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終わる世界の割と中心の方で  作者: 黄色アルパカ
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プロローグ


ーーー終わりゆく世界の割と中心のほうで、私は今日も生きている。


悩みぬいた末に、私はガリガリと音を立ててそう日記帳に書き記した。

ふと顔を上げれば、先ほどまで温かな光を投げかけていてくれたはずのランプの灯は、もう燃え尽きるのを待つばかり、とでも言うように頼りなく揺れていた。

どうやら自分はこの一文を書くのに思ったより随分長く悩んでいたらしい。

息をついて窓を開ければ一気に夜明け前の冷たい空気が流れ込んできて、私は身震いした。


「お嬢様。お目覚めの時間で・・・あれ?」


背後からした声はメイドのハンナの声。

私がもう起きていることにびっくりしたのだろう。何故なら私は朝が弱く、いつもハンナが何度も声をかけなければ起きられなかったのだから。

だが私は、もう以前までの私とは違ってしまっている。

それを悟られぬように私は努めて明るい声をあげた。


「今日から学院に入るのだから、私も少しは大人にならなければと思ったんだ」


ハンナは少しの間目をぱちぱちとさせ、やがてにっこりと微笑んだ。


「それは良い心がけでございますね。きっと奥様も御喜びになったことでしょう」


ハンナの言葉に出た奥様ーーー私の母は、今はもう亡い。父もこの世の人ではない。そのことについて、私は何も思うことがなかった。私にとっては他人も同然なのだ。

一週間前父母が魔に襲われて死んだ夜、錯乱した私の記憶は錯綜し、何故だかわからないが前世の記憶と混ざってしまったのだ。混ざり合った記憶を受け入れるために私の精神は変質し、性格が百八十度変わってしまった、というわけなのである。今の私にとっては、今生も前世も物語の中の世界みたいに現実味がない。それでなぜ冷静でいられるのかと聞かれれば、あまりの急展開に脳味噌がついていけていないのだろうとしか答えようがない。

だってそうだろう。こんなヘンテコな話、笑って受け入れられる人の方がどうかしている。

そんなやるせない思いを誰かにぶつけることもできずに私は一人悶々として、昨日やっと見つけたはけ口が、今自分の目の前で開いている黒革の立派な日記帳なのだった。

とはいっても一度書こうとすると、中々日記というものは難しく結局一文しか書けなかったのだが・・・。


そう、この世界は緩やかに終わりに近づいているんだ。


今生の自分は一週間前まで天真爛漫で好奇心旺盛な貴族の御姫様だった。将来は父の決めた婚約者と結婚するのだろうと信じて疑わず、世界の終わりなどまったく考えていなかった。


だが、前世の自分はこの世界より遥かに進んだ技術を持つ日本という国で暮らすじょしこうせいというものだったらしい。彼女は読書家で様々な本を読んでいた。その本の中に、彼女が一巻だけ読んで続きを読む前に死んでしまった本があった。


その本の名前は「終わりゆく世界の片隅で」これは、魔と呼ばれる人外の生き物に人間がなすすべもなく滅ぼされていく誰得という他にない話なのである。

そして・・・その本の世界観と、この世界のありようは酷似しているのである。



「ははは・・・これなんて無理ゲーだよ・・・」















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