表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【頭脳戦×下剋上】『絶対階区(カースト)のリーガル・ハッカー』 ~無能な魔王と健気な女王、底辺からすべてを奪う~』  作者: 盤上廻


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/25

第6話【雨宮礼奈】 優しい決断(ギロチン)のスイッチ


 天堂くんの冷酷な言葉に胸を抉られながらも、私はギュッと両拳を握りしめながら、足早に第五階区の地下教室へと戻った。


 胃の奥が、雑巾を固く絞り上げられるようにギリギリと痛む。


 私がしっかりしなきゃいけない。どんなに理不尽な状況でも、リーダーである私が折れたら、この第五階区は本当に終わってしまう。


 そう震える自分に言い聞かせて、重い鉄扉を開けた。


 しかし――地下教室の空気は、私が想像していた以上の『絶望』で満たされていた。


「ち、違うんだ雨宮。 俺はただ、ちょっと目を離した隙に、その……出来心で」


 真っ青な顔をして床にへたり込んでいたのは、浅原陽太(あさはらようた)くんだった。


 彼は極度のギャンブル中毒で、息をするように手癖が悪く万引きを繰り返すという、社会不適合の一人。


 彼を取り囲むように、数人の見慣れない男子生徒が立っていた。着崩したブレザー、鍛え上げられた体躯、そして、獲物を値踏みするような眼。


 一目で分かった。第三階区の『武断派』たちだ。


「おいおい、出来心で済むかよ。俺の端末を盗んで、その端末で何をしようとした?」


 第三階区の生徒が、ニヤニヤと笑いながら手元のスマホを揺らす。


「特任教務委員会にこの指紋を提出して、俺らの連中から証言を引き出せば、『一発退学』は免れないなぁ。……どうする、リーダーの雨宮さんよぉ?」


 私の心臓が、ドクンと嫌な音を立てた。


 暴力が禁止されているこの学園で、最も恐ろしいのは物理的な死ではない。スポンサー企業群に『犯罪者』としてデータが送信され、すべての未来を絶たれる完全な社会的死(ブラックリスト)


「待って! 確かに彼が悪いけど、いきなり退学だなんて……っ。指紋の提出と証言だけは待ってください、なんとか示談で……」


 私が頭を下げようとした、その瞬間だった。


『示談で済ませたい、と言ったな?  雨宮』


 教室の中央、旧式のホログラムプロジェクターが突如として起動し、ノイズ混じりに人の形を成した。


 金髪のオールバック。射抜くような赤い瞳。ネクタイを緩め、傲慢な笑みを浮かべて腕を組むその姿。


 第三階区リーダーである切島悠河(きりしまゆうが)


 圧倒的な凶悪さと、氷のような知性を併せ持つ『論理と暴力の扇動者』が、ホログラム越しに私を見下ろしていた。


「切島くん……」


『暴力は野蛮だ。俺は常に、リターンに優れた、合理的で平和的な解決を望んでいる。今回、浅原の窃盗未遂の件を取り下げてやってもいい。どうだ、示談金は100万Rだ』


「ひゃく、まん……?」


 私は絶句した。


 私たち第五階区の1ヶ月の配当が100万Rなのに、そんな大金払えるわけがない。


「無理だよ! そんな額、うちの階区全員から集めても……」


『だろうな』


 切島くんは、私の悲鳴を予測していたかのように、冷たく鼻で笑った。


『払えないならそこのクズは即刻退学だ。……だが、俺も鬼ではない。もう一つ、合法的なチャンスを与えてやろう』


 彼の赤い瞳が、ホログラム越しに私の心臓を射抜く。


『現在、学園システムに申請している俺たちからの「覇権闘争(はけんとうそう)」。お前が、無条件でその受諾ボタンを押すなら、浅原の件は不問にしてやる。公式戦の盤上で、正々堂々と決着をつけようじゃないか』


 いくら彼がプレッシャーに弱くても、そんな度胸はないはずだ。……どうしてこんなことに?


  私が困惑していると、地下教室に乗り込み、浅原くんを拘束している第三階区の生徒が下劣な笑い声を上げた。


「浅原ぁ。お前がいつもウロついている死角に、わざと『ロックを外した、5万R入りの端末』を放置しておいたんだよ。お前みたいなギャンブル狂が、目の前に転がってる極上の餌を我慢できるわけねえもんなぁ?」


「リ、リーダー! 頼む、俺を見捨てないでくれ! 退学になったら、俺の人生終わりだ。 お願いだ、闘争を受けてくれよ!」


 浅原くんが私の足元にすがりつき、ボロボロと涙を流しながら懇願する。


 そうなんだ、最初から、彼を罠に嵌めて、私に闘争を強制させるための罠だったんだ。


 教室の空気が、凍りついていた。他のクラスメイトたちは、何も言えない。


 覇権闘争を受ければ、第三階区に負けることは目に見えている。けれど、断れば、目の前でクラスメイトの一人が『社会的死』を迎える。


 ――どうすればいいの。


 頭が真っ白になる。


 浅原くんを見捨てれば、クラスのなけなしの資金は守られる。でも、彼を見捨てるということは、私がお母さんの生き方を否定することになる。


 私が、私が盾にならなきゃ。誰も見捨てないって、決めたんだから。


「……分かりました」


 私は震える手で、自分の端末を取り出した。


 画面に表示されている、第三階区からの『覇権闘争申請』のアラート。


 私は、浅原くんを救うため、そしてリーダーとしての責任を果たすため、その巨大な緑色のボタン――【受諾する】を、強くタップした。



《承認。第五階区リーダー雨宮礼奈による第一学年『第一回覇権闘争』の受諾を確認しました。これより、第三階区と第五階区の覇権闘争を公式に成立させます》



 システムアナウンスが響いた瞬間。


 ホログラムの向こう側で、切島悠河の口角が、三日月のように吊り上がった。

『……交渉成立(チェックメイト)だ、お人好しの愚物(ゴミ)が』


 切島くんの冷酷な電子音声と同時に。私の端末の画面が真っ赤なアラート色に染まり、2日後の闘争開始を告げる絶望のゴングが鳴り響いた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ