倉橋雅史
~倉橋雅史16歳冬~
手を繋いで歩いていた。
人生で初めての彼女、何を話すわけでもなく火照った頬が互いに見つからないようにただひたすらと家路についた。
~倉橋雅史19歳夏~
大学進学に伴い上京した僕は一人暮らしをしていた。
島根の山奥から出てきた僕には東京での暮らしは刺激が溢れていた。
しかし僕の表情は浮かない、目の前の男が学食のサービスランチを食べる手を止めてしかめっ面をしているのだ
「俺には理解できないね!」
そういってのけたのは同じ部活の同期である三浦魁斗である
「そもそもが何で遠距離で別れたのに連絡とってんの!?」
「そう言われても…僕もわかんないよ。お互いにまだ好きだからじゃない?」
僕は高校1年生から付き合っていた有本愛海と先日、遠距離が原因で他の男に寝とられた。
「まだ好き同士ならなんで他の奴にとられるんだよ!同情だろ。はやく忘れて新しい女探せよ。」
僕の胸がチクリと痛む
「うーん。愛海以上の子が見つかればな…それより魁斗はどうなんだよ?彼女とか作らないの?」
「俺は部活一筋だからいらないの。つーかこの顔に寄ってくる子がいないよね。」
「いやいや、多少痩せればモテると思うよ。タッパあるしベビーフェイスだから」
「そ、そうかぁ?…いやしかし俺は弓の世界、に生きる男…女に割く時間なんて無いし…」
適当に話をはぐらかし相手の話に差し替えることに成功した
僕たちは弓道部である。最初は男女が練習を共にする。袴女子は凛としてて格好良いといういかにもありきたりな下心丸出しの思いで高校で初めた。
そうすると思った以上にのめり込んでしまい、大学生になってまでも練習日が週7日間のガチな体育会系の部活動に入るという奇特な行動をしているのである。
「雅、弓は好きか?」
魁斗のこの質問にはうんざりする。出会って半年でもう何百回目なのか