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【頭脳戦×下剋上】『絶対階区(カースト)のリーガル・ハッカー』 ~無能な魔王と健気な女王、底辺からすべてを奪う~』  作者: 盤上廻


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第25話【天堂璃王】作戦会議

 僕は教室の最後列、いつもパイプ椅子に腰を沈め、口の中でガムを転がしていた。


 ――翌朝、8時30分。第一回覇権闘争、決戦当日。


 地下教室に集合したクラスメイトたちの顔には、いまだ拭いきれない緊張と恐怖がベッタリと張り付いている。


「……これですべてのピースは揃ったわね」


 決戦へ向かう直前、琴吹がタブレットを片手に、教卓の前に立った。


「状況をもう一度整理するわよ。みんな、よく聞いて」


 彼女は、決戦のパニックで知能指数が低下している連中の脳内メモリを強制的にリセットするように、現在の状況を箇条書きで空中に投影した。


《敵の罠① サボタージュ(降参)したら全財産の半分を没収》

《敵の罠② 引き分けでも全参加者の全財産を半分没収》

《敵の罠③ 0名配置の合法化(誰も置かずに逃げられるが、特区は即座に奪われる)》


《対抗策 事前に全財産を唯さんの口座に隠し『残高ゼロ』の無敵状態に》

《隠し罠 コロッセオで私たちが『全員サボタージュ』し、相手が少しでも攻撃をすれば、相手のポイントがそのまま『マイナスに反転』する》


「俺たちは残高ゼロだから、降参ボタンを押しても没収される金がない! そして、コロッセオでビビってるだけで、相手が勝手にマイナスポイントを叩き出すってことか!」


 工藤が身を乗り出し、血色の戻った顔で叫んだ。


「バカ、早とちりすんな!」


 田中が工藤の頭を小突く。


「相手が俺たちの罠に気づいて、サボタージュして0対0の引き分けになっちまったら……雨宮の退学が確定しちまうだろ!」


 田中のもっともな不安に、教室が再びざわつきかけた。


 降参すれば安全だが、相手も動かなければ引き分けになる。こちらからは攻撃できない以上、勝敗は相手が自滅してくれるか、他力本願に委ねられているからだ。


「……そこが、この作戦の最大の懸念点よ」


 琴吹が眼鏡を押し上げ、苦々しい表情で田中の言葉を肯定した。


「相手の指揮官である切島は、冷静よ。この罠に気づけば、確実に『攻撃するな、引き分けに持ち込め』と指示を出す。それを覆すだけの確証は、私たちにはないわ」

「お、おい! じゃあどうすんだよ!」


 田中の一声でパニックが再燃しかけた、その時だった。


「大丈夫だよ、みんな」


 教卓の前に立つ雨宮が、凛とした声を響かせる。


「相手の象徴である八神さんが、目の前にいる私たちを無視して、おとなしく他人の『止まれ』っていう命令を聞くはずがない」


 雨宮は、自らに言い聞かせるように、真っ直ぐな瞳でクラスメイトたちを見渡した。


「ワガママと暴力性は、ルールを壊す……だから、信じて。彼女は必ず、私たち(・・・)を殴りに来る。なら、その殴られる相手は私が引き受けるから! みんなは安心して」


「……」


 不器用な連中の的外れな解釈、翻訳者である琴吹の冷徹な状況整理。そして、雨宮が語る暴力性へ脆い希望。その危うい熱狂を最後列のパイプ椅子から眺めながら、僕はガムをパチンと割り、心底気だるそうに立ち上がった。


 彼らはこの作戦の本質は理解できてない。


 まぁ、どうなるかは後のお楽しみだ。


「複雑なルールに見えるけど、私たちがやることは一つだけ……サボタージュを解除せず、動かないことよ」


 琴吹の念押しに、全員が力強く頷いた。


「行くよ、みんな!」


 教卓の前に立つ雨宮が、自らの首にギロチンを掛けているとは思えないほど、凛とした声を響かせた。


 僕は、自ら進んで犠牲の盾となるお人好しの女王と、それに付き従う不器用な劇薬たちの背中を眺めながら、心底気だるそうに立ち上がる。


* * *


 僕は、奥歯でガムを弾き潰した。その音を冷酷に掻き消すように、決戦の開始を告げるシステムアナウンスが、学園の空気を大きく震わせる。


 第五階区の生徒たちは、それぞれの指定された仮想特区への転送ゲートへと重い足取りで向かっていた。


「おい、雨宮。本当に大丈夫なんだろうな」


 コロッセオに向かう田中が、死刑台に向かうような青白い顔で雨宮に確認する。


「もし俺たちがビビってサボタージュを解除したら、唯ちゃんに違約金を取られて、退学なんだ……ヤクザに殴られるより、そっちの方が何百倍も怖いじゃねえか」


「大丈夫だよ、田中くん。だからこそ、サボタージュを解除しないで。目を瞑って、耳を塞いで、ただ時間が過ぎるのを待つの。私が、みんなを守るから」


 雨宮は、ふわりと、どこか悲しげで、それでいて有無を言わさない慈愛に満ちた微笑みを浮かべた。


「みんなが苦しむのを見るのは辛いの。だからお願い、私の勝手なワガママを許して、特区では動かないで、ね?」


 その言葉を聞いた瞬間、コロッセオに配置されようとしている生徒たちは、ビクッと肩を震わせた。


「わ、分かっているよ、雨宮。俺たち、動かない! お前を信じる!」


「最高だな」


 僕は、集団の後ろを歩きながら、口元を手で覆って極彩色の笑みを隠した。


 僕が書いた台本を、雨宮はお人好しな自己犠牲で無意識にコーティングしている。

自分が全リスクを負う不幸な盾になることで、クラスメイトの選択肢を奪い、結果的に自分の指示に従わせる独裁を無自覚に構築し初めている。


 僕は楽しみだ、雨宮が、コロッセオでどんな化学反応を生むのか。


 一方、そんな悲壮感漂う本隊とは対照的に、僕たちサロン特区組の3人は、ピクニックにでも行くような空気だった。


「ふぇ〜! サロン特区って、どんなところなんでしょうかぁ? 高級な茶器とか、ふかふかのソファとかありますかね? わたし、美味しいマカロンとお茶の差し入れ持ってきたんですよぉ!」


 手提げ袋を揺らしながらウキウキと歩く一色唯。


「お、本当に? マカロン食いたいね。唯ちゃん、あとで僕に一番でかいやつ頂戴ね」


「はいっ! 璃王さ、いや天堂くんには、特別にピスタチオ味をあげますねぇ!」


「……貴様ら、少しは静かに歩け。俺の鼓膜のカロリーが消費される」


 僕たちの後ろを、ダンボールを被りたい衝動を抑えきれないような猫背で歩く九条が、ノイズキャンセリングヘッドホン越しに毒づいた。


「ははっ、まあいいじゃん。僕らの行くサロンはきっと楽しい場所だからさ。完璧な密室で、最高のお茶会といこう」


 さあ、インテリヤクザさん。お前が積み上げた論理の城壁が、底辺の執念によって、無残に崩れ落ちる音を、特等席で聞かせてもらおうか。




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