黒い流星
とある村に、少年がいた。まだ五歳の少年には、この村の状態を理解することが出来なかった。一見平和そうに見える村だが、実は隣の村と戦争をしている。隣の村は都市を味方につけているため、圧倒的に有利だ。だが戦争のこと自体も、少年は何も知らなかった。
ある日の夜、隣の村が急に攻めて来た。少年は母親に起こされ、抱きかかえられて外に逃げた。少年は、父親が敵と戦っていると聞かされた。が、少年には何のことか解らなかった。
やがて村中の家が燃やされ始めた。少年の家はまだ燃やされてはいないが、周りの家が燃えるのを見て、少年は初めてことの重大さを理解した。母親は走っている。少年の目には、炎を上げて燃える村が、はっきりと映っていた。少年は泣いた。
闇の中で、母親が川に落ちた。深く、広い川だ。少年は何とか陸に這い上がったが、母親は突然のことで巧く対応できず、そのまま川底へ沈んでしまった。少年はまた泣いた。泣いて、走って逃げた。自分には何もできなかった、そのことが、少年にとって悲しいことだった。
少年は橋を渡って川を横断した。幸い橋は塞がれていなかったから、安全に通り抜けることができた。少年は更に走り続けた。どれくらい走っただろうか、家の火も遠くに見えるようになってきた。
空を見上げると、星が出ていた。それから、流れ星が見た。少年は願い事をした。「村を助けてください、敵を追い払ってください」と何度も言った。やがて叫び声に近いものとなり、百回ほどで疲れきってしまった少年は、そのまま地面に寝っ転がって眠った。
起きると昼になっているようだった。太陽が真上に見えた。少年は立ち上がり、村の方へ戻った。すると、隣の村とこの村の人間の大量の死骸と、すっかり焼けてしまった家の残骸が、少年の目に映った。敵は追い払った。願い事は叶ったのだ。だが――
あまりの恐ろしさに、少年は悲鳴を上げた。