歩む道は続いてく。
志乃さんの誕生日なので。
ふわふわで、雲みたいに大きくて、どこまででも走っていけそうなくらいのわたがしの上。何度かジャンプしてから思いっきり飛び込んで、行儀が悪いとか、他のことななんてどうでもよくなってそのまま口に含むと、中でで白い雲はあっという間に甘く溶けていく。もう一口、もう一口、夢中になってむさぼっていると、見上げようとすると、頭がつっかえて上がらない。腕も、足も、じたばたしても全然動かない。溶けたわたあめが体の汗や熱で溶けてべたべたになって、動かすのも大変になってく。
「んんっ、んぐ……っ」
口も開かなくなって、うめき声だけが漏れる。このまま、どうにかなっちゃうのかな。ゆっくりと沈んでく感覚と、雲の底からアスファルトの黒い無機質がのぞかせる。そこに、少し赤みがさした白い壁が現れて、体を包まれる。
「もー、志乃先輩ってば、暴れんぼなんだから……」
その声は、どう聴いたって有里紗ちゃんのもので、それなのにお腹に響くくらい大きい。体に触れて、くっついたわたがしを取っていくくちばしみたいなのも、きっとその指なんだろうな。見てられなくて、ぎゅっと目をつぶる。
「……あれ?」
目を開けると、ふかふかのベッドの上。背中を、何かが這うような感触。思わず振り向くと、背中の感触が消えて、日に焼けた肌が、さらに焼けたんじゃないかってくらい赤い顔。慌ててベッドから飛び退って、
「もー、そんな汗だくのシャツで寝て……、早く着替えないと風邪引きますよ?」
「あ、……ごめん。……それで、何してたの?」
「そ、それは……、先輩のこと着替えさせようとしてたんですよ」
急に言葉を詰まらせて、しどろもどろなまま指を組む。言えないようなこと、うちにしてたのかな、有里紗ちゃんのいじわる。
「んー……じゃあさ、うちのこと触る必要はないよね?」
「そ、それは、汗拭こうとしただけで……っ」
「ならさ、タオル持ってるはずでしょ?」
「うぅ……っ、そ、そんなことはいいですから、早く着替えてくださいよっ」
寝ぼけたままのうちにだって不自然に思うくらいに話題が逸れていく。顔の赤さも、必死になってぶんぶんを上下に振る腕の勢いも、増していってるような。
「それはそのつもりだけどさ……何してたのか教えてよ」
「えっ!?そんなの内緒ですっ!」
「うちのこと、着替えさせてたんじゃなかったの?」
体を起こして、有里紗ちゃんのいるすぐそこまで。最初から、そんなんじゃないって、うちにだってわかるのに。
「そ、その、そうだけど、そうじゃないっていうか……」
「えー?……教えてよ、気になって、他のこと何もできないな」
「むぅ……、ずるいです、先輩」
そうやって、顔を赤く染めたまま、何も言わない有里紗ちゃん。そっちのほうが、ずるいよ。
まだ、もどかしいままの関係、亀みたいにゆっくりにしか動けないうちらはまだ、ゴールにはたどり着けない。