第15話:100年分の軍資金、あるいはステージの買い付け
王国の歪んだ正義を目の当たりにし、王都を離れることを決めたショウとショーベル。 しかし、ただ逃げるだけでは終われません。
大金貨100枚。その重みは、俺の「成人男性」としてのプライドを粉々に砕くには十分すぎた。
ずっしりと重い革袋を手に、俺は震える声で隣の「億万長者」に問いかける。
「……ショーベルさん。これ、本当に俺が好きに使っていいんですか? 」
「かまわないぞ……それに、私はもう暗黒騎士ではない。追われる身だ。信頼できるパートナーに預けるのが一番だろう」
ショーベルの瞳には、まだ処刑場の光景に対する怒りの残り火が宿っている。
俺も同感だ。俺の大切な曲を、魔族をなぶり殺すためのBGMに使うなんて万死に値する。あの権三郎という男、歌のスキル以前にエンターテインメントへの冒涜だ。
「……よし、決めました。俺たちは一度王都を出て、あの『独立都市エトワール』に戻りましょう。あそこなら誰の目も気にせず、広大なスペースを確保できる。あそこを俺たちの『基地』にするんです」
「基地……? あそこならしばらくは安全かもな。魔王軍も放棄しているからな」
俺たちは翌朝、正体を隠しながら王都の商店街へと繰り出した。
普通の冒険者なら一振りで家が建つような名剣や、鉄壁の防具を買うところだろう。だが、俺が選ぶのは違う。
「ショウ、何を買うつもりだ? 武器か?防具か?魔道具か?」
「いえ、もっと大事なものです。――ここにある干し肉と小麦粉、あと塩と酒、保存のきく乾物をください」
店主は目を丸くしていた。
そりゃそうだ。地味な従者風の男が、一生かかっても拝めないような大金貨をテーブルに上げ、店中の食料を買い叩いているのだから。
「これだけあれば、俺たち二人がしばらく引きこもっても大丈夫ですね」
俺たちは食糧を買い込んだ。再び王都の門をくぐり、捨てられた街エトワールへの帰路についた。
たどり着いた古代図書館は、相変わらず静まり返っていた。
しかし、ここは平和の神の遺産が眠る場所だ。王国の奴らや他の冒険者が嗅ぎつけてくるか分からない。
「……ショーベルさん、俺、決めました。この図書館を俺たちの『拠点』にして、誰にも邪魔されないように独り占めしたいんです」
「独り占めか。だが、この巨大な建物を守り抜くには、私一人の剣では限界があるぞ」
「そこで、こいつの出番です」
俺は平和の神の『針と糸』を取り出した。
アイドル時代の俺は、衣装のほつれを直すたびに「この隙間がなければ完璧なのに」なんて思っていた。その執念を、今度は建物そのものにぶつけてみる。
(神様、見てるか。あんたがくれたこの道具……服を縫うだけじゃもったいない。この世界の『隙間』を縫い合わせてやるよ)
俺は図書館の正面入り口の「空間」に、銀の針を突き立てた。
チク、と手応えがあった。
透明な糸を空中に走らせ、入り口の右端と左端を縫い合わせるように手を動かす。
すると、どうだ。俺が縫った場所から空間が歪み、巨大な扉があったはずの場所が、ただの「動かない壁」へと書き換えられていく。
【スキル:神の仕立て(ゴッド・テーラー)が進化しました】
【効果:空間縫合】
「……!?ほんとにできた!」
「なっ……入り口が消えた!? ショウ、貴様、今何をした!?」
「入り口を『縫い閉じて』隠したんです。俺が糸を解かない限り、誰にも見つからないし、入れません。……これでここは、俺たちだけの楽園だ」
新しい楽園の入り口を縫合した後、俺はショーベルが引っこ抜いてきた「石板」を食い入るように眺めていた。
「……これ、やっぱりただの呪文じゃない。……ひょっとして歌詞か……?」
日本語の裏に刻まれていた奇妙な記号。韻を踏んでいるように規則正しい。「歌詞」が書かれているようにしか見えない。
平和の神が残した、神々の洗脳を解くためのメロディ。いや、歌詞のようなものはあとから追記されたものだ。言語が違って見える。
移住者が故郷を思い書いた物だろうか……?
「ショーベルさん、準備が整ったら、フェスをやりますよ。魔族も人間も、神様すらも腰を抜かすような、最高の復活ライブを……」
「スター……? よくわからぬが、ショウ。貴様がそうやって不敵に笑っていると、本当に世界が縫い変えられるような気がしてくるな」
29歳、成人男性。
最強のスポンサーと、神の針と糸、そして古代の楽譜。
そして何より、心強い「相方」を手に入れた。
俺の「反撃のアンコール」は、あの静かな廃墟の街から幕を開ける。
第15話をお読みいただきありがとうございました!
潤沢な資金で最高級の素材を爆買いしたショウ。 石板の裏に隠された「魔法の楽譜」の正体も見え始め、いよいよエトワールでの拠点作りが始まります。
次回、お楽しみに。
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※AIとの共同執筆作品となります。




