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手の鳴る方へ、尾を振る方へ  作者: 下山 辰季


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4・ひろった人間見守り隊

 霊犬モナカに眠りは必要ない。必要ないからって、やっちゃいけないってことにはならない。

 トウヤが眠る布団のそばで、体をふせていっしょに昼寝を楽しむことにした。

 心地良い眠りは、元気にすごすための基本なのだ!


 ――幸せな夢の中で、ふかふかの三角耳が近づてくる気配をとらえた。

 意識が現実へと戻る。あぁ、山より巨大なサツマイモを食べるぞー! ってところだったのに……。


 二つの物音。

 小枝が茂みに落ちる音。 

 小石が深みに沈む音。

 かさっ、とぷん、と離れの畳の上にするはずのない音がした。


 緑と青で彩られた二つの小さな人影が、畳の上に座っている。

 危険はない。親しくしてる小鬼だ。どちらもこの村の自然から生じた妖怪で、めちゃくちゃ格好良い枝と、すごくよく飛ぶ水切り石の化身である。


『ご苦労だったね』


 やっと寝ついた人を起こさないように、小さな声でむかえる。


『お安いご用ですよ! 親分!!』


 弾ける笑顔と大きな声の枝鬼。視線と手振りで石鬼がいさめた。


 小鬼二人には、かんたんな挨拶というか説明に回ってもらっていた。この村の神さまや名高い獣たちに、トウヤのことや扱いについて。私もまだわかってないことの方が多いんだけどね。

 長者屋敷にやってきたナゾの客人はモナカがお世話しています、と。

 挨拶は大事だ。


『……きっとこれからトウヤに関わっていく相手は増えていくだろうしね』


 今のところトウヤの心は落ち着いている。波風は立たず、ぴたーっとした感じ。凍った水たまりみたいにね。

 でも彼がもといた場所はかなり特殊だってことが、短い会話の中だけでもじゅうぶんわかった。トウヤが人間社会のやり方をしって生き直していくには長い道のりが必要で、そのお供は私以外にもいた方が良い。

 そばに寄りそっているのは霊犬モナカで、トウヤが必要とする癒しや学びに応じて村のみんなにも協力してもらう、って感じ。


『いつだってこの力をお貸ししますよ!』


 小枝の鬼がどれだけ騒いでも、トウヤは身じろぎ一つしなかった。声は聞こえているはずなのに。


『……生きてます?』


 何かと心配性で色んなことを気にし出すのが小石の鬼だ。深く眠ってるだけで、そんな死んでるわけないでしょ。……いや、でも、万が一ってこともあるし、こっちまで不安になってきちゃったな。

 枕元でトウヤの生存確認。小鬼たちもトウヤの顔をのぞきこむ。


『ほら。顔色が悪いですよ。血の気がない』

『いびきも寝言もなしで、静かな人ですねー!』

『大丈夫、ちゃんと生きてるってば』 


 トウヤのまわりに集まった今の自分たちが、なんだか保護したばかりの衰弱した鳥や獣を見守る人間たちの姿に重なった。




 二時間ほどして、トウヤが目を覚ます。まだお日さまは高い位置にある。

 本格的な睡眠には足りないけれど、これで丁度良かったのかも。日中に長く寝すぎて夜に寝つけなくなってもいけないからね。


 寝起きのトウヤはぼんやりして心ここにあらずといったありさまだ。

 さっきあんまり静かに寝ていたものだから死んでるんじゃないかって勘違いされてたけど、そう誤解したのも少しわかる。

 生きてる感じがどうも希薄な人なのだ。こういうことをどう表現したっけ。浮世離れしてる、とか。生活感がない、とか。


『おはよ。よく眠れた?』


「ごめんなさい、基準がわからなくて……。問題なく眠れていましたか?」


 そうきたか。そうか。そうだね。


『ぐっすり寝てたよ!』


 布団をすぐに押し入れに戻そうとするトウヤに待ったをかける。


『使ったものを片づけるのは立派な心がけだね。ただ、今しまっちゃうと布団にたまった湿気も押し入れに持ちこむことになっちゃうよ』


 掛布団をめくって、しばらく空気にさらすように伝えた。


『食欲ある? ご飯が用意されてるみたいだよ』


 トウヤが寝ている間に離れを訪れたのは、小鬼たちだけではない。長者屋敷の手配で、木のお盆に乗せられて軽めの食事が届けられている。

 おにぎり二個、玉子焼き、高野豆腐とシイタケの煮物。おにぎりの具はきっとシャケと昆布だ。中身を見なくても匂いでわかるよ!

 豪勢ではないけど、丁寧に作られた料理なのはわかる。


「ここで提供される食事は……丸薬でも粉状でも粥状でもないんですね」


 わー!

 アンタってヤツは、これまで和風ディストピア飯を食べてたの!?

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