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送り本

作者: レモネード

 短編初投稿です。


 拙い文章ですが、楽しんで頂けたら幸いです。

 小さな頃から本を読むことが多かった。


 初めて小説を読んだのはいつ頃だっただろうか。あれは確か5歳の誕生日だった。

 僕はおもちゃが欲しいと言ったんだけど誕生日に父さんから貰ったプレゼントは本だった。ワクワクしながら袋を開けた後の絶望感は今でも忘れていない。

 幼い頃の僕には難しくてほとんど読めなかったっけ。母さんが「なんでそんな物にしたの!!」って父さんに怒ってた。父さんも怒られてしょげてたっけなあ。


 そのころはまだ父さんも生きていた。あまり笑わない人だったが、本が好きだったのは覚えている。

 その父さんは5歳の誕生日の少しあとに事故で亡くなった。その時僕はあまり悲しくはなかった。でも母さんが泣いていたのを見て、悲しくなった。


 その後に父さんがくれた本を読んでみたんだ。


 それまで絵本を自分で読んだり、母さんに読んでもらうことはあったけど、絵のない本はあれが初めてだった。

 5歳の僕には難しくて退屈だった。でもそれを読んでる間は、大人に近づいた気がした。母さんも何故か涙ぐみながら「そんなに難しいのが読めるの?偉いねえ。」といって頭を撫でながら褒めてくれたんだ。


 それだけだったけど嬉しかったんだ。


 それから僕はことあるごとに母さんに本をねだるようになった。父さんが亡くなってから悲しそうな顔をしてることが多かった母さんは、僕が本を読んでいると僕の前では嬉しそうな顔をしていたんだ。


 母さんは、「毎日お手伝いをしてくれたら、本を買ってあげる」っていってた。

 だから僕はそれから毎日家の手伝いをした。お皿洗いに掃除。洗濯もした。そういえば洗濯は最初洗剤を一本丸々入れちゃったんだ。母さん困った顔してたな。


 失敗も多かったけど、母さんはいつもほほえみながら「ありがとう」と言ってくれた。


 頑張ったご褒美にもらえる本がうれしくてたまらなかった。家事の手伝いもだんだん楽しくなって、それは僕にとってかけがえのない時間になったんだ。


 買ってもらった本は大事に読んだ。最初に読んだときは難しくて退屈だったのに、大きくなってきてからはすっかり夢中になってた。それに意味の分からない言葉は母さんに教えて貰った。母さんはいつも嫌な顔をせず丁寧に教えてくれた。


 本は僕にとって母さんとの思い出が詰まった大切な物だ。だから僕は本が好きだ。



 小学生になってもよく本を読んでいた。そのせいでよく同級生に「本の虫」とか「根暗」とか言われてからかわれたりしたけど、僕はあまり気にならなかった。それにいつも本ばかり読んでいるからといって友達がいなかったわけじゃない。少ないけど仲の良い友達だっていたんだ。


 母さんは「本ばかりよんでないでもう少し友達と遊べばいいのに」といっていたが、僕は友達と遊ぶよりも、本を読んでいる方が好きだった。

 いや、もちろん友達と遊ぶことが嫌だったわけではない。少ない友達と公園で遊んだりもした。流行ってた虫のカードゲームを一緒にやったりもした。


 その時までは、そんな日常がこれからも続くと思っていた。


---------------------------------



 小学6年の夏に、母さんが交通事故で死んだ。


 突然だったのことだった。


 休み時間にいつものように学校で本を読んでいたら、先生が深刻そうな表情で「寺内、ちょっといいか」と僕を呼んだ。最初は怒られるのではないかとビクビクしていけど、そうじゃなかった。

 先生に母さんが交通事故にあったと聞かされた時は、何を言ってるのか分からなかった。頭は動かないし、息が上手くできなくなって、倒れそうになった。先生は僕の背中を支えてくれて、励ましてくれていたと思う。よく覚えていない。



 母さんが交通事故にあったと聞いても、まだ生きていると思っていた。いや、思いたかったんだ。


 病院について、消毒液の嫌な匂いをいっぱいに吸い込みながら、僕は白い服を着た大人の後に着いて行った。そいて案内された部屋には、白い布を被された母さんがそこに寝てた。


 冷たくなった母さんを見たとき、僕の心にぽっかり穴が開いたような気持ちになった。

 目の前の現実が受け入れられなくて、呆然と立っていた。でも何故だろう、涙は出なかった。


 その後も僕は涙を流すことは無かった。


 付き添ってきてくれた、親戚のおじさんと家に戻った。いつもなら、母さんがご飯を作ってくれていて、僕はリビングでそれを待ちながら本を読んでるんだ。でもその日は何もなかった。ただ、寒いだけだった。


 それ以来僕は自分の殻に閉じこもってしまった。


-------------------------------------------



 それから僕は母さんの弟、つまり僕の伯父さんの家に預けられることになった。

 伯父さんは独身で、ずっと一人で暮らしているらしい。


 元いた学校も転校して、叔父さんの家の近くの小学校に通うことになった。

 だけど、僕は新しい友達を作ることはしないで、ますます本ばかりを読むようになった。

 本を読んでいるときは、他のことを忘れて物語に没頭できたし、なによりもそれだけが母さんとのつながりを感じられた。


 でも、面白い話も怖い話もなんだかどれも変わらなかった。ただ、読めば読むほど悲しくなった。



 伯父さんの家に住むようになってからも、僕はあまり喋らなかった。伯父さんは物静かな人で、母さんの弟なのに、どこか父さんに似ていた。


 僕が前に住んでたところは、人が多かった。だけど、伯父さんの家は元々住んでいたところに比べて静かなところにある。近くに小さな森もあり、言ってしまえば田舎だ。


 何も変わらない日々に、僕はなんだか、時間に取り残されたような気になった。




 そして僕は中学生になった。だけど僕が通う学校は家から少し遠くて、自転車を使わないといけない。少しめんどくさい。


(どうせ行ってもまた一人で本を読むだけなのに…)


 そう考えて僕は憂鬱になった。


 学校までの道は、どこも同じような風景ばかりで少し覚えにくい。初日は伯父さんに車で送って貰ったけど、次の日からは自分で行けると言って、断った。

 だって、他の子は自転車や徒歩で登校しているなか、一人だけ車で登校すると目立つから嫌だったからだ。

 それにあの学校の人たちはみんなほとんどが知り合いみたいで、知らないのは僕だけだった。


 でもやっぱり厳しかったみたいだ。行きはなんとか学校につけたけど、帰りに道に迷ってしまった。


 慣れない土地で、迷うとこんなにも心細いのか。やっぱり道を覚えるまで車で送り迎えしてもらえばよかった。僕はそんなことを思いながら自転車を走らせた。


 でもどうやら完全に迷ってしまったみたいで、まったく知らない道に出た。というかこの辺は風景が変わらなすぎる。

 それから僕は、もうなるようになれという気持ちでなにも考えずに自転車を漕いでみる。


 …まあ結果は見えていたんだけど全然家につけないや。こんなことなら伯父さんに強請って携帯くらい買ってもらうんだった。

 そんなことを考えながら自転車を押して進んでいると、一軒の家が見えた。


「良かった…、電話を借りられればこれで帰れるよ…」


 そう言いながら見えた家に向かってみる。


----------------------------------------



「大きいな…」


 家の近くまで来た僕はそうつぶやいた。

 遠くでみたときははっきりとは見えなかったが、近くで見てみると、西洋風の小さな屋敷のようだった。


「人が住んでるといいんだけどな…」


 庭などは荒れていてあまり手入れされている様子はないし、これは空き家かもしれない。

 ホラー映画なんかで出てきそうな雰囲気だ。そう思いながらドアのインターフォンに手を伸ばす。


(さすがにドアノッカーではないんだな)


 なんて思いながらインターフォンを押すと、「どなたでしょうか?」としわがれた男性の声が返ってきた。


(良かった、人がいた!)


 と少し興奮しながら僕は声の主に返事をした。


「すみません、道に迷ってしまったので電話を貸して欲しいのですけど…」


 そういうと男性は「それは、大変だったね、今開けるから少し待ってなさい」と言ってくれた。


(良かった、やさしそうな人だ…)


 家の雰囲気から、怖い人だったりするのではないだろうかと不安だったのだ。

 もし駄目だったら詰んでたなと思いながら男性を待つ。


 なんて考えていたらドアが開かれた。


 家の中から出てきたのは、80歳くらいのおじいさんだった。


 おじいさんは笑みを浮かべながら

「大変だったろう。さあ、中へ入るといい。」といってくれた。


「ありがとうございます!おじゃまします。」


 そういって家の中に入れさせてもらう。そして中に入ると外見通り、西洋風な内装の家だった。どうやら玄関の境界線はない。

 入ってすぐにマットが敷いてあるので、そこで脱いでスリッパと履き替えるらしい。


 なんと入ってすぐ両サイドに階段がある。どちらも行き着く先は同じところなのに…、無駄に豪華だ。

 頭上を見上げると、シャンデリアの光がとても眩しい。このロビーには窓が少ないので、日中でも電気をつけているみたいだ。


「付いてきなさい。」


 おじいさんはそういうと奥の方へと進んでいく。

 僕もおじいさんの後ろについていく。



 そして入った部屋は、リビングだった。広めの部屋にはL字型のソファーが置いてあり、でっかいテレビが置いてある。

 何より目を引くのは、その隣に置いてある本棚だ。壁一面にびっしりと敷き詰められている本はまるでそういう壁紙のように見える。


「びっくりしたかね?」


 麦茶の入ったグラスを二つ持ったおじいさんは、ニコニコしながら僕にそういった。


「はい、本がお好きなんですか?」


 僕は思わずそう聞いた。本が好きじゃなきゃこんなに本は置いてないだろう。


「いや…、私はそこまでは読まないねぇ。昔は読んでいたのだけど今はもうすっかりさ。」


 おじいさんはそう答えた。じゃあなんでこんなに本が置いてあるんだろう。…飾り?


 僕が不思議そうな顔をしていると、おじいさんはそのままこう語り始めた。


「妻が本を読むのが好きでね。家を建てたら壁一面に本を並べたいと言っていたのさ。」


 ああ、おばあさんも一緒に住んでるのか。だってこの家は一人で住むには広すぎるもの。


 そう考えた僕は「奥さんはいないんですか?」と尋ねてしまった。するとおじいさんは、少し悲しそうな顔をしながら話した。


「いや、妻は去年亡くなったんだ。もうかなり前から寝たきりだったんだけどね。」


「そうだったんですか…」


 やってしまったと思った。聞かなくてもいいことを聞いて、おじいさんを悲しませてしまったんだ。

 僕だって母さんのことを聞かれたら色々を思い出して、悲しくなってしまうと思う。悪いことをしたな…。


「すみませんでした。」


 僕は謝ることにした。多分気分を悪くさせてしまっただろう。


「いやいや、誤ることはないよ。もう1年も前の話さ。それに妻も久々に客人にこの本棚を見せられて喜んでいることだろう。」


 おじいさんはそういうと、僕に笑顔を向けてくれた。

 おじいさんは強い人なんだなぁ。僕は未だに何も変われていないのに。


 そう考えると、なんだか僕は、おじいさんのことがうらやましくなった。なぜだろうか、あまり良く分からない。


 気を取り直して僕は「少し本を見てみてもいいですか?」と聞いた。おじいさんは快く承諾してくれたので、本棚の方へと目を向けて見る。


 本棚には、出版社、作者ごとに分けられている。なるほど、ジャンルで分けるよりも、見栄えを考えて出版社ごとに分けてるのか。


 でも、大体が10年以上前の小説だった。きっとそのころから奥さんは寝たきりになったのだろう。読んだことことのない小説がいっぱいある。


「気に入った本はあったかい?好きに読んでいいからね。」


「はい、ありがとうございます。」


 そういわれた僕は再び本棚へと目を向ける。すると一冊の本を見つける。


「この本は…」


「いい本を見つけたかい?」


「はい」


 この本は父さんに誕生日に買ってもらった本だ。僕が持っていたのは無くしてしまっていたので、久しぶりに見た。


「なら持って帰るといいさ。」


「いいんですか?」


「ああ。」


 どうやらくれるらしい。何ともありがたい話だ。でも良いのだろうか…。


「ありがとうございます。でも良いんですか?」


「ああ、いいとも。それにその本棚の本は、もうすぐに燃やしてしまう予定だったからね。」


 おじいさんはそんなことを言った。一体何故だろう。奥さんとの思い出でもあるだろうこの本たちを燃やすなんて。


「どうしてですか?」


 思わず僕はそう尋ねた。するとおじいさんは少し迷った素振りを見せるが、やがて口を開いた。



「…私ももう長くなくてね、私が死ぬ前にその本を妻のもとに先に送ってやろうと思ったんだよ。」


 静かにそう言った。


「…そうだったんですね、すいません。」


「いいや、いいんだよ。」


 おじいさんは穏やかな顔でそう言ってくれた。僕の気まずかった気持ちも少しなくなった。






 伯父さんに電話をさせてもらい、僕は伯父さんが迎えに来てくれる間に貰った本を読むことにした。伯父さんは仕事が終わり次第迎えに来てくれるらしい。


 久しぶりに読んだその本の内容は、前と変わっていないはずだが、そんなに難しくはなかった。でも小さい頃に読んだ時は、あまり内容を理解していなかったせいか、初めて読んだような気もしてくる。

 内容は、事故で親友を失った主人公が、親友が死ぬ前に大きなケンカをしたことにずっと後悔を抱いていて、それを周りの人の手を借りながら立ち直っていくというものだ。


 なんだか少しむかむかしてくる。僕は両親を亡くしてそれから立ち直ることができていない。それに僕にはこの主人公のように手を貸してくれる人はいない。


 僕の痛みを分かってくれる人は、近くにいないのだ。


 小説を読み終わったところで、伯父さんが車で迎えに来た。僕はおじいさんにお礼を告げ、伯父さんの車に乗り込もうとする。


 だけど一度止まった。なんだかそのまま乗って帰るだけでは後悔するような気がしたんだ。


 それが何故なのかは分からない。だけど僕はおじいさんにこう聞いた。



「あの…!本、燃やすのっていつするんですか?」


 するとおじいさんは不思議そうな顔をする。だがすぐに答えてくれた。


「今週の土曜日にするつもりだよ。その日が丁度妻の命日なんだ。」


「じゃあその…、僕にも手伝わせてください!」


 そう言ってしまった。

 おじいさんは驚いたような顔をしたが、やさしい顔をして口を開いた。


「それじゃあ頼むよ。一緒にやろうか。」


 そう言ってくれた。僕は頷いて、もう一度さよならを言った。そして伯父さんの車に乗り込み、そのまま家へ帰ったのだった。



 おじいさんの家から伯父さんの家までは、車で10分くらいだった。案外近いし道もちゃんと覚えている。迷わずまた行けるだろう。


 そうして僕は、その日を待った。


----------------------------------------



 そして約束の日になった。僕は伯父さんに前のおじいさんの家に行ってくると言って、自転車で家を出た。

 この前とは違い、おじいさんの家までは迷うことなく着くことができた。インターフォンを押すと、すぐにおじいさんが出てきて家の裏手へと案内してくれた。


 家の裏はしばらくなにもない空き地になっており、本が高く積み上げられていた。

 そういえば物を燃やすのはだめなのではないかと思い聞いてみたら、この地域では問題ないのだそうだ。それに近くに他の家もないので、何の問題も無いのだろう。


「それじゃあ、火をつけるよ。危ないから下がっていなさい。」


 そういうとおじいさんは本の山に近づいていった。だけどその前に僕はおじいさんを止めた。


「ちょっと待ってください。」


 おじいさんは立ち止まってこちらに振り返った。


「これも一緒に燃やしてください。」


 そういって出したそれは、先日もらった本だった。


「いいのかい?それも燃やしてしまっても。」


「はい、お願いします。」


 僕は迷い無くそうお願いした。


「…そうかい。なら何もいわない。どれ、じゃあその本もここに置きなさい。」


 そういわれた僕は本の山に近づき、そっと持っていた本を置いた。




「じゃあ今度こそ火をつける。危ないから下がっていなさい。」


 そういうとおじいさんはマッチを取り出して火をつけ、それを本の山へと投げ入れる。

 しばらくすると、本の山から火がつき、ぱちぱちと音を立て始める。その後すぐに煙が出始めた。


 燃えていく本をおじいさんと僕は黙って見送っていた。おじいさんは顔を少し上げ、煙が空へと昇っていく様子を見ているようだ。



 僕は、燃えていく本の中に、自分が置いた本が含まれていることに気がついた。


 それは、父さんが始めて僕に買ってくれた本であり、僕が本を読むきっかけになったものだ。あの本自体にはそんなに思い出はないのだけど、あの本のおかげで、父さんが亡くなった後も、母さんを笑わせることができたのだ。それには、感謝している。

 本は燃えかすとなってあたりに散っている。本を燃やしてできた煙は、天国まで届いているのではないかと思うほど高く上がっていた。

 きっと、天国まで届いた本を見て、母さんは苦笑しているかもしれない。父さんは…どうだろう。静かに笑うのだろうか。


 そんなことを考えていたら、自然と涙が出てきた。最初は目の下に溜まっていたのだが、しばらくするとダムが決壊したように、涙はぼろぼろとこぼれ始めた。視界はにじみ、鼻の奥がツンとする。久しぶりに泣いたので、こんな感じだったっけと思った。

 僕は中学生にもなって、子どものように声を上げて泣いた。泣いて泣いて、体中の水分が無くなってしまうんじゃないかと思うほど泣いた。

 おじいさんは隣で、僕の頭を撫でてくれていた。何も言わず、こちらを見ないで。


 やがて、涙が止まり、僕はこう思った。


(そうか、僕はちゃんと泣くことができたのか。)


 そう、僕は、数年ぶりに泣くことができたのだ。数年越しに母の死を、父の死を思って泣いたのだ。



 そう考えたら、なんだか今までずっと頭の中にあったしこりも消えた気がした。






 本が燃え終わると、おじいさんは僕にお礼を言ってきた。


「ありがとう、君のおかげでちゃんと本を送ることができた。」


「いえ、僕は何もしなかったのですが。」


 僕がそういうと、おじいさんは静かに首を振った。


「いいや。あの日のあの時、実はまだ迷っていたんだ。燃やすかどうかね。」


 そういうとおじいさんは、僕の目を見て言った。


「君のおかげで決心がついたんだ。本当にありがとう。」


 どうやら僕は、おじいさんの背中を押すきっかけになれたらしい。でもそれを言えば僕の方だって…



「それは、こっちも同じです。僕も、あなたのおかげでようやく両親の死に目を向けることができました。本当にありがとうございました。」


 そういうとおじいさんは、静かに笑って、「そうかい」と言った。


「きっと、中々前に踏み出せない2人を見た天国の人たちが、私達を出会わせたのかもしれないね。」


 そういった。そして僕も



 そうだ、きっとそうだ。そう思った。



 なんだ、僕とおじいさんにも、あの本みたいに手を貸してくれる人はいるじゃないか。

-----------------------------------------



 あの日から3ヶ月後、おじいさんは亡くなった。眠りながら、静かに息を引き取ったのだとか。


 僕はおじいさんのお葬式に参加して、おじいさんの遺族の方と同じように静かに泣いたのだった。



 僕はあれから、色々な人と関わりを持とうと頑張っている。そのおかげで、友達は結構増えた。


 そして僕は友達の一人が困ったときには必ず手を差し伸べてあげるのだと、そう決めている。




     天国にいるおじいさんと奥さん、そして僕の両親たちのように。

読んでいただき、ありがとうございました。

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