魔王覚醒
本編入ります! まずは第一の主人公の物語から(* ̄∇ ̄*)
〜プロローグ〜
1人の少女が泣いていた。泣いている少女の前には少女に背を向けた1人の男がいた。男は振り向く事なく背を向けたまま少女に語りかけた。
「泣くな、マーヤ。それでも...我の..妹か?」
男は息をするのもやっとな状態だった。それでも男は話す事を辞め無かった。
「お前が・・マーヤが正しいと思った...道を..行け」
男はそう言いながらついに膝をついた。
マーヤと呼ばれた少女は男の背中に抱きつき何かを必死に言っていたが、男にはもう聞こえていなかった。「お前...自身で..やり遂げ..ろ」
男の視界は真っ黒に染まり、
「マーヤ...愛して..いる」
男はついに力つき、マーヤと呼ばれた少女はより一掃男を強く抱き締め、泣いた
第1章 布告
新暦2013年。時間は深夜零時を回った所。場所は旧日本国の富士の山の麓。そこに向かって疾走する1人の青年がいた。彼は誰かに追われているかのように必死の形相を顔に浮かべていた。彼の見た目の特徴は目付きが悪い所を除けば至って普通な青年と言った風貌であった。青年は山の麓にたどり着くと何かを探すように周りを見渡した後、山へ向かって叫んだ。
『約束通り来たぞ。早く真綾を返せ!』
彼が叫ぶとその声に反応するかのように麓の森から蝙蝠の群れが現れた。更に蝙蝠は青年の数十メートル先に集まったかと思うと人の形を形成し、青年を赤く光る目で凝視した。青年は内心恐れを抱いていたが自分の目的を思いだし顔の剣幕をより一層強くすると言った。
『お前か!真綾を拐ったのは..真綾をどこに連れていった!』
人の形をした蝙蝠はその問に答えた。
『女なら、ここにはおらん』
深く重みのある声でそう言った。
『ふざけるなよ..お前が知っていると言ったんじゃないか!』
青年は今にも殴りかかりそうな勢いだった。しかし蝙蝠は淡々と話を続けた。
『落ち着くが良い、人間。 我はここにはおらぬと言ったのだ』
『じゃあ何処にいるんだよ!』
青年は間髪入れずにそう叫んだ。それでも蝙蝠はあくまで淡々と話を続けた。
『落ち着けと言ったはずだ人間。我は貴様の敵ではない』
『てめえが敵だろうが何だろうが関係ねぇ! 真綾の居場所を知ってるなら教えろ!』
青年は怒りを通りこし、もはやすがるかのように目に涙を浮かべ叫んだ。
『居場所は知らん』
無情にも蝙蝠はそう言った。
『なら、何を知っている? 真綾の事で知っている事があれば何でも良い教えてくれ』
青年は相手が正体不明の蝙蝠であることを忘れていた。そして蝙蝠はそれを狙っていた。
『教えてやる。ただ条件がある』
『条件?』
『ああ、我が貴様に与える条件は...1つだけ我の言うことを聞いて欲しい』
青年は1も2もなく頷いていた。
『真綾の情報が手に入るなら、何だってしてやる』
蝙蝠は知っていた。青年が真綾と言う女の話になると我を失うことを。真綾と言う女性を愛していることを。効果は絶大だった。
『早く教えてくれ!』
青年は蝙蝠を急かした。
『女は...アースガルドにいる』
青年は言っていることが分からないと言った表情で言い返した。
『あんたはさっき何処にいるか分からないって言ったばかりだろ! ふざけてるのか』
蝙蝠はため息をつくと言った。
『最後まで聞け。 女がアースガルドにいると言う場所にいることは知っている。 だが我はそれが何処に在るのか知らない。 貴様も聞いたこと無かろう?』
青年は首を傾げた。
『アースガルド...聞い事がないな。 そもそもあんたはなんで真綾がそこに居ると分かるんだ』
青年は再び叫んだ。
『分かるから...としか今は言えんな。 我が知っている事はそれだけだ。 さて、我の言うことを聞いてくれると言う約束だが...』
『ふざけるなよ!』
青年が蝙蝠の言葉を遮った。
『そんな話を信じろと!? 人をバカにするのもいい加減にしやがれ蝙蝠野郎』
蝙蝠は冷たい声音で言った。
『ふざけてなどおらん。 貴様が我の言ったことを信じようが疑おうがそんなことはどうでも良い。 貴様は自分で言ったであろう? 女の情報を我が与えたら我の言うことを聞くと。 我はその証言と事実さえ有れば良いのだ』
青年は怒りも忘れ混乱していた。
『なぁ、あんたはさっきから何を言っているんだ? 俺にはあんたが何を言っているのか理解できない。それに俺があんたの言うこと聞くとは限らないだろ』
蝙蝠は微かに笑った。
『それはない。貴様は絶対に我の言うことを聞く...絶対にだ。』
青年は今さらになって恐怖を思い出した。何の根拠もないはずのその言葉に背筋が凍りついた。
『...頃合いだな』
蝙蝠はそう言うと人の形を崩して再び群れとなった。そして青年の身体を覆うように張り付いた。青年は一瞬遅れて振り払おうとしたが、指一本動かす事が出来なかった。そして蝙蝠の声が直接青年の脳に響いてきた。
(我の願い...それは真綾を...マーヤを探し出す事。それには貴様の力が必要なのだ)
青年の混乱は最高潮に達していた。
『あんたは真綾の、俺の何なんだ? あんたは...何者なんだ?』
蝙蝠はまたも脳に直接語りかけた。
(我は、我の名は'ヴェル・フェ・ゴール'。貴様ら人間が言うところの悪魔、魔族と呼ばれる存在だ)
青年はそんな物は空想だと笑い飛ばす事は出来なかった。青年は理解してしまった。そして、確信を持って聞いた。
『俺は・・・あんたなのか?』
蝙蝠は愉快そうに笑った。
(ふっ、ようやく理解したか。そう貴様は我であり、貴様は我なのだ。もう何も話さずとも大丈夫であろう? ...貴様の魂と身体を貰い受ける。)
青年は全てを蝙蝠に委ねた。そして最後に一言だけ言った。
『真綾を必ず救ってくれ』
蝙蝠は、悪魔はその言葉には答えなかった。代わり宣言するかのように今度は声に出して言った。 ...青年の口から。
『我は、魔族族長改め'魔王ヴェル・フェ・ゴール'。我の目的は妹マーヤを見つけ出し、運命を'知り'運命を'支配'する事。我の邪魔をするものは誰であろうと許さん。 例えそれが自分自身で在ろうとも...』
青年の身体の悪魔は夜の闇に溶けるように消えた。