ゆるぼ:禍根の正しい抹消方法(但し法律の範囲内で)
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僕には付き合っている人がいる。きびきびとした(けれどとても可愛らしい)職場の先輩だ。
最近少しすれ違いがちでさびしい気はする。彼女の健康も心配だ。忙しすぎるせいか、やつれて見えるし顔色も悪い。
「先輩、きちんと寝れてますか?」
お昼前、給湯室でぼんやりしていた彼女に声をかける。社内だから名前では呼ばない。
「え、うんごめん。そんな眠そう?」
「すごく。僕でよければ相談に乗りますよ」
ここは真摯に。思いの丈をきちんと伝える。彼女はびっくりしたのか僕を見て(付き合い出してから、恥ずかしいのか彼女は僕を社内であまり見てくれないので、本当に驚いたのだと思う)、それから片頬を上げるだけのぎこちない笑顔を浮かべる。
「気持ちだけでもうれしい、ありがと」
照れたのか、そっぽを向いてしまった。可愛い彼女をみれたのは嬉しいが、そんなに僕は不甲斐ないのだろうか。少しくらい頼って欲しいのに。
「そろそろ戻る。ごめんね」
足早に去っていく彼女から、かすかにタバコのにおいがした。
彼女はタバコを吸う習慣は無い筈だし、周りにも喫煙者は居ないのに…どうしてだろうか。
* * *
簡潔に言えば、私は今ストーカーに悩んでいる。
今の彼と付き合い出してから、ポストには宛名のない手紙が毎日入るようになった。だから、私設私書箱を利用することにした。ポストは封をして使えなくする。
携帯にはひっきりなしに迷惑メール。PCの捨てアドは削除して、機種メールはアドレス帳登録のもの以外の受信を拒否。
lineはやめた。ブロックしても意味がなかったからだ。
SNSも、ほとんどアカウントを削除した。唯一非公開設定にしているTwitterだけほそぼそと続けている。生存メモに近い。
いよいよ怖くなってきて、彼に相談したのが昨日。警察に行くことになった。
[ゆるぼ
禍根の正しい抹消方法(但し法律の範囲内で)]
Twitterにそんなツイートを流したのに、深い意味はない。
ストーカーが職場の後輩で、しかも役員の親戚だった。
仕事は辞めなければいけないだろう。続けられる気がしない。ようやく踏ん切りがついた。
ぴーんぽーん
間の抜けたチャイムの音。このアパートも引き払って、彼の部屋にしばらくお世話になるようになればもう聞かなくなるんだと思うと寂しい。
「はーい」
* * *
彼女の様子がおかしいことに、ようやく気づいた。
びくびくしたように僕を見る目、そして昨日のタバコのにおい。それから、さっきのツイート。
浮気だ。僕の手紙もメールも無視するのに、忙しければそんな暇ないだろうって思っていたのに。
ひどい裏切りだ。
けれど、僕にも悪いところがあったのだろう。まずは穏便に話し合わなければ。
彼女の部屋につく。アパートの角部屋。
ぴーんぽーん
間の抜けたチャイム音の後、彼女の柔らかいアルトの声が聞こえる。僕は精いっぱい微笑んで、ドアが開くのを待っている。