7 家宅捜査
また一週間が過ぎた。
瀬川の真心営業は大きく開花した。蒔いた種がようやく花を咲かせ、次から次へと実を結んだのだ。この一週間ですでに1千万以上を売り上げ、一躍トップに躍り出た。
鍵澤も悪事からは手を引き、誠心誠意で仕事に取り組み、成果が上がり始めていた。
ただこの一週間、瀬川と話す機会はなかった。
他の者たちも続けとばかり、仕事に真面目に取り組んでいた。事務所内が活気づいていたのは間違いなかった。
そんな折だった。
夜8時半。営業社員が戻ると、事務所内には警察官が大勢押し掛け、家宅捜索を繰り広げていた。机の中、戸棚、書類ケース、ロッカー全ての中身が開けられ、私物以外の物がほとんど押収されている。あたりは廊下にまであふれる段ボール箱の山となっていた。
パーティションで仕切られた奥の応接間では女子社員が取り調べを受けていた。
別の小部屋では怒号が飛んでいる。大川所長と徳潟の二人が捜査員に事情聴取を受けているのだった。
鍵澤と他の営業社員はみな茫然と立ち尽くした。
「お前たちはここの社員か」
でかい声がした。がっちりした体躯、いかつい顔面の中年刑事が怒声を上げた。
「今戻った者はこれから任意の事情聴取を行う。一人ずつ順番に呼ぶからそれまで各自の席について待て」
任意といっても強制と同じだ。もしも拒否した場合、眼をつけられ大変な事態に陥るのは目に見えている。これは従うしかない。皆不安と失望の入り混じった、間抜けで情けない顔をさらけ出していた。
社員が順番に呼ばれ、各自が三〇分ほどの取り調べを受けた。
取り調べが終わった女子事務員は半べそをかきながら帰っていった。
予想通り、自作自演の悪事、不実の告知、痴ほう症老人との契約、必要のない工事の斡旋、クーリングオフの説明など、悪徳リフォームの疑いだった。やったのかどうなのか、根掘り葉掘り問い詰められた。初めから犯人扱いだ。事前の対策を勉強会と称して行っていたため、誰もが言い逃れを試みた。我が身を守るために必死だったからボロを出さずに済んだ。瀬川だけが堂々と悪びれることなく受け答えをしていた。全員が解放されたのは午前1時を回った頃だった。
大川所長と徳潟は警察署に連行された。
明日の業務休止と自宅待機が命じられた。
事務所を出たのは午前2時を回っていた。生ける屍のような集団となって皆会社を後にした。
とうとう来るべきものが来たというだけなのだ。解っていても、まさか自分たちが現実にこんな目に遭うとは未だ信じがたいものがあった。衝撃を隠し切れないでいた。
あくる日の午前、鍵澤はロッカーに置き忘れた着替えと靴を思い出し、事務所へ向かうことにした。
本社からやって来た総務課六名が整理、片付けをしていた。雑然としていた。
総務課の一人に訊ねた。
「会社、これから一体いどうなっちゃうんですか」
「営業の方ですか」
「そうです」
「お疲れ様です。リフォーム部門の包括営業部は今月で解散することになりました」
「え、ええ。そうなんですか」
「この有り様ですから仕方ありませんよね。月末までに整理と手続きの方をお願いします。大変申し訳ないですが」
愕然とした。突然の幕切れだった。いや、それはある程度予測していたが、余りの対応の速さに驚いた。本社はリフォーム部門などどうでもいいかのようだ。たしかに他の事業が好調だという話は聞いていた。だけど元はリフォーム部門から始めて成長した会社なのだ。いとも簡単にトカゲの尻尾のように切り捨てられたのだった。
「もう決定ですか」
「ええ。明日は社員の皆さんに出社していただきます。今後の説明をしたいと思います」
「大川所長と徳潟部長はどうなりました」
総務課社員の表情は曇った。
「おそらく最大20日間の拘留でしょうね。その後どうなるか」
鍵澤は力を失い、よろよろと事務所を出た。
続く