当てにならない預言書
不気味な空、荒れ果てた大地にそびえるとある城。
そんな城の中庭で一人の男が高笑いをしていた。
ついについにやったぞ!!大成功だ!!
さすが俺様!!天才だ!!
所詮、人間の作ったもの、解読なんて簡単だったわ!!
笑いがとまらん!!
「ふ、ふ、ふ、ふははは~」
「うっさいわ!!」
『ゲシ!!』
「いってぇ~!!なにするんだ!!」
誰だ!俺様にとび蹴りをくらわせたのは!!痛いじゃないか!!
不意打ちの攻撃は見事に決まり、高笑いの男は涙目でうずくまる。
そんな男を蹴った人物は華麗に着地。
「一人で笑っている怪しいやつに蹴りを喰らわせただけだ。」
「あ~そうかいって俺様のことかい!!」
怪しいとは失礼なやつだ!俺様のどこが怪しい!!きっと他に怪しいやつが!!
きょろきょろとあたりを見回すが俺様と俺様を蹴ったやつしかいない。
「他に誰がいる?」
「・・・誰もおらんな・・・」
なぜだろう?とっても腹が立つのは?
なんだろう、その残念な人を見る目は・・・。
少しばかりの時間二人の間に沈黙が訪れる。
そして、蹴った人物は少し目をそらし、気になっていたことを聞く。
「・・・そうだろう、っでなんで笑っていたんだ?」
おっと、それを聞いてくれるかい?天才俺様の華麗なる成功話を!!
この話を聞いてくれるなら、蹴ったことを水に流そうではないか!!
「それはだな・・・」
「それは?」
勇者の・・・」
「勇者の?」
「召還に成功したからだ!!」
どうだ、すごいだろう!!天才な俺様は勇者召還に成功したのだ!!
倉庫で預言書を見つけて早半年。寝る間を惜しんで召還陣の解読に勤しみ、ついに!!
召還に成功したのだ!!俺様、天才!!
だが、目の前の人物の反応は悪い。
「へ~っ、で勇者って?」
「おまえだ!!」
「おっと、私は勇者だったのか」
やけに鈍いやつだな!他に誰もおらんだろう!!
「その通り!!俺様の勇者召還に応じたのだからお前は勇者だ!!って私?」
「あぁ私だが。」
「俺とか僕とかではなく?」
「あぁ私だ。」
あれ、なんだかおかしいな?預言書では確か・・・勇者は男だったはず?
最近の人間たちは男でも『私』っていうのか?
「一応聞くけど性別は?」
「とても失礼な質問だが答えてやろう。か弱い女性だ。」
「へぇ~か弱い・・・」
「あぁ、か弱い」
「・・・女性?」
「女性。」
・・・・・女性?・・・女!!!
「な、なんてこった~!!」
「なにがだ?」
「召還に失敗した~!!」
「失敗?」
「予言では、勇者は雄雄しい男だったはず!」
やっちまった!!雄雄しい男が召還されるはずなのに!!
召還したのは初対面で蹴りを喰らわすぐらい凶暴な女だ!!そして、なにより・・・
「間違ってもか弱いと自分で言うような女ではない!」
「っで?」
「どうしよう?どうしましょう?」
帰し方なんてあったか?
困ったぞ!
俺様は見つけてから常に持ち歩いていた預言書のページをめくる。
そんな、俺様を横目で見つつ、女が俺様の召還目的を聞く。
「ところで何で勇者召還を行なおうとしたんだ?」
おっと、これかな?いや、違う。
じゃぁこれか?これも違うな・・・
手を止めることなく召還目的を告げる。
「出る杭を早めに打とうと思って」
う~ん、これか?
「出る杭とは?」
いや、違うな~
「いや~、やられる前にやれって感じ?」
これではないな~
「つまり?」
「勇者によって迷惑を被る予定なのでどっかの国が勇者を召還する前にして、ぼこぼこにしようかと・・・」
ふ~む、どこに書いてあるんだ?
「・・・」
これかな~?
「平和に暮らしたいじゃん?」
違うな~。
「・・・もしかして、魔王?」
「まぁ役職的に?」
なんだ、気づいていなかったのか。
俺様は泣く子も黙る(予定)魔王さまだ!!
「せこくないか?」
「策士と言ってくれ」
う~ん、なんでないんだ?
「いや、せこいだろ。つまり、なにも知らない相手をぼこぼこにする予定だったんだから。」
「それを言われると・・・」
せこくても、仲間を作られてからじゃ遅いじゃん。
「それにやっていることが曖昧すぎる。だいたい魔王が勇者召還なんて聞いたことがない。」
歴代魔王はそんなことしてないもん。
天才な俺様が初だな!!さすが俺様!!それに・・・
「いや~倉庫で見つけた預言書に書いてあったもので・・・」
「預言書?」
「おう!勇者召還によって俺様が被る被害が!そして、召還方法が!」
書いてあったら試したくなるのが魔王ってもんよ!!
「随分と親切な預言書だな・・・」
「そうだろ。」
「・・・ちょっと借りていいか?」
「まぁ間違って召還しちゃったし、いいぞ。」
本当は貸したくないが、こうなった原因は俺様だし、しょうがない。
ちょっとは悪いと思っているんだぞ。
渡してから数分。なんだか女の様子がおかしい。
「・・・おい」
「なんだ?」
「これ、勇者召還の方法じゃないぞ。」
なんだって!そこから違うのか?
寝る間を惜しんで解読したのに!!
まぁ天才でも間違えることはある!!
次に生かそう!!天才は前向きなんだ!!
そのためには何の召還陣か知る必要がある。
「じゃあ、何の召還方法だ?」
「・・・言いたくない。」
「は?」
「言いたくないと言っている。」
なんだ、それ?意味がわからん。
「じゃあ預言書を返せ。」
「出来かねる。」
「出来かねるって俺様のだから!」
「拒否する。」
「は~!?いいから返せよ!!」
「嫌だっと言っている。こんな物はこうだ!」
そういって女は俺様の預言書を投げやがった!
なんてことを!!
「あ~!!俺様の預言書が・・・!!」
荒地の彼方に飛んでいく~!
「形あるものはいつかはなくなる。」
なに、かっこつけてるんだ!!
「お前が投げ捨てたんじゃねーか!」
「・・・しょうがない」
しょうがなくない!!
「・・・よし、拾いにいってくるぞ!!」
拾って解読してやる!!
「あきらめろ。」
だから、なんでそんなにクールなんだ!
* * * * * *
予言書ポイ捨て事件から数年後
「っでなんで投げたんだ?」
「目の前にある現実が受け入れられず。」
「ぱぱ~、まま~」
俺様なぜか召還した女と結婚していた。
どうやらあの魔方陣は運命の相手を召還するためだったようだ。
なんで彼らが結ばれたかは作者も不明です。