13 事件の概要
馬車に戻ると、すでにラザーも帰っていた。
ロイドも先ほどより身体が楽になったみたいで、座席にふつうに座れるまでに回復しているようだ。
御者をラザーに任せ、今日宿泊する予定の宿へと向かう。移動中にジェイルがロイドの症状を説明してくれた。
「この辺で採取される山草の中に、人によっては身体にあわないものがありまして、熱や発疹がでるんです。それがごく稀なため食材にまざってしまう店もあってですね、みなさんが昼食をとった店もそうでした。放っておいても半日もすれば回復しますから、何度おふれを出しても改善されていないようです。ですからこれから大衆の食堂でお食事をとる際には十分お気をつけください」
前世でいう食物アレルギーみたいなものらしい。
ジェイルが一緒についてくることについては、二人とも反対しなかった。
ロイドは護衛をしてもらえるなら有難いと言う。
ラザーは自分自身も私たちのおまけだと思っている節があり、誰が一緒でも構わないようだ。
宿へ着いて食事をすませたころ、夜遅くにアルマローレ家の護衛代表者が私たちに謝罪をするためやってきた。
ずっと私たちの後ろをつかず離れずでついて来ていたらしい。二日目に宿を出発した際に馬車の車輪が外れるというトラブルがあって、私たちを追ってくるのに時間が掛かってしまったそうだ。
アルマローレ家の騎士たちは目立たないように私たちと同じように馬車で移動をしていた。
確かに護衛対象がいない状態で、帯剣した騎馬が数人まとまって他領を断りもなく移動していれば、不穏に思われてしまう。
ロイドが体調を崩したため、私たちの馬車は速度を上げて先を急いだこともあり、護衛に支障ができてしまったことは運が悪かったと言えた。
みんなに言われるまで護衛をつける気がなく、私のわがままのせいで、遠巻きにしか守ることができなかった彼らを咎めることなんて出来るはずもない。
馬車の故障は、故意的に細工がしてあったそうだ。私たちの護衛だとわかっていて足止めをしたのなら、暴漢たちには初めから狙われていた可能性がある。アルマローレ家の者と知っていて襲ってきたのか?
それについては、暴漢たちに確認中だという。結果はあとで教えてもらうことになった。
騎士たちが帰ったあと、部屋の応接室に設置されているソファでロイドとふたりで座り、向かい側に座っているジェイルと話をすることにした。
私は精神的に疲れはてていたけれど、聞いておきたいことがあったからだ。
「ルビーを助けてくれたこと、本当に感謝している」
「ルビー様をお守りするために駆けつけましたので、間に合って良かったです。ルビー様に何かあったらレオグラス殿下にも顔向けできませんから」
ジェイルの言葉にロイドは苦笑いで返す。
ロイドにもレオグラス殿下が私にかまう真意はわからないと言っていた。
ただの好意だけなのか、裏に何かを隠しているのか。三年間同じクラスになるほど執着されていると思っているのは私だけではない。
これがただの偶然だったりしたら笑い話ではあるのだけれど。
「ジェイルはアルマローレ家の騎士たちと知り合いでしたの?」
「いえ、単騎で移動している最中、ひとつ前の町の近くで、立ち往生していたアルマローレ家の方たちにお会いしました。幸いなことに彼らの中に、私がレオグラス殿下の従士であることを知っていた者がいたようです。アルマローレ家の方たちが馬を借りて半数だけで先行すると言っていたので、私も同行させてもらいこの町までやって来ました」
ジェイル自身とても目立つし、アルマローレ家に仕えている者の中には、王国騎士団出身者もいるから知っていてもおかしくはない。
「私たちの後を追ってこれたのはなぜかしら。人には知られないようにしていたのに」
「それは私の一存ではお話しできません」
言えないってことは、王家の暗部を使ったっんだと思う。有力貴族は王家に監視されていると聞いたことがある。
「では、なぜレオグラス殿下はそこまでしてくれるのかしら。王族の護衛騎士を臣下につけるなんてありえないことよ。私は殿下とは何も関係がないただの令嬢ですのに」
婚約なんて絶対にしないし、私たちに特別な関係があってたまるもんか。
「それは私の口からはなんとも……レオ様のお気持ちを察してくださいとしか言えません」
「おかげで今回は助かったし、ルビーを大事に思ってもらえるのは有難い。だが、以前ルビーが王太子妃候補になったことで大変な目にあってのはわかっているはずだよな」
ロイドが加勢してくれるようだ。
「妬まれ、陰口を言われて友達ひとりできなかったんだ。つり合いのとれる子息にも敬遠されていたから近づく者も皆無だった。レオグラス殿下がそばにいたらまた同じことになると思う。ルビーにその気がない以上、学院内では放っておいてもらえないだろうか」
そうだ、そうだと心の中でロイドの応援をした。でも、友達はできなかったんじゃなくて、あえてつくらなかっただけだ。そこは訂正したい。
「…………それとなく伝えておきましょう」
「あと私を拘束していた男が突然消えたのはなぜかしら」
「ルビー様を見つけたときに距離がありましたので手ごろな石を投げつけました。倒れたところに駆けつけ蹴り飛ばしたんです。あの時ルビー様はかなり混乱していたようですので周りが見えていなかったのではないですか」
「そう……かもしれないわね」
たしかにあの時はパニックになって頭が真っ白になっていた。
「これからは今日みたいなことがないように、私がおそばでお守りしますから」
「ルビーを頼む。頼みついでにすまないが、もう少しルビーに優しく接してもらえないだろうか。ジェイルが厳しい顔つきをしているとルビーが怯える」
「――――かしこまりました、善処いたします」
公爵令嬢の礼儀作法として、思っていることが顔に出ないよう、無表情でいたつもりだった。
だけど、ロイドにはジェイルを怖がっていたのがわかっていたらしい。さすがは双子の片割れだ。




