第8部
「あぶないあぶない。もう少しで巻き込まれるとこだった」
「そうね。ここまでの規模になるとは思わなかったわ」
さっきまで俺たちがいた所を見下ろす。そこでは取っ組み合いがあちらこちらでなされている。…上から見ると赤い集団に見える。
「あの、2人とも、どうしてこんなところに立てるんですか…?」
腕に抱えたソルト義姉さんが俺にしっかり(落ちないように)つかまりまがら、当然の質問をした。何故なら俺たちがいるのは…
「それはねソルト?長年の経験がなせるワザだからよ」
屋根の上、だからだ。
あの時俺はソルト義姉さんを抱き上げ、周りの建物の壁を蹴り屋根の上に登った。
シュガー姉さんも同じ方法で屋根に登った。
「…一体どんな経験をしたらそうなるんですか…?」
同感だ。普通ならできないし。…まあ、普通じゃない育ち方したしな。
皮肉なことに、今はそのおかげで助かった訳だが。
とにかく、ここに居続けるのは怪しいので、人通りの少ない場所に移動しよう。
「さて、ここには人がいないな。暫くは安心だろ」
人通りの少ない少し細めの路地に俺たちは出た。抱えていたソルト義姉さんをゆっくり下ろす。
「ごめんねソルト義姉さん。いきなり抱き上げられて驚いただろ?」
なんとなく頭をポンポンと叩く。するとソルト義姉さんが少しだけ拗ねたような顔をした。ホントに可愛い。いやマジで。
「…胡椒君。私の方が年上だよ…?」
「ごめん。可愛くてつい」
そして、ついソルト義姉さんを抱きしめる。
「こ、胡椒君?」
「ソルト義姉さんは俺が守るから安心して!」
ぎゅーっと抱きしめる。首もとに顔を埋めると、ソルト義姉さんから良い匂いがした。すると、
すぱこーん!
「ってえぇぇぇっ!」
勢い良いハリセンで叩かれた。
「はいはいここでセクハラしない!」
シュガー姉さんが間に入って引き剥がす。珍しく姉らしい行動に出た姉さんを軽く睨む。
「ソルト抱いて許されるのは私だけよ!」
「そんな理由かよ!」
ソルト義姉さんをしっかり抱きしめて言い切るシュガー姉さん。
要はソルト義姉さんのことが大好きな訳で。
俺もソルト義姉さんのことが好きだが、意味合いが違ってくる。
「義姉さん」が、ではなく、1人の女性として、だ。
…肝心のソルト義姉さんは俺を弟としか見てないけど。