てられているようだな」

「屋根から湯気だか煙だかが出ているところを見ると何かを加工している工場かもしれないですよ」

 バンシーさん、ロイド、ジェイルが建物を観察しながら話し合っていた。確かにこの辺りは草っぽい独特な匂いがする。ジェイルが言う工場というのもあながち間違いではないと思う。


 そこからナジュー伯爵の邸宅がある街の中央へと足を運んだ。

 二時間以上かかってたどり着いたその場所は、お土産を売っている店舗がズラリと並んでいる観光地になっていた。

 観光客で人がごった返してとても活気にあふれている。


 私たちも観光客を装い、それとなく町の様子を探る。

 薬屋と美容品屋には『ナジュー領限定品』の札がついているものが多く、お店の人が言うにはこれだけを目当てにここへ訪れる人もいるのだそうだ。


 アルマローレ家のように鉱脈を持っているため潤っている領地は別として、自作したものでここまでの特産物を有している貴族家はそうそうないのではないだろうか。

 お爺様もナジュー家は妬みで悪評を立てられていると言っていたが、貧乏貴族からしたら羨ましくもあり、それもあり得ることだと思う。


「ナジュー様のおかげであたしらは本当に助かっているんだ」

「あの方がいろんなものを開発してくださるから助かってるよ」

「商売やっている者以外は、工場で雇ってもらえるからな、ここらじゃ食いっぱぐれる者なんかいないさ」


 町の人たちは声を揃えて辺境伯を褒め称える。


 それでもリコットを欲したナジュー伯爵の行為を許すことがことができないので、理由なき悪評だとしても私は同情することができそうになかった。


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