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【頭脳戦×下剋上】『絶対階区(カースト)のリーガル・ハッカー』 ~無能な魔王と健気な女王、底辺からすべてを奪う~』  作者: 盤上廻


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第18話【雨宮礼奈】ギロチン台

《条件の追加を確認。再査定を実行します》


 コンソールの光が、赤色から、安全を示す青色へとスッと反転した。


《第五階区リーダーの『完全な社会的死(退学)』および、象徴の『莫大な経済的損失』という極大リスクの担保を確認しました。これにより、本法案の非対称性は完全に相殺され、『両者にとって公平な等価交換』であると算術的に認定します》


《――要求コストを【150A】から、【10A】へと劇的に割引して可決します 》


「……じゅっ、10A?」


 千夏が、信じられないものを見るようにコンソールを見上げている。


「ウソでしょ。敗北時のリスクを乗せるだけで、AIが『これは公平だ』って錯覚した……」


「ふぇぇぇん! わたしのお小遣いはどこにいったんですかぁ〜!」


 唯ちゃんの配当がゼロになるのは、あくまで『学園からAに基づいた毎月新たに振り込まれるお小遣い』だけ。


 すでに口座に入っている『既存の預金残高』がシステムに没収されるわけじゃないから、みんなの退避資金の金庫としては無傷で機能する。


 泣き喚く唯ちゃんをよそに、私は画面の右下に表示された【同意して認証する】のボタンをじっと見つめていた。


 ……これを押せば、私は本当に、自分の首にギロチンの縄をかけることになる。

 もし負ければ、私の未来は終わる。永久ブラックリスト入りだ。


 私だけならまだいい、最悪、私の将来が終わるだけ、でも本土に残した幼い妹の未来も終わる。


 心臓が早鐘のように打ち、手足の先が氷のように冷たくなっていくのが分かる。

 怖い、本当に怖い。逃げ出したい。


 でも、私がここで自分の退路を塞がなければ、みんなの退路が塞がれるのだ。


 お母さん。私、間違ってないよね。誰も見捨てないって決めたんだから。


「私が、サインする」


 私は、一切の躊躇を捨て、コンソールのパネルに指を押し付けた。


《生体認証クリア。第五階区パッチ①『絶対的弱者保護法』の申請を受理。消費10A》


 システムのアナウンスが鳴り響き、私たちの最初の法案が確定した。


「……礼奈。あんた、本当に自分の命をチップにしたのね」


 千夏が、畏怖と悲哀の入り混じった瞳で私を見つめる。


 私は小さく首を振った。


「私だけじゃないよ。この法案には、唯ちゃんの『配当一年間ゼロ』っていうペナルティも含まれてる。……これが、狙いだから」


「礼奈の狙い? どういうこと?」


 私は、天堂くんから聞いた話を、千夏に説明する。


「今朝、クラスのみんなは『一ミリでも動いたら違約金100万R』という規約を知らせずに、唯ちゃんの口座に全財産を退避させた。でも、いざ明日の特区で第三階区の屈強なヤクザ達に囲まれたら、恐怖でパニックになって『サボタージュ』を解除して動いちゃう子が出るかもしれないでしょ?」


「ええ、人間の生存本能だもの。殴られる恐怖には勝てない可能性も出るわ」


「だから、このパッチが必要なの。もし負けたら、唯ちゃんが一年間収入ゼロの極貧生活になっちゃう。それを知れば、みんな『動いたら唯ちゃんを犠牲にしてしまう』って気づいて、絶対に踏みとどまってくれる。みんな、根はすごく優しい子たちだから」


「……あっ!」


 千夏がハッとして、隣で「えぐっ、えぐっ」と泣いている唯ちゃんを見た。


「礼奈、本気で言ってるの? それって、殴られる物理的な恐怖を、『自分が動いたら唯さんが極貧になり、違約金を取り立てに来て退学になる』っていう、確定した社会的死の恐怖と罪悪感で上書きして、意地でもサボタージュを維持させるってことでしょ?」


「ち、違うよ! 私はただ、みんなが怪我をしないように、安全な場所でじっとしていてほしいだけで……!」


「……礼奈は、わざと唯ちゃんを『最も恐ろしい債権者』に仕立て上げたのよ」


「さ、債権者? わたし、何か取り立てるんですかぁ?」


 クラスメイトの命運を握る恐ろしい存在に仕立て上げられている自覚が1ミリもない唯ちゃんが、首を傾げている。


 千夏の指摘に、私は胸がチクリと痛んだ。


 ……そんな恐ろしい縛り付け方、私は望んでいない。


 でも、天堂くんがくれたこの嘘があれば、絶対にみんなが怪我をせずに済む。


 それなら、私は何と言われても構わない。


「でも、礼奈。これじゃまだ勝てないわよ」


 千夏が冷静に指摘する。


「切島はバカじゃない。このパッチを見れば、私たちが『サボタージュしたらR没収』を恐れてサボタージュボタンは押さずにただ無抵抗でやり過ごそうとしていることに気付くはず。そうなれば、彼は『じゃあ放置すればいい』って判断する。私たちが全員無抵抗なら、相手がちょっとでも力を入れて運動エネルギーを『1%』でも出せば、安全に第三階区が勝っちゃうわ」


 私は、その指摘に静かに頷いた。


「……ええ。だから今回申請したパッチは、切島くんに『第五階区はサボタージュを使わずに無抵抗を維持しようとしている』と錯覚させるための、ただの撒き(フェイク)なの」


「フェイク……? じゃあ、本命は……!」


「私たちの手元には、まだ『90A』の統治権力が残ってるよ」


「まさか? 『カウンターパッチ』を作るの?」


 私は、端末の画面を切り替え、第二のパッチ申請フォームを開いた。


「違うよ、切島くんのルールを逆手にとって、自分からギロチンに首を突っ込ませるための、最悪の本命」


 私は、地下教室で気だるげにガムを噛んでいた天堂くんを思い出しながら、第二の法案の入力を開始した。


 みんなを無傷で守り抜く。そのために、あの悪魔みたいな台本(パッチ)を盤面に叩きつける。




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