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【頭脳戦×下剋上】『絶対階区(カースト)のリーガル・ハッカー』 ~無能な魔王と健気な女王、底辺からすべてを奪う~』  作者: 盤上廻


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第26話【切島悠河】泥まみれの盤面返し(ジャイアント・キリング)

 俺は、数名の武断派エリートと共に壁一面を覆う巨大なホログラム・メインモニターのあるアビス特区に立ち、腕を組んでその時を待っていた。


 ――午前10時ジャスト。


 太平洋の海風を切り裂くように、巨大人工島『メガフロート』全域に、第一回覇権闘争の開始を告げる重々しい電子のファンファーレが鳴り響いた。




《――これより、一学年第一回覇権闘争『五極特区・秘匿配置戦』の決戦フェーズを開始します 》

《ルールに則り、両階区の『配置人数』および非戦闘特区の『制圧判定』の即時開示を行います 》



 互いに見えない状態で30名のリソースをどう割り振るか。


 指揮官の思想と戦略が最も色濃く反映される、盤面の第一の答え合わせだ。


「白石、慌てずによく見ておけ。これから、非戦闘特区の制圧判定が即時開示される」


 俺はアジトにいる部下たちに告げた。


「俺たちの配置はアジトに10名、コロッセオに10名、アビスに10名。残るアカデミアとサロンは0名配置。これが、リソースを分散させない、組織運営の基本セオリーだ」


 それを聞いた俺の太鼓持ちである白石和人が元気良く返事をする。


「うっす! 第五階区の連中はおそらく、俺たちが放棄した空き地に数名を置いて不戦勝をもぎ取りに来るっすね」


「ああ、お前の言う通りだ。だが、それでいい。アジトを我々の精鋭10名で粉砕し、残る実戦格闘の2特区で確実に勝利する。これが最適解だ」


「いや〜、マジで凄ぇすっよ切島さん!」


「さぁ、あいつらの配置を見てやろう」


俺の言葉を裏付けるように、ホログラムが『両陣営の最終配置』と非戦闘特区の制圧結果を淡々と開示していく。



【第五階区・配置状況】

■【アカデミア】1名

■【サロン】  3名

■【アビス】  1名

■【コロッセオ】10名

■【アジト】  15名


《【アカデミア】特区・第三階区 0名 / 第五階区1名――第五階区の制圧 》

《【サロン】特区・第三階区 0名 / 第五階区3名――第五階区の制圧 》




「……予想通りだ。これで奴らは2勝を先行した形になるが、痛くも痒くもない」

 俺は口角を上げ、相手のいびつな陣形を視線でなぞった。


 まず目につくのは、コロッセオの10名だ。


 俺は昨夜、雨宮礼奈が仕掛けた黒塗りのブラインド・パッチを『0名配置による逃亡の罠』だと推測していた。


 しかし、奴らはコロッセオを放棄せず、しっかりとリソースを割いてきた。


「ブラインドパッチの担保に設定した配置メンバー全員の退学ペナルティがあるにも関わらず、逃げることを諦めたのか? 燐花の供物だな」


 そして、アビスに置かれた「1名」の最小配置。それが現在、俺たちと同じ空間にいる月野莉亜(つきのりあ)と言う生徒だ。


「ひっ……うぅ……っ」


 隅で、ハムスターのように震えながら蹲っている小動物のような女。


 彼女は開始のファンファーレが鳴った直後に、自らの端末で早々にサボタージュのボタンをタップしていた。


 彼女は捨て駒だ。肉体的な暴力による被害を恐れ、即座に無抵抗を示したのだろう。


「なんなんすか。第五階区の奴ら、アビスにはあんな女一人しか置いてねぇのか」


 俺の隣で、白石がつまらなそうに首を鳴らした。


「切島さん、あいつもうサボタージュしちまっていますけど……ちょっとくらい『教育』してやりますか? 軽く脅せば、もっといい声で泣きそうっすよ」


「やめておけ。無駄なことをするな」


 俺は、下品な笑いを浮かべる部下を冷徹な一言で制止する。


「彼女はサボタージュを選んだ。つまり、俺が通したルールに則り、『自らの全財産の半分」を我々に上納することに同意した……自ら進んで金を差し出してくれる『顧客』を、わざわざ傷物にする三流がどこにいる」


「あ……な、なるほど。了解っす、切島さん」


 俺は満面の笑みで、この完璧な現状に対して満足していた。


 これこそが、最も投資対効果に優れた暴力だ。


 指一本触れることなく、ただそこに武断派がいる恐怖だけで、貧困層から合法的に資産を搾取する。


 俺の構築した作戦は隙もなく機能している。


「だが、わざわざ最強の矛である燐花の前に10人も生贄を差し出すとは、愚かだな」


「燐花の姉さんの大暴れが久しぶりに見れるんっすね! マジで楽しみっすよ!」


「あぁ、そうだな。だが、あいつが人を殴ると同時に変な煽りを入れる性格は理解できないが」


 勝負を決めるのは、次だ。



《【アジト】配置人数――第三階区10名 / 第五階区15名 》




 モニターに表示された『15』を見て、白石が「チッ」と舌打ちをした。


「切島さん、あいつらアジトに上限いっぱいの15人を突っ込んできやがりましたよ。 こっちは10人だ、人数の差で押し切られるんじゃ……」


「落ち着け、白石。所詮は廃棄物の群れだ」


 俺は微動だにせず、モニターを見据えたまま鼻で笑った。


「『CES』において、武断派エリートたちは平均的に能力が高い。俺がアジトに配置した10名の技術数値の平均値は60だ。つまり『600点』のスコアを叩き出す」

「そうっすね、第五階区は明らかに能力には劣ってますし」


「本来なら個人情報として、厳重に秘匿されているCESの個人データだ。特任教務委員会にいくらRを積もうが開示されることはない」


 だが、抜け道は存在する。


「俺は最も原始的で、確実な手段を使った――直接、あの九条、本人から買い叩いた」


「でもなんで九条なんすか?」


 白石が顔に疑問符を浮かべた様子で俺に質問をした。


「あいつはギフテッドの揺り籠……名門『九条』の出だ」


「九条……! あの社会的にも有名なとこじゃないですか!」


「2日前、お前らが浅原をハメる裏で、俺は密かに地下教室の『死角』に足を運び。数万Rの札束をチラつかせ、九条を呼び出した」


「結果はどうだったんすか?」


「奴は俺の提示額を聞く前に、ひどく退屈そうにこう言った。『角砂糖が切れた。2万くれたら、貴様に画面を見せてやる』とだけな」


 なぜ、俺がそこまで面倒な手間をかけてまで、九条のデータを探ったのか?


 ――恐ろしかったからだ。


 俺は将来、関東最大級の裏組織を背負う重圧の中で、血を吐くような思いで論理と帝王学を頭に叩き込んできた『秀才の極致』だ。


 だからこそ、息をするように正解を弾き出す、天才の才能が――俺の築き上げた完璧な数式を理不尽に破壊する『ノイズ』になることが、たまらなく恐ろしかったのだ。


「俺は、懸念材料である、九条を数値として把握し、封じ込める必要があった」


 俺の言葉に、白石が興味深げに身を乗り出す。


「切島さん、その数値はどれほどだったんすか?」


「いいか白石、奴の技術は16だ、そして唯一の懸念だった知力は20だ。笑えるだろ」


 それを聞いた白石は一瞬呆然として、すぐに腹を抱えて笑った。


「ギャハハ、マジっすか! 俺でも30はあるっすよ」


「……だが俺も、最初は九条が『わざと白紙解答をして数値を偽装したのではないか』と疑った。だが、すぐにその仮説は棄却した」


「なんでなんすか?」


 怪訝な顔をする部下に対して、俺は片方の口角だけを吊り上げた。


「学園のAIを舐めるな。白紙で出したり、適当に乱数で解答を埋めたりすれば、不自然さから即座に『異常値』や『意図的な手抜き』として検知される」


 ピースが嵌まる快感に酔い、俺は脳内に浮かんだ九条の陳腐な数値を嘲笑した。

「じゃあ、九条の奴はガチの無能ってことっすね!」


「ああ。システムが正当な底辺と評価した以上、疑う余地はない」


 執念の果てに九条から引き出したのは『技術16』という呆れるほど低い数字を見て、俺は深い安堵の息を吐き、そして確信した。


 九条拓人は、天才ですらない、ただの無能だ。その痛快な事実が、俺のエリートとしての自尊心を心地よく満たした。


 これで条件は整った。他の有象無象の底辺どもなど、もはや調べる価値すらない。 


 九条の総合評価の低さから逆算すれば、第五階区一つのステータスで出せる平均値など、高く見積もっても25から30程度。


「ゴミがいくら集まろうが。我が階区の精鋭10名が弾き出す強固な城壁には、どう足掻いても届かない。量より質、それが証明だ」


 俺の論理的な解説を聞き、白石たちも「マジで、流石ですね」と安堵の息を吐く。


 雨宮礼奈がどのような悪あがきをしようと、この壁は越えられない。



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