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【頭脳戦×下剋上】『絶対階区(カースト)のリーガル・ハッカー』 ~無能な魔王と健気な女王、底辺からすべてを奪う~』  作者: 盤上廻


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第24話【天堂璃王】決戦までの日常

 僕は、口の中でペパーミントのガムを転がしながら、重く錆びついた第五階区の鉄扉を無造作に押し開けた。


「今頃、切島の奴、ドヤ顔でブラインド・パッチを誤読(・・)しているな」


 扉を開け、視界に飛び込んできた光景に、僕の奥歯でガムを噛み潰す動きが、ピタリと止まった。


「ゆ、唯ちゃん! 本当に申し訳ありません、俺の息づかいがうるさかったでしょうか? 今すぐ気配を消します! だから、後生ですから違約金100万Rの取り立てと退学だけはご勘弁を!」


「ふぇぇ! だ、だから何のことですかぁ! わたし、お金なんて貸してないですよ!」


 第一回覇権闘争、決戦前日の放課後。


僕の視線の先で、田中と工藤が、第五階区のポンコツである唯に向かって、ジャンピング土下座を披露している。


 当の唯は、自分に向けられた異様な恐怖と媚びへつらいの理由が1ミリも理解できず、後ずさりし――案の定、つまずいて、「あきゃっ!」と盛大に転んだ。


 その瞬間、彼女のブレザーのポケットから、ぽーんと『スマホ』が放物線を描いて飛び出した。


「お、おい! 唯ちゃんのスマホが飛んだぞ!」


「バカ、唯ちゃんはいい! 端末だけは死守しろぉぉ!!」


 工藤と、田中の二人が、血相を変えて床にスライディングダイブを敢行した。


 派手な摩擦音と共に、田中の両手は、一色の端末だけを床に激突するミリ単位の隙間で空中キャッチしていた。


「あ、あぶねえぇ! 液晶が割れるところだった……っ」


 田中はキャッチしたスマホを軽く撫でる。

「お前がコケるのはどうでもいい! だがな唯ちゃん、そのスマホの中には、俺たちクラス全員の金が詰まってんだよ! 落として壊れたら、俺たち文字通り路頭に迷って破産すんだぞ!」


「ふぇぇん! わたしの心配は一言もしてくれないんですかぁ!」


 涙目で抗議する唯をよそに、クラスの男子たちは「無事か!?」、「残高は消えてないか?」と、彼女の端末を国宝の壺でも扱うようにハンカチで磨き始めている。


「あははっ、傑作だな」


僕は思わず吹き出し、腹を抱えて笑いそうになるのを必死に堪えながら、いつもの定位置である教室最後列のパイプ椅子へと向かった。


 昨日の朝。クラスの連中は「切島に全財産の半分を奪われないために、規約を一秒も読まずに『R防衛プログラム』の緑色の同意ボタンを押した。結果、全員の財産が唯ちゃんのアカウントに集約され、彼らは物理的に「奪われるものがない無敵の人」になった。


 しかし昨夜、雨宮が僕のパッチ『弱者保護法』を通し、その追加条件のペナルティが公開されたことで、彼らは気づいてしまったのだ。


 もし負ければ、唯の月間配当が一年間ゼロになる。


そして、自分がタップした電子契約のスクロールの遥か下にあった、極小グレー文字の特約――サボタージュを解除して1ミリでも動いたら、極貧になった一色唯から違約金100万Rを取り立てられ、即刻退学になる死の存在を。


 自分が29人の生殺与奪を握る債権者になっている自覚が全くないドジな象徴と、不良に殴られる恐怖よりも「100万Rの借金と退学」にガタガタ震え、意地でもサボタージュを維持しようと(ゆい)に誓う底辺。


 これで、コロッセオにおけるサボタージュの強制ロックは半分完了した。


「おい天堂! てめぇ、何ヘラヘラ笑ってやがるんだよ! この女たらしクソ野郎」


 僕の笑い声に気づいた工藤は、親の仇でも見るような目で睨みつけてきた。


「お前なぁ、昨日も『僕はサボる』とか言って真っ先に金だけ避難させて、あとはずっと後ろの席で寝ていただけだろうが!」


 それは心外だ。クラスの命運を握る『重要な仕事(パッチせいさく)』をしていたぞ。


「僕みたいな無能は、サボるくらいが丁度いいんだよ、パレードの法則だ」


「俺たちは明日、第三階区の不良どもと命懸けの勝負をするってのに、お前は少しも雨宮を見習おうとか思わねえのかよ、この無能イケメン。クソ、顔がいいだけで女がよって来やがって」


「えー? だって僕、顔に傷つくの嫌だし、殴られるのも嫌だなぁ」


 僕は心底からめんどくさそうに手をひらひらと振った。


「考えてみろよ、僕みたいな身長だけ無駄に高い、貧弱が特区に出ても、足手まといになるだけでしょ?」


「なっ! お前マジでクズだな!」


「事実だよ。だから僕は、唯ちゃんと一緒に一番安全な特区で、優雅にお茶でも飲んでるよ。君たちはせいぜい、雨宮の指示通りに頑張ってね」


「このっ……! 顔が良いだけの寄生虫が! 今度、誰か女の子紹介しろよ!」


 工藤が怒りで顔を真っ赤にするが、隣にいた田中が「やめとけ、あんなクズに構ってる時間がもったいねえ」と彼を制止する。


いいよ、その調子だ。僕が「やる気のない無能なモブ」としてヘイトを集めれば集めるほど、僕の引いた『台本』の存在は誰の目にも留まらなくなる。


 王は、スポットライトの当たらない暗がりにいるのが一番居心地が良い。



 ――そして、僕は僕の為に動く。



 悪いな、工藤。僕だって好きで『ヒモ活』なんてやってる訳じゃないから、女の子は紹介できない。


「……うるさい。睡眠の邪魔だ。カロリーの無駄だろうが、このクズ共」


 不意に、足元からくぐもった声が響いた。僕のすぐ隣の席、その脇の床に敷かれたダンボールの上。


 ヘッドホンを被り、パーカーのフードを目深に被って丸まっていた九条が、不機嫌そうに身をよじった。


 彼はそのまま、ポケットから角砂糖を取り出し、ボリボリと直接かじり始める。


「おはよう、九条。角砂糖かじる音の方がよっぽどノイズだと思うけど」


「天堂……消えろ。俺は脳のアイドリング状態を維持している。貴様のようなヒモの極致と会話するだけで、俺のシナプスが無駄な電力を消費する、俺は寝る」


 九条はそう吐き捨てると、再び、ダンボールの海へと沈んでいった。


 今回のステータスの足し算ゲームにおいて、九条の『表向き』は低いCESのステータスの出番は終了(・・・・・)した。


 もう、おとなしく寝かせておくのが一番コスパが良い。


 僕は再びスマホに視線を落としつつ、机の下で、雨宮と繋がっているメッセージアプリの画面を開いた。


 ここで明日の最終配置、つまり算数の答え合わせをするか。


『雨宮。明日の30名の最終配置、指定した通りに入力したか?』


『ええ、さっき入力して、システムにロックをかけたよ』


『アカデミアに1名。アビスに1名。アビスの1人月野ちゃんは、捨てる形になるね』


『気が弱い、月野は魅せ駒だ。即サボタージュさせておけばいい、それが切島に対するブラフになる』


『ブラフ……月野ちゃんが怖がって逃げたように見せかけるの?』


『そうだ。ヤクザに怯えて震える彼女の姿を見れば、あのインテリは「俺の作ったルールが機能している」と勝手に錯覚して安心する。奴の確証バイアスを更に肥大化させるための、撒き餌だよ。別に無くても勝てるが、配置した方が切島に精神ダメージを与えて、後が面白いだけだ』


『……本当に、性格悪いね。でも、分かったよ』


『そして、私が引率する形でコロッセオに10名』


 僕は、画面の文字を見つめながら、脳内の深層で演算を回す。


『そこが今回のメインギミックだ。切島は自分の完璧な論理を信じ切っている。そこにお前らが10人で出向き、違約金の恐怖でガチガチに固まった全員サボタージュをぶつける』


『みんな、怖がっている。でも、私が守り切るよ』


『あぁ、任せた』


『そして、貴方が言ってた、本命の特区アジトには、木下くんや浅原くんなどを上限いっぱいの15名配置したよ』


『上出来だ』


 これで27名。


『雨宮、不測の事態に備えて、お前はクズどもを守ってやれ。精神的な意味でな』

『分かった、任せて』


『最後にサロン(対人)特区には、私からの指示通り、天堂くん、唯ちゃん、九条くんの3名を配置した。……これで合計30名』


 僕は、スマホの画面を見ながら、誰にも見えないように口角を歪めた。


『ご苦労さん。サロンは、おそらく切島が0名配置で切り捨てる特区だ。敵は一人も来ない。僕はあの(アホ)九条(ダウナー)を連れて、安全なサロンで、紅茶でも飲みながら高みの見物させてもらうよ』


 メッセージアプリを閉じ、僕は大きく伸びをした。


 僕たちが敷いたのは【1】【10】【15】【3】【1】一見すると素人が組んだようないびつで偏った陣形だ。


 だが、これこそが、敵を、関節技のように逆方向からへし折る『劇薬な配置』となる。


 盤面のセットアップは、終わった。



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