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いつか散る花に恋して  作者: 美鳥ミユ
CHAPTER 02:破滅の詩と光の歌
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 アルビジア――自然をこよなく愛する者が住まう街。その地を目指し、マリーツァは友人ミカエラ、騎士であるウィスタリアとヴィルヘルムと共に王都イリスを発ち、街の北に広がる森を進んでいる。

 そこは、それほど暗い森ではなかった。だが、どこか不穏な空気が漂っていることにマリーツァも足を踏み入れた途端に気付いた。ミカエラも隣で辺りを見回し、不安そうな顔をする。

「……気をつけてください、マリーツァ、ミカエラ。魔物の気配がします」

 少し進んだところで、ウィスタリアが表情を歪める。ヴィルヘルムも剣を抜き、鈍く光る切っ先をある方向へと向けた。それに続くようにマリーツァは杖を握る――その直後だった、四人の前に二体の魔物が姿を見せたのは。それは醜悪な見た目をした魔物だ、ぎらついた目に、鋭い角と牙。大きな棍棒のようなものを握り、じわじわとマリーツァたちへ近付いてくる。

「――氷塊よ!」

 先制攻撃を仕掛けたのは、意外なことにマリーツァだった。これまで魔物と交戦したことなど無い。だが彼女は強く杖を握り締め、嵌め込まれた氷の魔石の力を引き出してみせた。鋭い氷の塊が、魔物たちを凍てつかせる。彼女の背後で、ミカエラは改めて感じる――マリーツァが本当に巫女として目覚めたことを。魔法学校で学んだわけでもなく、いとも簡単にマリーツァは魔法を使って魔物を撃破した。彼女に続くように、ウィスタリアとヴィルヘルムが残ったもう一体を難なく倒し、それぞれの得物を下げる。

「お見事です、マリーツァ」

「流石は巫女ですね」

 騎士ふたりが口々に言う。このセフィーラを天より慈しむ女神が直々に祝福を――力を与えたのだ、巫女というのは本当に特別な存在らしい。ミカエラは確実に力に目覚めているマリーツァを誇らしく思う半面、自分の無力さに嘆きたくもなった。だが、ここでそんなことを口にすれば、マリーツァだけではなくウィスタリアたちも困らせてしまう。精神的にマリーツァを支える。それが自分の役割だと言い聞かせ、ミカエラは歩むのを再開したマリーツァの背を追いかけていくのだった。




 森に入って、一時間と少し。魔物とは数回交戦したが、いずれもマリーツァたちは難なく撃退した。

 もう少しでルルディ族の暮らすアルビジアに到着するはず、とヴィルヘルムが言った直後、数メートル先に人影が見えた。どうやらマリーツァやミカエラと然程歳の変わらない少女のようで、彼女はまだマリーツァたちに気付いていない。少し歩いては止まり、ひどく不安そうに木々を見上げる。マリーツァは歩きながら首を傾げた。少女との距離が詰まっていく。ミカエラが彼女に声をかけようとしたその瞬間、少女の瞳が一行をとらえた。

「……!?」

 透明感のある瞳。細く長い手足。そして、鋭く尖った耳。マリーツァは気付く。彼女は普通の人間ではなく――ルルディ族と呼ばれる種族だと。この森はルルディ族の暮らす街へ続いているのだから、きっと間違いではない。だがしかし、少女は怯えているように見えた。不安に押し潰されそうな顔をしている。マリーツァがそんなことを感じながら、ルルディ族の少女へと歩み寄る。

「あ、あの、あなたはアルビジアの方、ですよね?」

 マリーツァの問いに、少女はすぐに答えを出すことは無かった。目の前にいるマリーツァやミカエラたちを無言のままじっと見ている。

「私は、マリーツァ。花の巫女です」

 小さく頭を下げる。薄紅色の髪は森を通り抜ける風と踊った。

「……あなたが、巫女?」

 少女がやっと口を開く。まだ硬い表情のままで、発せられたそれも辿々しい。マリーツァは「ええ」と頷く。ルルディの少女は考えを巡らせているのだろう、数分間はそれ以上の言葉を口にはしなかった。マリーツァやミカエラは彼女を見つめて、次の台詞を待つ。

「……私たちは、ヒトと関わることを望みません」

 その言葉に、マリーツァの後ろに立つウィスタリアとヴィルヘルムがそれぞれ腕を組んだ。想定の範囲内だ。相手が花の女神フルールに選ばれた「花の巫女」であれば、ある程度協力してくれるかもしれないとは考えていたが、すぐに受け止めてもらえるとは思っていなかった。そんなふたりの側で、マリーツァは悲しげな顔をした。ミカエラも友の横顔を見て、肩を落とす。

「でも、巫女様……なら……もしかしたら……」

 少女が独り言を言う。マリーツァはそんな彼女を見て首を傾げる。彼女は滲む不安を隠しきれていない。何かがあったのだろう。たったひとりで森を歩き回る理由が、それと交わっているに違いない。

「あ、あの、何かあったのですか?」

「えっ……いや、これは……私たちの」

 問題ですから、そう続けようとした少女に一歩近付いたのは問いかけたマリーツァではなく、ミカエラだった。

「森に異変が起きているんですよね? 私たち、何度も魔物と交戦しました。本当は静かな森だって、聞いています。アルビジアでなにかがあったのではありませんか?」

「……!」

 更に目を大きくさせたルルディ族の少女に、ミカエラは続ける。

「彼女は花の巫女です。あなた方の力になりたくて、マリーツァ……巫女はここに来ました。どうか話を聞かせてくれませんか?」

「……わかりました」

 ミカエラの懇願にも似たそれに、少女はやっと頷く。マリーツァとウィスタリア、そしてヴィルヘルムがミカエラを見て、そして少女へと目線を動かした。彼女は酷く哀しそうで、同時に苦しげな顔をしている。

「私たちの街――アルビジアには神木という特別な大樹があります。ずっとずっと昔から、ルルディを見守ってきた大切な巨木……それが、力を失って、枯れ果てようとしているんです。みんながそのことに大きな不安と悲しみを抱えていて……なにか災いが起きるのではないかって、みんな言っていて……」

 少女の声が震えている。今にも泣き出しそうな彼女に、マリーツァたちは目を伏せた。

「みんなの為にも、なんとかしなきゃいけないって、私はアルビジアを飛び出したけれど、何も得られずにただ森を彷徨うだけ……そこで、あなたたちに会ったのです」

「……そうなのですか」

「巫女様。先程は……その、大変失礼致しました。アルビジアへ来て頂けますか……?」

 少女は言い、マリーツァは勿論と答えてから、ひとつ問いかける。少女のことを真っ直ぐに見つめて。

「その前に、あなたの名前を教えて?」

「えっ……はい、私の名前はグレイスです」

 グレイスが深々と頭を下げた。数秒後に顔を上げた彼女に、ミカエラ、ウィスタリア、そしてヴィルヘルムがそれぞれ名乗り、最後に改めてマリーツァが簡単に自己紹介をする。少し前に花の巫女となり、シエル王国からジュビア王国へ来たこと。アルビジアで異変が起きていることを聞いて、森に入ったこと。そして、そのアルビジアで「二番目の巫女」と会えるだろうと言われていること――グレイスは静かにそれを聞き、マリーツァの話が終わると「ご案内します」と言って歩き出す――もうアルビジアは目と鼻の先らしい。

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