著者:吉ジョウジ「ハロウィンにかけて」
甲野君は椅子にもたれて天を仰いでいる。
―あーあ、もう何も考えられねえや。どんな頭のミソしてたらこんな仕事俺に投げんねん。こんなん日付変わるまでに終わるわけないやろ、普通に考えて。もー腹立つ腹立つ腹立つー。
薪をくべれば火が起こる。火をつければ熱が籠る。熱を加えれば水は沸く。甲野君のミソは沸騰している。秋嵐の蹂躙するを以ても、甲野君は静まらない。
―だいたい外がこれほど雨降ってたんなら、日付またいでも帰れへんやんけ。総武線止まってんねんコラ。はあーむかつくむかつくうーー。
雨降れば地固まると雖も、この男の軟弱な魂胆に注ぐ水滴など逆効果である。
「あ、甲野さん。お疲れ様です。こんな時間までご苦労様ですね」
ここに喜多さんである。軟弱な魂胆はすぐに緊張する。思えば、雨よりも魂胆を固めるのに適している。
「え、喜多さん。どうしたんすか、なんでこんなとこに、こんな時間に」
「へへっ、甲野さん。トリック・オア・トリート」
「はあ?」
「だから、トリック・オア・トリートですって。お菓子くださいよ。お菓子くれないなら、この企画書、休み明けまでに整理しといてね」
―畜生、こんな日やからって、どんないたずらも許されるわけちゃうぞ。仕事増えたし。トリックオアトリートちゃうて。デッドオアアライブやて。
ああ。甲野君の心は、もはや地滑りとなる。




