著者:大吾「ハロウィンのような何かの日」
その国は原始的であった。文字も書けず、読めもしない者たちが、ただ飯を食べては寝るだけの生活を送っている。
その国の周りは海しかない。大陸から百キロ離れており、文明が流入してこなかったのだ。
その国に文化はなかった。何某かの技術を持った者も、それを後世に伝える手段は口伝だけであった。知能も低く、堪能な語彙を持ち合わせない彼らにとってみれば、技術などすぐに廃れるものであった。
ある満月の夜。その国の外から一隻の大型船がやって来た。荒れ狂う波を払いのける木造の船は、浜辺の砂浜に摩擦を起こし、船体自身を楔とした。
島の住人は、怪しげな来航に目を配り、遠くから眺めていた。安易に襲いかかることもしなかった。
住人が船を注視していると、中から四人の男が松明を持ちながら現れた。そして砂浜に降りると、辺りを見回した。そして残った船員にも降りるよう呼び掛けた。
船員たちは円になり、砂浜に座った。そして中心には、一部がくりぬかれたオレンジ色のカボチャを置いた。彼らは、島への到着を祝し、ワインを飲み始め、ひたすらに騒ぎまくった。
その様子を島の住人は快く思っていなかった。住人たちは、打製の石槍を持ち、慎重に船員たちに近づく。
すると、船員の一人が、「わぁぁぁぁああああああっ」と情けない声をあげながら、住人たちを凝視した。慌てて他の船員も住人たちを見るが、船員のリーダーの男は、怖気づいた態度を示さなかった。酒で意識が朦朧としており、島の住人をただのチンピラ程度にしか思っていなかったからだ。
「船長、酒弱すぎじゃないですか……?」
「弱くねえよっ! 死ねっ!」
船長は理性に歯止めが利かなくなった。彼は島の住人に易々と近寄り、自分の飲んだワインを一人の男に飲ませた。男は、初めてみるワインの泥のように美しさと匂いに興味津々だった。
男は飲んだ。そして呻った。あまりの美味さに、男と船長は手を握り合った。全くの別民族であるのにワイン一つ通して、友好的な関係が結ばれたのだ。
島の住人たちは、船員たちと一緒になり、夜が明けるまで騒いだ。
この日は十月三十一日。船員たちはハロウィンを祝っているのだが、島の住人にはそんなこと知る由もない。
しかし、この祝祭が島の住人には新鮮な体験を与えた。
翌日の昼。船員たちは島をあとにした。騒ぐだけ騒いで去って行った。
島の住人たちは、彼らが去る前に一つだけあるものを要求した。
「…………ゥ」
言葉は覚束なかった。そもそも言語が違うためまともにコミュニケーションは取れなかった。それでも前日のグラスを指したことで、船員たちにも彼らの望みは伝わった。
船員たちは最後に島に残していった。ワインがたんまりと入った樽を。
その国に暦はない。時間に付随するあらゆる概念を持ち合わせてはいない。祝祭の日は本来であればすぐに過ぎ去ってしまうもの。
それでも彼らは、あの祝祭の記憶を思い出そうとした。
およそ月に一度、満月の夜のみ、島の住人たちはワインを飲んで文化の感慨に浸る。
その国には、文化ができた。




