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【頭脳戦×下剋上】『絶対階区(カースト)のリーガル・ハッカー』 ~無能な魔王と健気な女王、底辺からすべてを奪う~』  作者: 盤上廻


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第27話【切島悠河】泥まみれの盤面返し②

《――【アジト】特区、両陣営の『技術』CES合計スコアを算出しました》


 モニターの中央に、両階区のポイントが円グラフと共に表示される。


 俺は、勝利を確信した傲慢な笑みを浮かべ――次の瞬間。


 その笑みは、顔の筋肉に張り付いたまま、ピシリと凍りついた。



《第三階区 合計値 【600】/第五階区 合計値 【960】》

《判定 第五階区が【アジト】を制圧 》



「……は?」


 喉の奥から、間抜けな音が漏れた。


「960点……だと?」


 アビス特区の空気が、一瞬にして真空になったかのように静まり返る。


 15人で960点、一人当たりの平均値が『64点』。


 そんな馬鹿な。あいつらは学年最底辺の廃棄物のはずだぞ。なぜ、俺たちの精鋭以上の数値を弾き出せる。


「切島さん……これ、どういうことっすか! アジトを取られたら、俺たち……っ」


 白石の震える声が、現実を突きつける。5つの特区のうち、すでに3つを第五階区に制圧された。


 これはつまり――覇権闘争において、我が第三階区の『敗北』が、開始数分の時点で確定した。


「あり得ない。俺の計算に、そんなバグは存在しないはずだ。九条のステータスは明らかに低かった」


 俺は冷静さを失いかけ、自らの手元のタブレットを激しく操作して、覇権闘争における第五階区の『開示個別CES詳細』を引き出した。


 そこに並んでいたのは、俺の常識と組織論を根本からへし折る、あまりにも歪で、狂気的なパラメータの羅列だった。


《木下裕作 知力41、対人13、体力13、精神18――【技術90】》

《浅原陽太 知力22、対人22、体力22、精神12――【技術74】》

《山本卓郎 知力34、対人10、体力18、精神64――【技術83】》


「……なんだ、この数値は」


 俺は口を半開きにしたまま硬直した。


 コミュ力も、プレッシャー耐性も、基礎的な体力も、絶望的な赤点。


 だが、その代わりに。


 一部の人間の『技術』の項目だけが60後半から80台、何かしらの専門家に近い異常な突出を見せていた。


 ――ピシリ、と。


 俺の脳内で組み上げられていた勝利の数式に、修復不可な亀裂が走る音がした。


「……待て。技術74を叩き出したギャンブル狂の浅原? 奴はあの時、監視カメラの死角から、コンマ数秒で俺たちの端末を『スリ取った』」


 平均値が、底辺の掃き溜めから湧き出た狂気的な偏り(イディオ・サヴァン)によって、汚泥に塗れてへし折られていく。


 俺は震える指で、タブレットの硬いフレームを握り潰さんばかりに力を込めた。


『――驚いたかしら、切島』


 アカデミアのスピーカーから、ノイズ混じりの通信音声が割り込んできた。


 第五階区の、琴吹千夏の声だ。


「琴吹……! お前ら、一体どんな不正を使った。全科目が赤点の底辺どもが、まともな技術を持っているはずがないだろう!」


『不正なんてしてないわ。これは、学園のAIが弾き出した正当な数値。貴方、私たちを、ただの平均点が低いだけの何の取り柄もないと思い込んでいたわよね?』


 通信越しに、琴吹がクスリと笑う気配がした。


『でもね、学園のシステムは私たちを無能とは定義していない。私たちの正式な派閥名を知っている? 私たちは――劇薬派だわ』


「劇薬、だと……」


『私たち第五階区の半分以上は、対人も体力も赤点ばかりで、普通の学園生活すら上手く送れない。でもね、自分の好きな事、1つの技能にだけは、誰にも負けない才能を持っているのよ。それが私たちの本当の姿』


 琴吹はそう言ったが、それはサヴァン症候群、あるいは『イディオ・サヴァン』と呼ばれる局地的な天才の群れだ。


 俺の脳内に、凄まじい勢いでこれまでの点と点が結びついていく。


 学園のCESにおける『技術』は、プログラミングや格闘の技術だけではない。

 ハッキング、ピッキング、ファッションデザインなど、特定の状況下で絶大な威力を発揮する専門技能も高く評価されるのだった。


 彼らは平均的に無能だったのではない。


 ステータスが奇形に尖りすぎた結果、総合評価で落とされた人間たちだった。


『なんでもそつなくこなす平均点のエリート10人が、自分の専門分野を持つ15人に、束になって勝てる訳ないじゃない』


「っ……!」


『貴方は、私たちの名札を、最初から正しく読んでいなかったの』


 彼女の言う通りだ。俺は平均的な物差しでしか、人間を測れていなかった。


 九条のスコアだけを抽出し、全体を測った気になっていた『平均値への確証バイアス』が、俺の完璧な数式を腐らせた。


 そして、俺たちが窃盗の罠に嵌めたギャンブル狂――浅原陽太。


 あいつの『技術』スコアは、ウチの精鋭すら凌駕する。


 イレギュラーは九条ではない。


 俺自身が盤上に引きずり出した『浅原』というヒントを俺は見落としたのだ。


 ――惨めな驕りだ。


 俺はクズを罠に嵌め、一方的に搾取しているつもりだった。


 だが、俺が踏みつけにしたそのクズこそ、この盤面をひっくり返す勝利の鍵だった。


「俺は、浅原のその手癖を罠として利用しておきながら、システムがそれを高く評価することから目を背けていた……」



《――現在の状況をアナウンスします 》

《非戦闘特区の決済が完了しました。第五階区が、規定である『3特区』の制圧条件を満たしました 》

《――規定により、本覇権闘争における第五階区の勝利が確定しました》





盤上廻ばんじょうめぐると申します。

 

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